若い世代のTAが、われわれと同じ道を歩む必要はない
C:四六時中、いろんなプロジェクトのいろんな人から問題が持ち込まれ、片っ端から同時並行で解決していくという点では、3社とも共通していますね。一方で、文面に書いた方の個性がにじみ出ている点が面白いです(笑)。この中だと、セガゲームスの事例が一番プロジェクト専属TAに近く、カプコンの事例が一番全プロジェクトを俯瞰(ふかん)する立場のTAに近いと言えるでしょうか。カプコンの事例の場合は、外部協力会社まで足を運び、しかもハードウェアに起因する問題解決までやっている点に驚きます。語弊があるかもしれませんが「何でも屋さん」と言っても過言ではないほど守備範囲が広いですね。
塩尻:実際、私はひとつの分野に秀でるのではなく、広い分野をカバーするゼネラリスト型だと思います。昔からカテゴライズが難しい働き方をしていたので、TAという役割が浸透する以前は、社内のある人から「塩尻マン」と呼ばれていました。
C:そのまんまですね。どういう経緯で、そういうネーミングになったのでしょうか?
塩尻:昔のカプコンでは、例えばキャラクターモデルをつくる人は「モデルマン」、モーションを付ける人は「モーションマン」、背景をつくる人は2Dゲーム時代の名残で「スクロールマン」と呼ばれていました。そんな中で「塩尻はカテゴリがわからないから『塩尻マン』だ」となったわけです(笑)。
C:カテゴライズ不可能な特殊スキルをもっていたわけですね。
▲左から、「塩尻マン」こと塩尻英樹氏(カプコン)、麓 一博氏(セガゲームス)、沼上広志氏(バンダイナムコスタジオ)
塩尻:「なんとかしてゲーム業界で生き残っていかなきゃならない」という危機感から、周囲の相談に片っ端から応じていたら、いつのまにかそういうカテゴライズをされる人間になっていました。例えば「DCCツールが起動しない」という相談を受けたとき、その問題がライセンス認証に起因している場合もあれば、CPUのドライバのバージョンや、グラフィックボードに起因している場合もあります。問題をいち早く解決するためには、機材のことも勉強する必要があったのです。さらに各ツールのサーバを立ち上げるときには、サーバ関連の知識も必要になります。物理的なサーバを新設するのか、仮想的なサーバにするのかの検討から始まって、アセットを共用するにはどうしたらいいのかなど、必要な知識は多岐にわたります。
沼上:私も「わかりません」と言ったら仕事がなくなるんじゃないかという危機感から、一所懸命いろんなことを調べてきましたね。その結果、塩尻さんと同じように、機材やネットワーク関係の相談にも応じられるようになりました。そこに詳しい人はプロジェクト内にあまりいないので、すごく重宝がられ、やりがいを感じ、さらに詳しくなって今にいたります。最近は「とりあえず、相談すれば何とかしてくれる」という認識が浸透し過ぎて、全然関係ない事務手続きまで聞かれることがあります(苦笑)。
塩尻:われわれ世代のTAは、そういうゼネラリスト型が多いですよね。昔はプロジェクトの人数が今より少なかったので、1人で何でもやらざるをえなかったし、業務に対する上長の理解が浅く、評価軸が定まっていないケースが多かったように思います。そんな極限状況だったから、鍛えられたとも言えますね。一方で、若い世代のTAがわれわれと同じ道を歩む必要はないだろうと思っています。最近は求められる技術や知識のレベルがどの職種でも高度化しており、それに伴うスペシャリスト化がTAにおいても進行しています。例えばカプコンにはアニメーションに特化したTAもいます。そのTAの場合は、すごくアニメーションやリギングに精通している一方で、それ以外はあまり詳しくないですが、しっかりプロジェクトに貢献し、評価もされています。
2年ほど前に私のチームに新人が入ってきたとき、最初は「何からやってもらおうか......」と悩んだのですが、「まずは武器をもってもらおう」と決めました。「Mayaに精通し、Mayaのツールをつくれるようになる」とか、「シェーダを極める」とか、先のアニメーション特化型TAのように、まずは1つの分野のスペシャリストになることから始めてもらうのが良いだろうと思ったのです。
C:大きいゲーム会社の場合は、人数が多く使える機材も豊富ですから、スペシャリストが活躍する余地もふんだんにありそうですね。新人TAの場合は、まずは武器となる専門分野でもってプロジェクトに貢献し、その後「塩尻マン」的なゼネラリスト型を目指すのか、何らかのスペシャリスト型を目指すのか、自分に合う方を選択すれば良いということでしょうか?
麓:それが自然なながれだと思います。これ(下図)は、とある大学で特別講義をした際に、TAの仕事のながれを解説するためにつくったスライドです。どんな分野から始めたとしても、TAを続けることは学習を続けることとイコールなので、着実に成長していきます。一足飛びに守備範囲が広がらないことはシニアTAたちだって理解しているので、焦ることはありません。われわれ自身、時代に乗り遅れるのは悔しいので、今も学習しながら仕事をしています(笑)。
▲麓氏が、とある大学で特別講義をした際に、TAの仕事のながれを解説するためにつくったスライド。「仕事の合間に学習を挟んでいかないと、時代に乗り遅れるといった話をする際に使いました」(麓氏)
C:わかりやすいスライドですね。TAの仕事を続けていれば、自ずと知識が増え、守備範囲が広がり、一人前になっていくわけですね。
塩尻:うーん。一人前の定義がよくわからないので何とも言えないですね。私自身、自分が一人前だと思ったことはありません。ほかの方を見て「すごいなあ」と感じることばかりなので、生涯一人前とは思えない気がします。ただ、ある業務を任せられるのが一人前だとするならば、プログラムやアート技能など、もともとの技能・素養の有無によって差はありますが、MayaやHoudiniを知らなくても、速ければ半年、遅くとも1年くらいで簡単な業務を任せられるようになると思います。