<3>「ムラ」のあるアニメーションを付けてCGっぽさを解消する
誰も気づかない程度のひと手間を加える
リアリティへのこだわりはアニメーションでも見られる。CASE 01を例にすると、細い針金の先端に付いた重そうな円柱が4つ回転する際、円柱同士の間隔をかすかに調整して揺れ感を出している。ほとんどくっついているように見えるので、このことに気づく人はほとんどいないだろう。しかし、そのひと手間が見事にリアリティを生み出している。「間隔が微妙に動いてムラがあることが重要なんです。下の支柱が固定されていると生っぽさや危うさがなくなり、その結果スレスレ感も失われます。予定調和すぎて面白みに欠けてしまうんですね」と長塚氏。シンプルな映像だからこそ、視覚と心理に働きかけるポイントを的確に突くセンスが光るのだ。
ウソっぽく見えるか見えないかの境界線はアニメーションにも存在する。「もしかしたらこういう動力で動いているのかもしれない」、「実際に見たことがないけど、こういう動きをしそうだな」と、見ている人に感じさせることができるかできないかで信憑性の度合いが決まると長塚氏は話す。具体的な事例で言うと、振り子の上部を見せないことで「こんな感じで動くかも」と想像の余地を与えて、見ている人の脳内で自由にしくみを補完してもらう、といった感じだ。決して物理的な正確性を無視しているわけではないが、必ずしも正確である必要はなく、人々がもっているイメージを再現できれば良い。アニメーションを生業にしている人ならピンとくるだろう。
例えば、シーソーのように揺れている物体の上で、ボールがギリギリ落ちずに行ったり来たりしているとする。ボールが端に来て折り返すときに、ほんの少しだけ浮かせてみるとメリハリが出てリズムが生じる。このことに気づく人はやはり少数だが、気づかれない程度のほんの小さなワンクッションを挟むだけで、スリルと気持ち良さを与えることができるのだ。これは「スレスレ」を制作するにあたり、長塚氏が最も注意を払うポイントでもある。「僕のTwitterかInstagramに投稿されている動画をぜひ見てほしいです。超地味です!(笑)」と長塚氏はやや自嘲気味に話す。映像を見れば、きっと、長塚氏の地味ではあるが繊細なトリックにニヤリとするはずだ。
「ムラ」のあるアニメーションでリアリティを演出する
CASE 01
swing from Hajime Nagatsuka on Vimeo.
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細かいムラのある動きがないとCG感が出すぎてしまい、スレスレの旨味を落としてしまう。右下のビューは筒を真上から見たもの
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少しコマを進めると、筒と筒の間隔が少し開いているのがわかる。筒を支える金属の棒が細く、まったくの直線ではないことを表現。このひと手間が予定調和な感じを和らげている
XPressoのマップ変換画面。サインカーブで金属の棒の揺れを0.2度振れるように設定
CASE 02
yura from Hajime Nagatsuka on Vimeo.
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赤い土台もCASE 01と同じ方法で揺れている。土台が揺れていることで、不安定で頼りない印象を与えている。青いボールがセンターの黒い物体に乗るときも、多少上下に動いている。また、Twitter画質で見てもボールが回転しているということが伝わるようにするため、青いボールに柄を入れた。物体間を移動する際に多少の上下運動を入れるのも、「別の物体に乗りましたよ!」という説明に近い
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このシーンのXPressoのUI
センターにある黒い物体に乗る際の上下の動きを与えているマップ変換のUI。わかりやすく解説するために画像の数値を大きくしたが、実際は「6」となっている部分が「2」程度に設定しているとのこと。数値が大きすぎると違和感が目立ってしまうので注意が必要だ