自身がCGI監督を務めた短編『九十九』がアカデミー賞ノミネートを果たすなど、森田修平監督率いるYAMATOWORKSの中で随一の実力者と言えるのが坂本隆輔氏だ。近作『ニンジャバットマン』を例に、その人物像とアニメーション技術に迫る。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 250(2019年6月号)からの転載となります。

TEXT_峯沢琢也
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

千本ノックで鍛えられたアニメーターとしての挟持

坂本氏の歩んできた足跡をまずは辿ろう。坂本氏がアニメ業界を志したきっかけは、専門学校のCGアニメーション専攻で作画や手描きのアニメーションの授業があり、そこで深く興味を抱いたことだという。卒業後にはそのままアシスタントとして学校で働きながら、年間8本というハイペースで自主制作作品を制作していた。同じ頃、『FREEDOM』のプロジェクトが起ち上がり新人スタッフを募集していたところ見事、森田修平監督(YAMATOWORKS代表)の目に留まり、そのまま2年半を『FREEDOM』の制作に捧げることになる。森田氏の意向もあって何にも染まっていない新人をゼネラリストとして育てていくという方針であり、坂本氏は「僕はまさに真っ白なキャンバス、乾いたスポンジ状態だったので、うってつけだったと思います」と当時をふり返った。

このプロジェクトでの修行とも言える厳しい経験が坂本氏のベースになっており、森田氏からは手取り足取りアニメーションのいろはを教わりながら「とにかく自分で動け、演技しろ」という指導を忠実に実行していくことで、森田氏からも「『FREEDOM』で最も化けた新人」として信頼の厚いアニメーターへと成長。坂本氏が動かした表情は"坂本顔"として評価されるほど、カタいと言われがちなCGアニメーションの世界で自身の個性やエモーションを表現することに成功していく。また、当時は誰がカットをいくつこなしたかという一覧表が社内に貼り出されており、優秀なアニメーターを指す指標として見られていた。膨大なカット数をこなしていく作業は「千本ノック」と揶揄されるほどのハードワークで、ここで坂本氏はひと月に30カット以上を叩き出していた。「誰よりもカット数をこなしてきたという自負があるので、その対応力=スピードが持ち味として磨かれていったと思います(笑)」と、坂本氏は自身の強みを語ってくれた。

その後、数々の作品に関わることになる坂本氏は、監督や作品ごとの方向性をきちんと理解することに努め、求められることの重要度を「優先順位のピラミッド」として整理しているという。「言われたことを忠実にこなすだけでなく、何を気にしているのか、どういうリアクションが必要なのかなど、作品として監督さん・演出さんが求めているポイントを理解した上できっちり表現することが最優先。その上で自分なりの芝居を上乗せしていくことが重要です」と自身のポリシーについて語ってくれた。

Q&A ●経験年数:約14年
●使用ソフト:LightWave 3D
●アニメーターという職種を選んだ理由:止まってる絵よりも動いている絵の方が好きだったから。アニメは総合芸術。つくっている側も観ている側も感動が大きい
●得意な分野、自分の武器、持ち味、強み:アクションカット。手が早いこと
●アニメーターとしてのポリシー:監督、演出さんのイメージをしっかりと理解する。その上でアニメーターとしてのエッセンスを加えるためのバランス感覚をしっかりもつ
●尊敬するアニメーター、もしくはライバル:上手なアニメーター全般。一線で活躍されている方は山ほどいるので、どの人と限定して言えない
●好きな作品:『ふしぎの海のナディア』。僕のやりたいことが全て詰まっている。画も好きだし、各キャラのセリフや芝居が役として自立している
●最も過酷だった現場:トラブル対応で48時間寝ずにほとんど中腰状態で作業を続けていたら、最後パタパタと人が床に倒れていった。完全燃焼ってこのことかと(笑)
●失敗談とそこから得た教訓:無茶は良くない(笑)。日本のCGアニメ業界は発展途中なので、長い目で見て心と体の声をちゃんと聞いてあげることが大事。自分も組織も

『ニンジャバットマン』アニメーションメイキング<1>

バットマンが日本の戦国時代にタイムスリップし、ジョーカー率いるスーパーヴィランと戦うオリジナル劇場作品。パート監督にYAMATOWORKS代表の森田氏が立ち、坂本氏はアニメーションディレクターとしての統括と、フリープランの高難度カットを担当した。

2018年公開/Blu-ray&DVD好評発売中、Netflixほかにて配信中
【スタッフ】監督:水﨑淳平、脚本:中島かずき、キャラクターデザイン:岡崎能士、音楽:菅野祐悟、アニメーション制作:神風動画/YAMATOWORKS
Batman and all related elements
TM & © DC COMICS.© Warner Bros. Japan LLC

アニメーター発信の演技プラン

バットマンとジョーカーが天守閣の上でバトルをするクライマックスシーン。ここでは基のコンテから、リファレンスとなる殺陣の実写での参考演技を経て、アニメーターから各所の動きを細やかに提案した「第2のコンテ」となるものを坂本氏が作成している。もちろん、絵コンテを改めて切る時間は設けられておらず、空き時間などでプランを煮詰め、演出で参加している森田修平氏(YAMATOWORKS代表)に提案し、さらに実際に動かしながら変化させていったとのことだ。この時点で細かいアクションの仕草や、アクションの合間に入ってくる会話の掛け合い芝居の詳細を詰めていったのである。ちなみに参考にした作品のひとつとして、坂本氏はアニメーター出身の安藤真裕監督作品でアクションとケレン味に定評のある『ストレンヂア -無皇刃譚-』(2007)を挙げており、実際の殺陣と日本のアニメの様式が融合したアニメーターならではの演出プランになっていると言えよう。

キャラもカメラも動きの多いヒーローショット

一連の天守閣上でのダイナミックなアクションシーン。このシーンではキャラクターの動きや細かな芝居もさることながら、カメラワークも殺陣に応じてダイナミックに縦横無尽に動き回っている。ここで坂本氏としては従来のアニメーションの手法も取り入れて、カメラを動かすのではなくキャラクターをカメラに収めつつ大判の背景をスライドさせることで、効果的に回り込むカットを事前に細かくプランニングしている。自由にカメラを動かせる3DCGのソフトを使いながらも、正に逆転の発想とも言うべきアニメーションの演出手法を取り入れることで、違和感なくキャラクターのアクションに視聴者を釘付けにしているのが興味深い。このような制作手法に関しても、従来のセルアニメ(日本のリミテッドアニメーション)の撮影技術や演出手法を駆使しながらセル調のCGアニメーションを成立させられるのが坂本氏の特徴と言えよう。

観客を飽きさせないシークエンス演出

芝居を細かくプランニングする一方で、坂本氏は全体を通しての「勢い」も大事にしている。前後カットとの兼ね合いでテンションが下がらないように、ピークになる盛り上がりのカットから逆算して連続した演技のつながりをプランニングしており、とにかく「お客さんが冷めないように」注意していたとのことだ。また、アクションとアクションの合間に観客も息をつく間として静的な芝居を挟み、またアクションに入っていくといったような、緩急を付けたシーンのプランも構築している。

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『ニンジャバットマン』アニメーションメイキング<2>

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『ニンジャバットマン』アニメーションメイキング<2>

奇天烈な表情を生み出すフェイシャル

アクションのケレン味だけでなく表情芝居においても坂本氏にはこだわりを発揮しており、特にジョーカーというキャラクターは正統派のヒーローのバットマンとは対象的にトリッキーで変幻自在な表情や動きを求められていた。その表情芝居の要になるフェイシャルリグに関しては、数十種類のモーフターゲットをミックスした上にボーンでのリグも構築、シーンによって異なる表情演技に対応できるように坂本氏自身が直接モーフターゲットの監修・管理を行い、ダイレクトに演出要件を満たすような布陣で挑んでいる。

ジョーカーらしい芝居の追求

ジョーカーの身体表現についても「ピエロっぽい芝居」というテーマで役者の方に演技をしてもらい、坂本氏はそこから表現のヒントを吸収している。例えば体の四肢の動きだけでなく、細かい手クセの印象的な小芝居の部分など、指の1本1本までトリッキーなジョーカーらしさを追求した。ケレン味のあるアニメーション作品でのリアルを追求するには、「実際に自分が動いて演技してみる」だけでなく「役者の演技を徹底的に研究する」ことも重要。
殺陣監修:今西哲也(婆沙羅エンターテイメント)

ジョーカーの悪役としての素顔

ジョーカーのジョーカーらしい奇天烈な表情変化も見どころだが、対象的にシリアスなシーンの表情変化にも坂本氏の熱意が込められている。「特に力を入れたのが『ジョーカーはバットマンを殺せるが、バットマンはジョーカーを殺せない。だから俺(ジョーカー)が勝つんだ』という、ジョーカーの顔がアップになる場面です。『初めて素の表情を見せるジョーカー』という表現は絶対にきっちり押さえたかったので、かなりこだわりました」と坂本氏はふり返る。その言葉どおり、恐ろしいまでの口の開き方や髪の毛のうねりでその心情を強烈に表しており、悪役としてのジョーカーの見せ場を見事に演出している。

TCB曲線によるグラフ編集

坂本氏をはじめ、YAMATOWORKSで使用しているメインツールはLightWave 3D。シンプルな操作と軽い動作、リーズナブルな価格、高速なセル調レンダリングが可能で、キーフレーム操作ではベジェカーブなどのUIを使用してアニメーションを付ける。中でも坂本氏は、TCBを使ってキーフレームの操作ができる点がお気に入りだそうだ。TCBとはTension(テンション)、Continuity(連続性)、Bias(バイアス)のことで、キーフレームの前後の動きを2種類の各パラメータの数値で操作して補完するキーフレーム補完方法であり、より正確な細かい数値でアニメーションカーブを表現できる部分が利点とのこと。ちなみに良い画がつくれればIKやFKといった手法にはあまりこだわらないという坂本氏ではあるが、本作は基本的に嘘のパースでも調整しやすいFKベースで作業を行なっているという。

YSプラグインの活用

坂本氏が所属するYAMATOWORKSでは、メインツールのLightWave 3Dを使うにあたり、現場の意見をダイレクトに反映したプラグインもリリースしている。YSプラグインと名を冠したこのツール群は、YAMATOWORKSとサブリメイションで共同開発しているもので、その両社の頭文字をとって名付けられた。LightWave 3Dの日本のサポート元でもあるディストーム社のサイトからも無償でダウンロードすることができる(www.dstorm.co.jp/dsproducts/FreePlugins/ysplugin.html)。例を挙げると、キャラクターのポーズ反転をボタンひとつで制御する、ボーンの変形の値をプリセットとして保存する、キャラクターの選択を容易にするマネージャー、パネル上でボーンを選択できるセレクター、キーフレームを階層やチャンネル別に選択して登録する、などのツールがある。作業効率と時間短縮につながるツールを現場発信で開発・公開している点も、坂本氏ひいてはYAMATOWORKSそのものの強みと言えるだろう。

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『L.S』表紙メイキング

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『L.S』表紙メイキング

今号の表紙を飾ってくれたのは、クトゥルフ神話をモチーフにしたアニメーション作品『L.S』。数年前のオムニバス作品プロジェクト用に制作されていたパイロットフィルムだが、現在はYAMATOWORKSのオリジナル作品として著作権を1社で保持し、今後の展開が模索されている。表紙ビジュアルは、パイロットフィルムの1シーンをベースにブラッシュアップしたもので、「スーパーCGアニメーターズ」特集に合わせて、キャラクターの表情やポーズをはじめ、髪の毛のなびき方や周囲を舞う紙など、一枚画として映えるように大幅な調整が施された。



  • BGオンリー



  • 遠景の紙を追加



  • BOOKを追加



  • 中景の紙を追加



  • キャラクターを追加



  • 近景の紙を追加

ライティングを調整した完成形

『L.S』の表紙展開に合わせて、大人の事情で公開停止となっていた本編と3DCGブレイクダウンが、YAMATOWORKSの公式YouTubeチャンネルで再公開されることとなった。なお、本邦初公開となる3DCGメイキングでは、坂本氏をはじめとするYAMATOWORKSのスタッフ自身が演じたリファレンスも画面に収められている。坂本氏のモットーでもある「アニメーターは役者であれ」を地で行く、役になりきった演技は必見だ。

パイロットフィルム本編

3DCGブレイクダウン

3DCGメイキング

オリジナル最新作『弦の舞』

YAMATOWORKSは、中国を舞台にした完全オリジナルのフルCGアニメーション作品『弦の舞』の制作を終え、現在は公開先の検討を進めているところだという。今後は国内外の映画祭に積極的に出品していくとのことなので続報を待ちたい。なお、そのほか大型劇場作品も控えており、スタッフも積極的に募集している。

YAMATOWORKS
yamato-works.com
©2019 YAMATOWORKS, INC. All Rights Reserved.



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.250(2019年6月号)
    第1特集:スーパーCGアニメーターズ
    第2特集:デジタル作画アドバンスト
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2019年5月10日