セガ製作・総指揮による女性向けアイドル育成ゲーム『Readyyy!(レディ)』。今回はそこに登場する5つのアイドルユニットのMV制作を紹介する。手がけたのは本誌ではお馴染みのダンデライオンアニメーションスタジオ。モデリングから演出までアーティストのこだわりを取材した。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 243(2018年11月号)からの転載となります。
TEXT_武田かおり / Kaori Takeda
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
配信:セガゲームス/価格:基本無料(アイテム課金あり)/キャラクター原案:えびら/キャラクターデザイン:森 光恵/キャラクター制作:Production I.G/MV制作:ダンデライオンアニメーションスタジオ
ready.sega.jp
アーティストの技量が光るフレッシュなアイドルたちの表現
『Readyyy!』はトップアイドルを目指す18人の男子高校生を5つのユニットとしてデビューさせ、育成していくスマートフォン向けゲームだ。セガゲームスより配信が予定されていて、キャラクター制作とオープニングアニメーションはProduction I.Gが手がけ、アプリ内MVをダンデライオンアニメーションスタジオ(以下、ダンデライオン)が担当している。
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左より、リードアニメーター・福井雄大氏、プロジェクトマネージャー・泉 貴也氏、演出&3DCGディレクター・西田映美子氏、リードコンポジター・川口紗希氏、リードアニメーター・伊東巧右平氏、リードモデラー・金谷翔子氏、テクニカルディレクター・常川隆弘氏(以上、ダンデライオンアニメーションスタジオ)
※ダンデライオンアニメーションスタジオでは現在、モデラーを募集中。詳しくはCGWORLD.jpまで。
2017年初頭にセガゲームスから企画の内容が伝えられ、全部で18人のキャラクター、5本のMVをつくることが決まった。本格的な制作は6月からスタートしたという。
ただし当時、企画は初期段階だったため、キャラクターのイメージは明確には決まりきっていなかった。キャラクターの原案はあったものの、公式絵や設計などはなく、Production I.Gによるラフ画とセガゲームスによる文字ベースのキャラクター設定しかない状況だったという。ディレクターを務めた西田映美子氏は「セルシェーディングのキャラモデリングは当社の強みのひとつですので、キャラの見え方などは任せてもらうかたちで制作を始めました」とスタート時期をふり返る。とはいえ、18体ものキャラクターを数枚の絵と文字ベースの資料だけでモデリングするのは難しい。スタジオのスケジュールもあり、モーションキャプチャのいくつかはモデリングよりも先行して収録したが、現場ではセガゲームスのプロデューサーと「このキャラならこう踊るはず」と詳細を考え、振付師やアクターたちと共有した。「アクターさんたちがキャラクターの個性を深く理解して臨んでくださったおかげもあって、モーションキャプチャ収録時にようやくキャラクターの個性が視覚化された印象があります」と西田氏。
こうしてモデリング工程は順調に進み、アニメーションの作成過程でも文字情報とアクターの演技、それにアニメーターの思い描くキャラクター像を合わせることで、キャラクターごとの性格が表れるような動きを付けることができた。華やかさあふれるアイドルの歌とダンスのMVは、ファンを魅了する出来映えになっている。
Topic01
キャラクターの情報や設定をモデルに盛り込む
キャラクターの見え方を模索しながらのモデリング
前述のようにキャラクターモデルは全部で18体をつくる必要があったが、当初はキャラクターデザインも衣装のデザイン画もない状態だった。キャラクターの設定もセガゲームスによる文字ベースの情報しかなかったため、モデラーが各自で原案や作画のラフを読み解き、イメージを集めて補完しながらモデルを作成していった。
リードモデラーの金谷翔子氏は「キャラクターの文字による資料はたくさんあったので、少しでも原案のイメージに近づけられるように、性格や生い立ちなどの情報をモデルに反映させていきました」と語る。キャラクターは、最終的にアニメーション作品として、レンダリングしたときに見映えが良くなるよう、それぞれ制作が進められた。1体のキャラクターを完成させるのにかけた期間は約1ヶ月。頭部に8日間、衣装に10日間、フェイシャルに3日間、そして微調整。「アイドルは顔が命です。中でも目は重要パーツなので、髪の毛で隠れすぎないようにしました」と金谷氏。制作についてはキャラクター資料に基づいたセガゲームスからのフィードバックに合わせて進められた。
セットアップに関しては「mcp」「fcp」「anim Pri」「animSec」という4種のアセットを使用している。「mcp」はモーションキャプチャの際に、リアルタイムでモデルにデータを反映させるのに使用するアセットだ。また、「fcp」はフェイシャルキャプチャ用のアセットで、あ・い・う・え・おの母音のターゲットが入っている。「animPri」(プライマリアセット)はキャラクターの四肢や顔を動かし、「animSec」(セカンダリアセット)は揺れもの関係を調整する。セットアップ担当の常川隆弘氏は「セットアップには1体につき、ひと月弱をかけています。いったん完成したものでも、実際にアニメーションを付ける際に要望が出れば応えていきました」と語る。アイドルらしい、指先や毛先の繊細な動きも非常に巧みに付けられているので、ぜひ実際のMVを確認してみてほしい。
セルシェーディングを得意とするダンデライオンならではのキャラクターモデル
アイドルユニットのうちのひとつ「SP!CA」の久瀬光希の表情集
久瀬光希のモデル。まず身長175cmのベースモデルをつくり、それぞれのキャラクター設定の体格に合うよう調整を加えて作成している
最終的なレンダリング。"爽やか笑顔の下町王子"という久瀬光希のキャッチコピーが立体で表現されている
ダンデライオンではアニメーションやルックデヴなどの後処理を踏まえて、細かなモデリングルールを定めているという
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アニメーション時に体のパーツを自在に調整できるよう、モデルの顔のパーツは全てオブジェクトで作成。影や二重ライン、目のハイライトも全てオブジェクトで表現されている
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髪の毛に関しては、シリンダー状の髪房ではプリミティブ感が出やすく、ライトを当てると見映えが悪くなりがちだ。平たく、かつ表面と影面をハードエッジで分けることで、ライティングしたときのCG独特の影を抑えている
「SP!CA」メンバーの目。「目力は制作の全ての工程で重要です。目だけでもキャラが立つようにしました」(金谷氏)
アニメーターファーストのセットアップ
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「animPri」はモーションキャプチャからのアニメーションをベースに肢体の基本的な動作、およびフェイシャルアニメーションを行うためのリグで、前述の「mcp」と「fcp」を合わせたような機能をもっている
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「animSec」は髪の毛や洋服、アクセサリーなど揺れもの関係のリグを追加したアセット。アニメーター側で修正できるレイヤー構造になっている。なお、指についてはシンプルなFKのみのリグを設定。「指の動きが滑らかなのは、アニメーターの努力の賜物ですね」(常川氏)
細かな調整も可能なフェイシャル
フェイシャルは大きく3レイヤーに分けて構成されている
最終的な絵に近づけるための、ブレンドシェイプターゲットを用いたリグ。「ブレンドシェイプやsoftModで顔を変形させても、skinClusterでウェイトが設定されたリグが変形に合わせて追従するのが特徴です」(常川氏)
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Topic 2 個性をより引き出すアニメーションや撮影での演出
Topic 2
個性をより引き出すアニメーションや撮影での演出
アクターの演技を参考にアニメーションへ落とし込む
アニメーション制作のおおまかなながれとしては、まずモーションキャプチャを行い、それを基にディレクターの西田氏がプリビズとして一連のカメラワークを切り、絵コンテに落とし込む。その後、アニメーターたちがプリビズのカメラを整理しながらレイアウトを作成して、アニメーション付け。さらにその後、データはコンポジターに渡され、演出効果を加えて完成となる。
なお、ダンデライオンでのアニメーション付けは3段階に分かれている。1段階目が体を動かし表情を加えるプライマリ。2段階目が揺れものを加えるセカンダリ。3段階目が作監修正を踏まえクオリティを上げるターシャリとなっている。レイアウト作成時のカメラワークについては、「ディレクターの西田から、『プリビズよりももっと良くできるという意見があれば柔軟に対応する』と言われていたので、ここはもっとクイックに、ここはこのキャラクターにフォーカスする、など映像に気持ちを乗せて盛り上がりをより伝えられるようにカメラワークなどを決め込んでいきました」と、リードアニメーターの伊東巧右平氏。
プライマリが終わった時点でシーンデータはいったん撮影チームに渡される。そして3人のコンポジターが2週間かけてBGとの合成、エフェクト演出を加えていく。リードコンポジターの川口紗希氏は「コンテに指示がある内容と、自分たちでこういうことをやりたいという提案を、2週間ほどかけて入れ込んでいきます」と説明する。全カット色が付いた状態、通称「オールカラー」でチェックを行い、西田氏から1カットずつリテイクをもらう。そこから1ヶ月ほどかけて詰めの作業を行いつつ、ターシャリのアニメーションデータと差し替え、最後の1週間で陰影表現やめり込み修正のためのレタッチを行い、完成となる。
モーションの収録とリファレンス撮影
モーションキャプチャについては、ダンスの収録はセガゲームスで、フェイシャルの収録はツークン研究所で行われた。アクターがキャラクターの性格を踏まえつつ踊り、基の振り付けと異なっていてもキャラクターの個性が際立つような演技をしてもらったという。画像はリファレンスを撮影したときのもので、カメラをファンに見立てて、アクターがファンサービスとしてカメラ目線を送る演技なども入れてもらった。こうしたリファレンス映像を参考に、落とし込めそうなところはアニメーションで落とし込んでいる
ダンデライオン流のアニメーション付け
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プリビズ。PV全体の演出的な部分を含めてカメラの方向性を決める
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プライマリアニメーション。プリビズのカメラを整理し、そのカメラに合わせてキャラクターの演技やフェイシャルの方向性を決め込む。「今回はキャラクターの性格や芝居の方向性などに固まっていない部分があったので、キャプチャ時にアクターさんの動きや表情芝居を撮影して、アニメーションの演技に落とし込んだものもありました」(伊東氏)
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セガゲームスによる作監修正
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ターシャリアニメーション。髪や衣装などの揺れものにシミュレーションで動きを付け、リグで動きを整理し、強調する部分は強調していく。その後、作監修正指示に沿って修正し、最終的な表情、ポーズの調整を行う。「顔まわりではリグで動かした後に頂点を調整して、キメ顔をつくり込んでいます」(リードアニメーター・福井雄大氏)
完成カット
キャラクター同士の絆や感情を伝える表現
「SP!CA」のMV。左がプライマリで右が完成カットだ。この場面では手前の2人がアイコンタクトをしたり、右奥の2人がハイタッチするアニメーションを追加で入れるなど、関係性がわかるようにシーンを設計している。左奥のメンバーがひとりで踊っているところもキャラクター性が出ていて面白い
ユニットのひとつ「Just 4U」のMV。「このカットでは『服をしっかり掴んでほしい』というオーダーがあったので、担当アニメーターが頂点を調整して対応しました」(福井氏)。左がプライマリで、リグのみでアニメーションを付けたもの。右の完成したカットを見ると、しっかり服を掴んでいるのがわかる
瞳がアップになる冒頭カット
特に力を入れたのが「SP!CA」MVの冒頭、瞳がアップになるカット
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プライマリ時のモデルのアップ。「より生命感のある瞳にしてほしい」というオーダーに合わせ、まずは形状や整合性は考えずに動きを作成。「カメラがここまで寄るのは想定していなかったのですが、イベントで先行公開が決まったカットだったため、完成度とスピードの両立を考え、このモデルを編集して対応することにしました」(伊東氏)
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セガゲームスによる作監修正。この修正に合わせてまつげの太さや本数、ながれなどをつくり直す
完成カット。ここまでの瞳のアップは非常に珍しく、印象に残る仕上がりになっている
Redshiftを活用したステージの制作
本作ではBGデザインも含めて受託しているため、ダンデライオン側で実在する会場をイメージしたステージを制作。モデリングは協力会社へ依頼している。また、レンダラにはRedshiftを採用。過去にはmental rayも使用していたが、担当者によってスケール感や奥行き、光の加減にばらつきが出る上に工数がかさみがちだった。しかし、2017年に『B-PROJECT』のイベントショートムービを制作した際、Redshiftの一括レンダリングでその問題を改善することができたため、本作でもRedshiftを継続して使用している。「Mayaの中で画づくりを完結しやすいですし、レンダリングが軽く、連番を出すのもスムーズで、メリットは多いです」(西田氏)
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BGのみのレンダリング画像。Beautyパス、およびマスクとリフレクション素材のみを出力している
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最終合成。Maya内で空気感を含めて画づくりをして、Redshiftでほぼ1発レンダリング。コンポジットでキャラクターや演出に合わせて、ブラッシュアップしている
「オールカラー」の段取りを採るコンポジット
コンポジットではまず、1カットずつつくり込む前に、ひと通り色を付けて並べる作業から始める。いわゆる色が付いた状態でのラッシュで、ダンデライオンでは「オールカラー」と呼んでいる。「1カットずつ見ても前後関係がわからなければ判断しきれないので、必ず並べて見ていますね」と西田氏。最初にオールカラーを行うことにより、一連の雰囲気を理解できて、盛り上げるべき箇所を把握しやすくなる、前後のカットで修正内容を合わせられる、など様々なメリットがある
「Just 4U」のMV。左は「オールカラー」で、カットに必要な要素を全て入れ込んだ状態。右が完成カット。強い光のインパクトで、アイドルたちを際立たせている
「La-Veritta」のMV。左が「オールカラー」で、エフェクトは全て入れられている。右がメリハリを付けて完成させたカット