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3ds Max 2020で広がる建築ビジュアライゼーションの世界とは? ツールのアップデート情報から活用法まで徹底解説

3ds Max 2020で広がる建築ビジュアライゼーションの世界とは? ツールのアップデート情報から活用法まで徹底解説

3ds Maxで作る建築ビジュアライゼーション

  • 最後に建築パースやCGパース制作を行うルームシーの山崎洋志氏が、3ds Maxを用いたワークフローについて説明した。

「図面をもとにCGをおこすだけでなく、写真などを張り込んで、いかにリアリティを高められるかがパース屋の仕事」だとする山崎氏は、モデリングのコストを最小限に抑えて、リアリティを高めることに重点を置くという。そのため普段から3ds Maxの特徴である豊富なプラグインや、3Dアセットの販売サイトなどを最大限に活用していると述べた。



▲同社の公式サイトで掲載されているオリジナルのリビング。モデリングは床・壁・天井程度で、小物類はすべてアセット販売サイトのものを使用している

モデリング

はじめに山崎氏は「モデリング時には床・天井・ガラスなどの厚みを実際と同じようにつけたり、同じ平面状でポリゴンを重ねたりしないなど、現実と同じ空間を作るという意識を持つことが重要だ」と切り出した。

3DCGと異なり、現実世界に厚みのない物体は存在しない。にもかかわらず、この原則を無視してCGを制作すると、レンダリング時にエラーが発生することがあるという。「せっかく3ds Maxには高性能なフィジカルカメラがあるのに、その特性を生かせないのはもったいない話です」(山崎氏)。

また、建築パースを平面図で見せる場合、見えない箇所を作り込むのは効率が悪い。そのためクライアントとの打ち合わせを通して、最終的な仕上がり図、すなわちクライアントが見せたい「絵」を想像しながらモデリングすることが重要だと述べた。



▲モデリングが原因でエラーが出た例。画像上では壁と天井を0距離で重ねた結果、ポリゴンの継ぎ目から光が漏れてしまっている。画像下ではパネルを壁にピッタリとくっつけたため、影がギザギザになってしまっている。他にライティングを落としつつ、カメラの絞りを明るくして露出を整えたため、壁に黒いもやも出ている

他に普段から効率化を考えてモデリングをすることも重要だと述べた。同じ木製の窓サッシを作る場合でも、木目のあるテクスチャを縦横で貼る際、そのまま張れる作り方と、一手間余計にかかる作り方がある。こうした細かい手間が重なると、大きな違いに繋がるというわけだ。「近くで大きく見えるものであれば、手間をかけてでも、形状を正確に作る必要があります。ただ、遠くで小さく見えるものであれば、手数を減らして作業効率を高めることが重要だと思います」(山崎氏)

▲単に窓枠を作るだけでも、さまざまな作り方がある。左から「1.ボックスを作ってインセットし、ブリッジして穴をあける」「2.外側と内側でラインを2本引き、押し出す」「3.大小2つのボックスを作り、プロブーリアンで穴を開ける」「4.ラインにスイープを重ねて厚みのある形状を作る」「5.縦線と横線を分けて作る」だ。一見すると同じように見えるが、作業効率が一番高いのは1だ。これに対して2,3,5では木目があるテクスチャを縦横で張る時に一手間かかる

2.カメラ・ライティング

前述のように3ds Maxでは物理ベースのレンダリングに使用可能なフィジカルカメラ機能があり、実際のカメラと同様にシャッタースピード、レンズの絞り値(F値)、感度(ISO値)が設定できる。いずれも現実的な数値を設定することが重要で、シャッタースピードは1/100とISOは100で固定する。その後、ライティングをホワイトの状態で設定し(ハレーションやライトリークなどがおきないように注意)、最終的にF値を2~16で調整して露出を決めるのだという。

3.マッピング

マッピングでは原則として、すべてのマテリアルに反射を入れる。「現実の物質はすべて、光を反射することで視認可能になります。目に見えるもので、反射がないものは存在しません」(山崎氏)。いわゆるシズル感(食品のみずみずしさなど)も、反射を入れることで演出されるという。

▲左はすべてのマテリアルで反射を切った状態、右は入れた状態で、ソファーや床の反射などで違いが出ている

4.レタッチ

以上の作業が終わると、静止画にレンダリングしてレタッチを行うことになる。このとき、3ds MaxのRender Elements機能を使用すると、個々の要素を個別のイメージファイルにレンダリングできる。その後、これらをPhotoshopで重ねて表示し、レイヤーごとに修正を加えていくというわけだ。このとき重要なことは「手戻りができるようにすること」。そのため「調整レイヤーやレイヤーマスクを使用する」「ブラシを使う際は不透明度100%のみを使用し、レイヤーの不透明度で調整する」などの配慮が求められる。

なお、山崎氏がレンダリングで書き出しているイメージファイルは下記の10個となる。

VRayRefraction
VRayRawLighting
VRaySpecular
VRayRawReflection
VRayWireColor
MultiMatteElement
VRayReflection
VRayRawRefraction
VRayNormals
VRayDiffuseFilter

▲VRayDiffuseFilter

▲VRayNormals

▲VRayRawRefraction

このほか山崎氏は業務で良く使用するプラグインや、3Dモデルの販売サイトとして、下記のリストを上げた。

Forestpack(植栽の置き込み)
EVERMOTION(シーンデータ・植栽・家具・小物)
Texture.com(シームレステクスチャ)
3dsky(フリー・有料モデルデータ)
Hum3d(車)
TurboSquid(車・家具)

日常から観察力を磨くことが重要

最後に山崎氏は建築パースを作成するうえで最も重要なこととして、観察力を上げた。「建築パースが必要なのは、図面でしか存在しない建物を視覚化するため。一方で図面に書かれていることは限界があります。現実の建物の知識量で建築パースの完成度は大きく変わります」(山崎氏)。

実際に家具や小物類などは、建築図面に書かれていないことが多いが、これらを配置したり、内装を作り込んでいったりすることで、リアリティが変化する。他に一般家屋では基礎と建物の間に水切りが存在するが、建築図面に書き込まれていることも希だという。こんなふうにクライアントの意図を先回りして表現するには、ふだんから観察力を磨くことが求められる。

「一般的なダイニングテーブルでは、テーブルの高さが床面から700~750mmで、椅子の座面が400~450mmとなります。これらの数値を知っていれば、写真が一枚あるだけで仕上がりのイメージが理解できます」(山崎氏)。これらは普通に生活するだけで目に入ってくる要素であり、これらを知識として蓄積しておくことが重要だと締めくくった。

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