ポーズ練習には自分の絵柄は使わない
ポーズの考え方ですが、日常の動作はできるだけ省エネで、格好良いポーズをとらせたいときには可動域をめいっぱい使うというのがコツです。そして、腕だけ、首だけ動くということはなく、振り向くだけの動作でも脚の筋肉が動くこともよくあります。
これを絵で練習する場合ですが、いつも描いている絵柄で描くと、頭部を描いて...首を描いて...腕を描いて...といつも通りに進行してしまい、せいぜい腕がちょっとポーズを取っているだけの硬い絵になりがちなため、思いきってデフォルメして練習したいと思います。
さすがに棒人間にするとわかりにくいので、以下の作例のような人物にしてみて、写真を基にしたり、自分でポーズをとったりして、様々なポーズを描いてみましょう。写真を基にするときにも、平面から平面に描き写すだけでなく、自分で動いてみることが理解の助けになります。
▲子供の写真がお勧め。手足が長くないので描きやすい。筋肉や骨は完全に覚える必要はありません。参考になるのは、アニメーターのスケッチ集や手塚治虫などの5頭身くらいの時代の絵。個人的には北斎漫画も見てほしいところです
このくらいなら気軽にできますね。可能なら素早く描くと、全身の動きのながれがスムーズになります。手先から足先まで、そのキャラクターが「こう動きたい」という意思がみなぎっているように、さらさらと描けるように練習しましょう。
例えば、手を挙げる動作のときにも、軽く手を伸ばすのと、気持ちが先行して「あれを取りたい!」と手を挙げるときでは筋肉の動き方がまるでちがいます。友達に手を振るつもりで軽く手を挙げてみてください。手から先に挙がり、腕が付いてくる挙げ方だと、恐る恐る手を挙げる感じが出ます。手とひじが同時に挙がると、よく知っている友達に手を振る感じになります。では頭上に飛んできたボールを取ろうとすると......手と同時、場合によっては手より先に足も背中も肩も動きませんか?
自分で何度も演技してみましょう。鏡があれば鏡の前でやってみるとよりわかりやすいですが、鏡がなくても自分の身体の筋肉がどう動くか、どう反応するかを自分自身の身体で味わいながら動かしてみます。
それを、絵にするのです。
スポーツなどのダイナミックな動きは写真を資料として使うと思いますが、このとき、上で述べたように全身がつながっていなければおかしな動きになります。頭の先から足先までつなげて描くようにします。パーツごとにそれぞれちがう写真を使ったために不自然になってしまうというケースがよく見られますので、別の写真を合成して描くことは避けてください。
ライフモデルを描いてみよう
写真などで練習するだけでなく、ぜひライフモデル(リアルな人物モデル)を描くことにも挑戦してみてください。クロッキー会を利用しても良いですし、電車や公園でスケッチをしてみるのも良いでしょう。
クロッキー会は、ライフモデルが少しの間動かないでポーズをとってくれるというメリットがあります。たいてい5分~20分ほどモデルさんがポーズをとってくれます。絵を描くには短い時間ですが、実際に人間がそれほど長い時間じっとしてくれることはありません。
実際の人物やモデルさんを描く際は、電車の中などでない限り、大きめの紙に描くことをお勧めします。最低でも普段描いている絵より大きい紙にしてください。また画材を変えてみたり、描き手順を変えたりといった工夫もしてみます。目的も変えながら描きます。今回は人体のプロポーションをしっかりとろう、次は格好良い線で手数を減らして一発で描こう、その次はスピードを上げて......という風に、目的をもって描いていきます。
初回に述べたように、どうしても人物画は記号化したものを手癖で描いてしまいがちです。普段より少し大きい紙、ちがう画材、様々な描き方を試すというのはストレスがあるのですが、自分のできる範囲のことをただ繰り返していても上手くなりません。少しだけ負荷をかけながら人物を描きとっていくという作業は、人物画においては特に上達が早くなると思います。練習と割りきって、いつもとちがう気分で描いてみてください。
練習と作品は別のもの
今回と前回の練習方法はぜひやってみていただきたいのですが、これはあくまで練習です。そこでわかったことをダイレクトに作品に活かそうとすると作品に無理が生じたり、作品をつくろうとする情熱に水を差したりします。練習は練習と割りきり、それが筋トレのように身体をつくり、気がつかないうちに作品に活きてくるというのが一番良い形です。
▲【左】前回掲載した頭蓋骨の資料から油粘土でつくった模刻(講師作品)。立体のものを見てつくったわけではないので多少のデフォルメはありますが、平面から立体を起こしてみるのも面白いです/【右】クロッキー会。講師がおらずお互いの作品を批評するタイプと、講師が教えるタイプがあります
普段やってみないことも練習ではやってみて損はないと思いますので、人型キャラが描きたい方もライフモデルを描いてみると良いと思いますし、リアルな人物画を描きたい方もデフォルメに挑戦してみてほしいと思います。また粘土を使って立体で理解をすることや、クロッキー会でほかの方の絵を見ることも糧となるでしょう。
練習もできるだけ楽しくやるように、工夫しながらやってみてくださいね。
本コラムは以上です。お付き合いいただき、ありがとうございました。
・No.1 人を描くのは難しい?
・No.2 キャラ描き分けに効く!頭蓋骨スケッチ
・No.3 人物が描けない理由は、想像力の欠如だった!?
プロフィール
成冨ミヲリ
トライトーン・アートラボ代表
アートディレクター・プランナー。ゲーム会社、コンテンツ制作会社を経て、有限会社トライトーンを設立。富士急ハイランドや商業施設の企画デザイン、集英社のCMやドキュメンタリーTV番組におけるCG制作、アニメDVDの監督など幅広く活動。そのほか、デッサン技法書の執筆、音楽・小説などの制作もしている。著書に『絵はすぐに上手くならない:デッサン・トレーニングの思考法』(2015/彩流社)がある。