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慣れ親しんだ2Dのアニメーション作品を違和感なく3DCG化! 映画『ルパン三世 THE FIRST』

慣れ親しんだ2Dのアニメーション作品を違和感なく3DCG化! 映画『ルパン三世 THE FIRST』

キャラクターデベロップメント/ショットの画づくり、マネジメント

ルパン作品ではシリーズの各エピソードによってもキャラクターデザインは多様だ。本作では膨大なアーカイブを紐解き、王道とも言えるルパン像を目指した。初の3DCG化ということもあり、誰もが感じる「ルパンらしさ」を大事にした上で、新しいルパン像がつくり上げられている。このルパン像の構築には丁寧に時間がかけられ、「ちょいワル系」など30種類ものルパンのコンセプトアートが描かれた中で方向性を選び、多くの意見を参考に決められていった。2Dで描かれたコンセプトアートをマケットに起こして検討したのちモデリング。さらにルックデヴなどを通して3Dのキャラをつくり上げ、プロダクションとして安定させるのがこの工程だ。

左から、アートディレクター・梅田年哉氏、監督補/Co-Director・波田琢也氏、ライティングスーパーバイザー・戸松 聡氏、CGスーパーバイザー/ルックデヴスーパーバイザー:荒川孝宏氏、プロダクションマネージャー:三井智博氏(以上、マーザ・アニメーションプラネット)

立体化を意識したコンセプトアート

キャラクターのコンセプトアートは、3DCGになることを意識して緻密に描かれている

ルパンの最終ルック。多くのタイプのコンセプトアートから選ばれたのは「ちょいワル系」だ。監督の意向のひとつとして女性受けするデザインにする必要があったため、ただワルっぽいだけでなくカッコ良さも求められた

不二子のFIX案

キャラクターの中で方向性を固めるのに最も難航したのが、この不二子だったという。目ひとつとっても、【左】吊り目だったり【右】タレ目だったりと人によって印象が異なるため、途中でいったん止めて、最後につくり直された。「不二子のコンセプトアートを描いているとき、プロデューサーの伊藤が私の後ろに立って、博士と助手のように相談しながら仕上げたのが印象深いです」とアートディレクターの梅田年哉氏。プロダクションに入ってからは「監督が不二子の目がライティングによってはフラットになりすぎることを気にしていて、モデル修正になるんじゃないかとハラハラしました」と、CGSV/ルックデヴSVの荒川孝宏氏はキャラクターデベロップメントの苦労を語った

テストシークエンスでの品質確認

プロダクションの前にまずテストシークエンスとして、パリの屋上で伝説のお宝を奪い合うアクションシーン【上】と、ヒロインの部屋でのドラマシーン【下】が作成された。ひと通り本番と同じフローでテストシークエンスを制作することによって、最終的な画のイメージを関係者に提示し、このクオリティでつくっていくという宣言をして目標の共有がなされた。この時点でアニメーターもルパンらしい動きを模索し、監督の方向性ともすり合わせて、目指す"ルパンらしさ"を演出した。結果、監督も大満足してマーザを信頼してくれ、以降はマーザとしても非常にやりやすくなったという。「テストシークエンス後は自由にやらせていただきました。ここで監督に信頼されなかったら、公開日に間に合わなかったかもしれません」(監督補・波田琢也氏)

悲願だったカラースクリプトの徹底

画づくりの指針となったカラースクリプト。「初期に設定したカラーを最後まで徹底して運用するのは難しく、マーザの悲願でもありました」と波田氏がふり返るように、以前苦渋をなめたカラースクリプトを用いたワークフローをやり遂げられたのが、本作の大きな成果だったという。これはアートチームとライティングチームの協力の成果だ。監督の要望であるバンド・デシネ的なカラーが作品を通して実現できたと言えるだろう

バンド・デシネ的な色遣いが特徴的なショット。「色には相当こだわりました。太陽光にも色を入れたり、暗部もシアン寄りにしたりと、バンド・デシネらしさを表現するため画面内の全てに何らかの色が入っています」とライティングSVの戸松 聡氏。技術的には、アセットからACESを使ってカラーマネジメントをしたことが大きく寄与しているという。ACESはsRGB外の色域も保ったまま表現できるので、色も飽和しない。アセットからACESで一貫してマネジメントできたので、ショット間の不具合がなく非常に安定した。LUTは本作からマーザ標準と言えるようなものを作成して使用している

少ない人員で効率的なマネジメント

本作ではアニメーションがキーになると予想され、予算をなるべく制作へ回すようにし、管理の人員を2人に減らしたため、大規模な映画プロジェクトの中では「マーザ史上、最もPMが少ないプロジェクト」と呼ばれる構成となった。約1,500もの総ショットを切り盛りしたのが、プロダクションマネージャーの三井智博氏と宮﨑真琴氏だ。管理ツールは以前と同じくShotgunが用いられ、「前作までのShotgunの運用を踏襲してアップデートし、新規に何かをやるというよりも開発・導入に予算や時間をかけず安定した運用を目指しました」とのことだ。ステータスでチェックして素材をかき集め、監督に効率良く見てもらえ、大きなトラブルもなく、手戻りも少なかったという

プロジェクトの概要をまとめたページ。脚本やストーリーリール、テストシークエンス等々をいつでも確認できるよう設定されている

各進捗管理がグラフで一覧できるようにしたページ。シークエンス単位やシークエンスをまとめたBlock単位で閲覧できる。主にプロデューサー/ラインプロデューサーへ状況報告の一部として活用された

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