<2>シンプルでも不特定多数の人々に見てもらえる映像にする
綺麗すぎないこと、ウソっぽくないこと
長塚氏の「スレスレ」作品はスタイリッシュな美しさも魅力のひとつだ。これまでCMを制作してきた長塚氏にとって、伝えるべきことをわかりやすく、美しく、そして印象的に伝えることはごく自然なことなのかもしれない。「こういった映像は、ミニマムであまり動きがない方が面白いと思うんです。とはいえ、動き自体かなり地味なので、モチーフがシンプルすぎる場合は非常に寂しい見映えになることがあります」と長塚氏。そんなときは、ギミックか質感か、あるいは背景のいずれかの情報量をバランスをとりつつ増やす必要がある。反対に、モチーフや動きが複雑でギミックが多いときは背景をシンプルにする。伝わってほしい情報と画面から出る情報の割合を調整してバランスをとることが大切だ。長塚氏は「人に見てもらうことが大前提なので、とにかく見やすくないといけません。背景のモチーフや素材感が気になって視線を集めるべきところから注意が逸れてしまうと、伝えたいものが明確に伝わらなくなってしまいます」と話す。
さて、すでにお気づきの方もいるかもしれないが、金属的なモチーフには酸化によるくすみ(あるいは指紋のような汚れ)が、木製風モチーフの塗装には汚れや剥がれのような「使用感」が加えられている。短い尺の映像だからこそ、見慣れた質感をさりげなく与えることでリアリティが引き立ち、「見ている人に既視感や親しみ」を感じさせることができるのだと長塚氏は語る。「ツルピカな金属や単なる木目、CG特有の何の素材でできているかわからないものって、それこそCGだから何でもアリになってしまいスルーされやすいんですよね」。では、どうすればそういったものにリアリティを与えることができるのか。長塚氏の場合は、誰かが意図的に「スレスレの世界」を手づくりして撮影した、というストーリーを表現することにしたそうだ。
さらに、CG作品にありがちな予定調和な感じは面白みに欠けるため、あらゆる意味で「綺麗すぎないこと」を意識している。長塚氏は「あまりに綺麗だったり整っていたりすると、CG臭が強すぎてウソっぽくなるじゃないですか。それでスレスレしたところで印象には残らないですよね」と話し、見ている人を置いていってしまわないよう、同じ動きをくり返すというデジタルな手法にアナログ感を加えて、既視感や親近感を与えているという。
背景で魅せる映像に
CASE 01
ring from Hajime Nagatsuka on Vimeo.
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シンプルな上に画面がスッキリしすぎて面白みに欠ける。伝えたい情報しか残っていない点も、ひっかかりがないためスルーされやすいのでノイズや雑味、違和感が必要だ。一瞬で理解されてもギミックにパンチがあれば、スッキリしている方が正解となる場合もある
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背景をにぎやかにして情報を分散させてみた。少し注視しないと状況がわからない状態になった。こちらのほうが一枚画としても成立している
CASE 02
swing from Hajime Nagatsuka on Vimeo.
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CASE 01で使用した背景を流用。床から伸びた棒も背景も円柱なため、ごちゃごちゃとして見える。この背景を使用する場合は、色を抜いたり被写界深度でボカしたりと存在感を和らげる必要がある
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背景を単調なグレーに変更。ギミックが少々複雑なため、これくらいシンプルな背景を採用することで瞬時に理解できる度合いが良い塩梅になる。「トゥーマッチなものを減らす」という考え方だ
シンプルな中に潜むリアルな素材感
CASE 01
tutu from Hajime Nagatsuka on Vimeo.
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金属の輪っかにしたいのだが、こんなツルピカな金属では異物感が際立ちすぎて、スレスレしていても「CGなら簡単にスレスレするんでしょ?」と解釈されてしまう。さらに、反射が強すぎてピカピカとうるさい。CGっぽさを和らげて既視感や親しみを強調しなければ、これが金属であると捉えてもらえないだろう
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Roughnessにノイジーなテクスチャを入れてみた。異物感が和らいで金属感が増した
CASE 02
pokopoko from Hajime Nagatsuka on Vimeo.