『ニンジャバットマン』アニメーションメイキング<2>
奇天烈な表情を生み出すフェイシャル
アクションのケレン味だけでなく表情芝居においても坂本氏にはこだわりを発揮しており、特にジョーカーというキャラクターは正統派のヒーローのバットマンとは対象的にトリッキーで変幻自在な表情や動きを求められていた。その表情芝居の要になるフェイシャルリグに関しては、数十種類のモーフターゲットをミックスした上にボーンでのリグも構築、シーンによって異なる表情演技に対応できるように坂本氏自身が直接モーフターゲットの監修・管理を行い、ダイレクトに演出要件を満たすような布陣で挑んでいる。
ジョーカーらしい芝居の追求
ジョーカーの身体表現についても「ピエロっぽい芝居」というテーマで役者の方に演技をしてもらい、坂本氏はそこから表現のヒントを吸収している。例えば体の四肢の動きだけでなく、細かい手クセの印象的な小芝居の部分など、指の1本1本までトリッキーなジョーカーらしさを追求した。ケレン味のあるアニメーション作品でのリアルを追求するには、「実際に自分が動いて演技してみる」だけでなく「役者の演技を徹底的に研究する」ことも重要。
殺陣監修:今西哲也(婆沙羅エンターテイメント)
ジョーカーの悪役としての素顔
ジョーカーのジョーカーらしい奇天烈な表情変化も見どころだが、対象的にシリアスなシーンの表情変化にも坂本氏の熱意が込められている。「特に力を入れたのが『ジョーカーはバットマンを殺せるが、バットマンはジョーカーを殺せない。だから俺(ジョーカー)が勝つんだ』という、ジョーカーの顔がアップになる場面です。『初めて素の表情を見せるジョーカー』という表現は絶対にきっちり押さえたかったので、かなりこだわりました」と坂本氏はふり返る。その言葉どおり、恐ろしいまでの口の開き方や髪の毛のうねりでその心情を強烈に表しており、悪役としてのジョーカーの見せ場を見事に演出している。
TCB曲線によるグラフ編集
坂本氏をはじめ、YAMATOWORKSで使用しているメインツールはLightWave 3D。シンプルな操作と軽い動作、リーズナブルな価格、高速なセル調レンダリングが可能で、キーフレーム操作ではベジェカーブなどのUIを使用してアニメーションを付ける。中でも坂本氏は、TCBを使ってキーフレームの操作ができる点がお気に入りだそうだ。TCBとはTension(テンション)、Continuity(連続性)、Bias(バイアス)のことで、キーフレームの前後の動きを2種類の各パラメータの数値で操作して補完するキーフレーム補完方法であり、より正確な細かい数値でアニメーションカーブを表現できる部分が利点とのこと。ちなみに良い画がつくれればIKやFKといった手法にはあまりこだわらないという坂本氏ではあるが、本作は基本的に嘘のパースでも調整しやすいFKベースで作業を行なっているという。
YSプラグインの活用
坂本氏が所属するYAMATOWORKSでは、メインツールのLightWave 3Dを使うにあたり、現場の意見をダイレクトに反映したプラグインもリリースしている。YSプラグインと名を冠したこのツール群は、YAMATOWORKSとサブリメイションで共同開発しているもので、その両社の頭文字をとって名付けられた。LightWave 3Dの日本のサポート元でもあるディストーム社のサイトからも無償でダウンロードすることができる(www.dstorm.co.jp/dsproducts/FreePlugins/ysplugin.html)。例を挙げると、キャラクターのポーズ反転をボタンひとつで制御する、ボーンの変形の値をプリセットとして保存する、キャラクターの選択を容易にするマネージャー、パネル上でボーンを選択できるセレクター、キーフレームを階層やチャンネル別に選択して登録する、などのツールがある。作業効率と時間短縮につながるツールを現場発信で開発・公開している点も、坂本氏ひいてはYAMATOWORKSそのものの強みと言えるだろう。