こんにちは。プロ向けデッサンスクールトライトーン・アートラボの成冨ミヲリです。前回は人物を描くにあたって、なぜ自分の描く人物が下手に見えるのか、本物の人体は描いた方が良いかという点について触れました。それを受けて今回は実際の練習方法について解説したいと思います。前回、頭蓋骨と全身の骨格見本の資料、鏡を用意してくださいと書きましたが、手に入らなかった方のために、資料も用意しました。頭蓋骨や骨格は男女や人種によってちがいますので、可能なら手持ちの書籍やネットで複数のものを用意すると良いでしょう。

では今回は頭部についての練習です。おおよそ2時間ほどで終わりますので、ぜひ読むだけではなく、実際に描いてみてください。

TEXT_成冨ミヲリ / Miori Naritomi(トライトーン・アートラボ
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

頭蓋骨を描く意味はあるの?

自分が描きたいのはイラストや漫画の人型キャラであるという方は、頭蓋骨を描く理由がわからないと思います。なぜならば、前回述べたように顔は最も記号化されていて、本物の人物とはかけ離れたものだからです。

身体を描くのは難しくても、顔であれば、描き慣れた角度や得意なキャラならうまく描ける方が多くいます。例えば、若い女の子なら描けるとか、よく模写していた漫画のキャラなら描けるというわけです。

今回、頭蓋骨を描く理由は次の3つです。

【1】実際の人物と自分の絵の相違を知る
【2】描ける絵柄を増やす
【3】キャラクターの描き分け

まずは難しく考えなくて良いので、【1】をテーマに描いてみましょう。その際、【2】と【3】も同時に解決することが多いからです。

頭蓋骨をクロッキーしてみよう

▲頭蓋骨の資料です。手持ちのものがない方はこちらを使用してください


まず、資料を見ながら、頭蓋骨を描いてみます。頭蓋骨ひとつを15センチ以上の大きさくらいには描いてください。この時に注意する点は、写真の模写を目的としていないので「立体を理解するための陰影以外は描かなくて良い」「眼窩(がんか:眼球が入っている穴)や鼻の中など、表面に出てこない部分は描かない」「ちょっとした小さな凹みなどの細かい情報は拾わないようにする」ことです。「その頭蓋骨のみがもっている情報」を拾わずに、広く頭蓋骨について知っておく程度に留めます(このとき、複数資料があると、見比べることができます)。また、横と正面の写真を見ながら、自分の顔も触って、どんな立体なのか把握してください。

早い方なら15分~30分程度でできると思います。ゆっくりでも良いので、骨のこの部分はここかな? と自分の顔を触りながら見つけていきましょう。余裕がある方は、斜めの頭蓋骨も想像しながら描いてみると、より理解が深まります。

▲表面(皮膚の直下)に出てくる部分がわかれば良いので、このくらいの描き具合でOKです


では、次に肉づけをしてみましょう。ここでも自分の顔が大活躍です。顔を触ってみて、肉が厚くついているところには厚めに、骨が触れるほど薄くついているところは骨のすぐ上に皮膚がくるようにしてみます。だんだんと人物の顔になってきます。さて、この頭蓋骨の主は、男性でしたか? 女性でしたか? どんな顔立ちでしたか?

私たちは学者ではないですから、骨から正確な顔立ちを読み取らなくて構いません。また肉のつき方は様々ですから、頭蓋骨の上に肉がちゃんと乗っていれば、できあがりの絵がそれぞれちがうものになっても構いません。楽しみながら、こんな顔なのかな? と想像しながらやってみましょう。

▲注意すべきは鼻の骨。鼻は軟骨でできているため、骨は途中までしかありません。自分の顔を触ってみるとわかるはず。この骨のもち主はずいぶんと鼻が高いようですね


どうでしょうか。平面である写真を見て、立体である自分の顔を触って描くと理解が深まったと思います。しかし普段描いている絵柄とはちがい過ぎて、人型キャラとの関連性はまだわからない方もいることでしょう。

では今回のクロッキーと人型キャラをつなげてみましょう。

リアルと理想の間をつなごう

頭蓋骨の資料で学んだことを活かして、中にちゃんと頭蓋骨が入っている人物を描いてみましょう。その後に、自分が描き慣れている人物イラストを、同じ角度で描いてみましょう。自分の好きな描き方で構いません。ややリアルな絵でも良いですし、デフォルメされた人型キャラでも良いです。

さて次に、先ほどのリアルな頭蓋骨に肉づけをした絵と、自分の絵の中間を描いてみましょう。自分の描きやすい絵に少しだけリアルさを足してみて、さらに足して...と、何段階か描くとわかりやすいと思います。

どうでしょうか。自分の手癖がわかったのではないでしょうか。間違って覚えていたところと、知らなかったところ、リアルな形を知っていたけれどもあえてデフォルメしていたところが明確にわかりますね。そして、先ほど描いてみた中間の絵はどうですか? 自分の絵柄として使えそうなものはありましたか?

▲たいていの場合、リアルとデフォルメで一番ちがうのは目でしょうか。普段のイラストで目を大きく描く方は多くいると思いますが、眼球が入っているように描くだけでも雰囲気が変わります


描きたいイラストが比較的リアルな人物画であるという方も、こうやってみると自分の手癖で描いている部分がよくわかります。どんな人物を描いても顔が似通ってしまうという場合は、手癖と記号化が強すぎる可能性が高いので、様々な資料を使って、頭蓋骨や写真、実際の人の顔を見比べて描いてみましょう。

この時点で描ける人型キャラが増える方も多くいます。若い女の子しか描けないと思っていた方も、男性や子供などを描くことが楽になるはずです。では最後に、骨格を元にしたキャラの描き分けをやってみましょう。

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キャラの描き分け ~肉のつけ方と重力~

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キャラの描き分け ~肉のつけ方と重力~

肉のつけ方は自分の顔を触ってと述べましたが、顔も全身も考え方は同じです。全身について今回は触れませんが、基本は「皮膚のすぐ下に骨がある部分は、何があっても肉がつきにくい」と覚えてしまうのが早いです。肉がつかない場所は、可動部分であることがほとんどです。ひじやひざ、鎖骨、骨盤、くるぶし、指の節などを触ると固い骨に触れることができます。

顔は可動部分と関係なく肉づきがない部分もありますので、触りながら確認しましょう。耳に近い部分のこめかみ、耳の近くの頬骨は可動部分ではないですが肉がつきにくいですし、眉毛もそうですね。下顎骨と呼ばれるあごの骨は、耳の下あたりの「えら」にあたる部分も、下あごの一部も骨に触れることができます。

では肉のつけ方を変えながら顔を描いてみましょう。

▲アナログの場合はライトボックス、デジタルの場合はレイヤー分けをして、頭蓋骨に肉をつけたり、重力で下に引っ張ったりしてみましょう


頭蓋骨にうっすら肉をつけたものを描くと、かなり痩せた人物が描けます。太っている場合は骨に触れるところには肉はつけず、それ以外に肉をつけると正確に太らせることができます。

太ると目や口などの穴が周囲に押されて少し小さくなり、頬や首の下はかなりの肉がつきます。下あごは触ると骨がわかるところがちょっとありますので、そこだけ肉がつきにくく、後はつくので二重あごになります。

最後に表面の皮膚や肉を重力で下に引っ張ってみましょう。こうすると高齢の人物を描くことができます。目や口も下に落ちますが、眉毛や歯の位置は変わりません。若い顔にただ皴を描いただけの絵とちがって、リアルに歳を取らせることができます。

▲高齢者は横から見るとわかりやすい。同じ人物を太らせたり高齢にしたりしてみてください


頭蓋骨を使って絵を描くのも、なかなか面白いものです。イラストから遠いと思っていたものが、骨からデフォルメまでつなげて描いてみると、自分の中で一本芯が通るようになってきます。

普段描くイラストや絵画は自由です。デフォルメしても良いし好きに描いて構わないものです。それでも本物を知っておくことは懐の深さにつながります。知るだけでも描ける人物がどんどんと増えていきます。

次は全身と、ライフモデルの描き方についてお話したいと思います。
また次回にお会いしましょう!



第2回は以上です。
・No.1 人を描くのは難しい?
・No.2 キャラ描き分けに効く!頭蓋骨スケッチ
・No.3 人物が描けない理由は、想像力の欠如だった!?

プロフィール

成冨ミヲリ
トライトーン・アートラボ代表

アートディレクター・プランナー。ゲーム会社、コンテンツ制作会社を経て、有限会社トライトーンを設立。富士急ハイランドや商業施設の企画デザイン、集英社のCMやドキュメンタリーTV番組におけるCG制作、アニメDVDの監督など幅広く活動。そのほか、デッサン技法書の執筆、音楽・小説などの制作もしている。著書に『絵はすぐに上手くならない:デッサン・トレーニングの思考法』(2015/彩流社)がある。