色の変更時には、色彩設計に追加発注することを徹底
CG映像を制作する場合は、アニメか否かに関わらず、まずはCGモデルの形状を決定し、色や質感を決定し、セットアップを完成させ、カット制作に入るのが、古くからある理想的なフローだ。ただし、実際には理想通りにいかないケースが多々あり、全てを同時並行で行うためのしくみが考案されたり、力技でなんとかしたりしている。本作の場合も、カット制作に入ってからCGモデルの形状、色彩設定、質感などの修正が追加されるケースがあった。
本記事で紹介しているゲド・バッカもそんなケースのひとつで、撮影後のラッシュチェック段階で色彩設定を追加・変更するフローをとっている。「CGカット制作の段階でOKとなっても、そこに撮影処理が加わると『思ったより暗いから、色を変更します』という判断がなされるケースもありました。動きのあるカットでは、CGモデルの色を変更した上での再レンダリングが必要になるので、終盤までCGモデルを調整していました」(長嶋氏)。
「撮影処理などで単純に色を調整するのは厳禁で、必ず色彩設計の柴田亜紀子さんに色をつくっていただくというながれが徹底されていましたね。あまり余裕のない中での進行だったので、CGモデル完成後のラッシュチェックのときには色のリテイクが出ないよう祈ってしまいました」(中尾氏)。このような経緯があったため、とりわけ登場カットの多かったゲド・バッカの色彩設定は22種類にのぼった。余談になるが、色のリテイク対応は作画カットにも求められており、こちらでも仕上のやり直し(色の塗り直し)が終盤まで発生したそうだ。
20種類超えの色彩設定への対応
▲改修後のゲド・バッカのチェック用ターンテーブル。ポリゴン数は約11万6千で、レンダリング時に3ds MaxのTurboSmoothモディファイヤを適用している。かなりハイライトがギラギラしているが、1度はこれでOKとなりカット制作に入った。しかし後日「ハイライトを抑えてほしい」という要望が出され、再度の質感修正が行われた
▲完成したゲド・バッカのCGモデル。「砂漠/大監獄フロアオレンジ」の色彩設定が割り当てられている
▲【左】先のゲド・バッカを表示した、3ds Maxの作業画面/【右】同じくワイヤーフレーム
▲再度の質感修正を経て、完成したゲド・バッカのチェック用ターンテーブル。先のCGモデルよりハイライトが抑えられている。既にカット制作も本格化しており100カット以上でリテイクが発生したため、本修正は急ピッチで行われた。また、CGモデル修正では対応しきれない影とハイライトのリテイクは、先に紹介したランスロットsiNの場合と同様、3ds Max上でカメラマップを適用したり、After Effects上でマスク修正したり、後工程で作画スタッフに上からレタッチしてもらったりして、カット単位で臨機応変に対応している
▲ゲド・バッカの改修を進めている最中、その色彩設定が20種類を超えることが明らかとなった。単純にモデルデータを増やせばデータ量が膨大になるのに加え、管理が煩雑になるため、長嶋氏によるCGモデル修正と並行して、別のスタッフが色替えのための新たなしくみを考案した。上の作業画面にあるように、色彩設定の色をそのままテクスチャとして取り込み、Pencil+ 4マテリアルに割り当てている。「セルシェーディングのベタ塗りの質感だからこそ可能な方法です。ゲド・バッカの全身のUV展開を使い、あらかじめ色の配置を指定するマスク画像を用意しておき、制作するカットに応じた色彩設定の色をマスク画像に適用しています。この方法であれば、テクスチャを1枚差し替えるだけで、20種類超えの色彩設定に対応できます」(長嶋氏)。当時、長嶋氏はセットアップ改修や質感調整だけで手一杯だったため、色替えのアイデアを出してくれたスタッフのがんばりに助けられたとふり返る
▲【左】ゲド・バッカ「砂漠/基本色(ノーマル)」の色彩設定/【右】同じく「砂漠/大監獄通路」の色彩設定
▲【左】ゲド・バッカ「迷彩/基本色(ノーマル)」の色彩設定/【右】同じく「迷彩/大監獄通路」の色彩設定
▲【左】ゲド・バッカ「都市/基本色(ノーマル)」の色彩設定/【右】同じく「都市/大監獄通路」の色彩設定
▲ゲド・バッカの色彩設定の全パターン。基本色は「砂漠(茶色)」「迷彩(緑色)」「都市(青色)」の3種類だが、「大監獄通路」「大監獄フロアオレンジ」「大監獄フロア緑」「夜色」「日の出前」など、場所や時間帯に応じた色彩設定が数多く用意された。さらに特定のカット専用の色彩設定までつくられた結果、その総数は22種類となった。なお、大監獄(だいかんごく)というのは本作に登場する地下空間のことで、その暗さとムードを表現するため、ほかのシーンよりも暗めの1号影、2号影が設定された
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