<3>「デジタル水遊び」 by 宮本浩司
VATを用いた流体に焦点を当てたこのセッションでは、タイトルの通り実際に水遊びをしてリファレンスを多数撮影してから制作に臨んでおり、「スマホでのスロー撮影は、結構手軽にできるようになりましたよね。それから、体を動かすとモチベーションが上がりますよね! 梅雨に入る前で天気も良くて、気持ちよかったです」とリファレンスの大切さもさることながら、実地体験の楽しさも再確認できる内容となっていた。
宮本氏所有のスマートフォンが960fpsのスロー動画撮影に対応していることから、水しぶきの動画を撮影。特に、水を張ったバケツに身の周りにある小物を落としてみるというくだりでは六角錘(40号)・ナツメ錘(30号)・スパイク錘・エギ(ルアー)などを投入、実際のDCCツールでのシミュレーション時にもそれらをモデリングして使用していた。なお、エギは3号想定。
シミュレーションには、Fluid作成からUE4までひと通りサポートしているHoudiniを使用。得られたパーティクルを調整・削除してメッシュ化し、polyReduceで2,000ポリゴンに整理。「流体データはハイメッシュなものが出来上がってくることが多いので、VATを作る際には必須な機能かなと思います。使用ポリゴン数もここで決めるため、これなしには語れないノードです」。UE4で読み込んだFluidは、水しぶきエフェクトのほか、発光させてファンタジックにしたり、炎のエフェクトにしたりと応用例も。
質疑応答では現実を観察する際のオススメの方法を問われ「旅行に行きます。そのときに、気分転換と合わせていろいろなものを見てみます」と紹介するなど、観察やリファレンスに関する印象が深かったが、実務面でも流体データをゲームに読み込むための作り込みについての体系立てた解説などの学びが得られる講演となっていた。
●講演スライド
<4>「ディゾブルマテリアルで表現する立体魔法陣」 by 林 武尊
最後のセッションは、マテリアルによるディゾルブを活用したVFX作例だ。作例自体は「Houdini、ZBrush、Substance Designerを用いなくてもできる」というように、誰でも簡単に真似できることを念頭に作られた。マスクテクスチャで「絵を削る」ことで達成されるディゾルブは、消失・焦げ・氷結などの表現に用いられる、応用範囲の広いエフェクトだ。今回はマスクアニメーションの作り方かたマテリアルの使い心地の改善、Timeノードを用いたディゾルブマテリアルのテスト方法など、初歩的な内容を前半じっくりと解説。実際に手を動かしながらすぐに試せるような構成となっていた。
そして後半では、前半の内容の合わせ技からなる立体魔法陣の制作について語られた。まず簡易的なモデルとマテリアルでプロトタイプし、アニメーションとエフェクトの完成状態を確認してから本制作に入る。本講演に際して、テストマテリアルは40程度作られ、完成した立体魔法陣のマテリアルは19。「ワンオフのマテリアルばかり作りましたが、実際の開発では広く使えるマスターマテリアルとして作成し、テクスチャは何枚使えるかなどいろいろ考えていく必要があります」。なお制作中のアセット管理としては、試行錯誤フォルダと清書フォルダを分け、それぞれにテクスチャ、モデル、パーティクルシステムの各フォルダを用意したとのこと。このほか様々なTipsが語られ、エフェクトマテリアルの楽しみが大いに伝わる講演となっていた。
●講演スライド
4つの講演は「破壊とその準備(+レイマーチ煙)」「VATを応用したNiagara事例」「流体」「マテリアルによるディゾルブ」とそれぞれにまったく異なるアプローチで語られ、改めてVFXという分野の層の厚さを感じさせられた。また、4講演中3講演でVATが用いられ、さらにはその応用も語られたが、このテクニックは今後もさらに深く使い込まれていくことは想像に難くなく、より大規模なリソースを搭載した次世代機を控え、どのような工夫が凝らされていくか楽しみだ。
いったんは会場を借りたイベントとして企画されたものの、昨今の情勢によりオンラインイベントとして仕切り直しを余儀なくされたという今回。蓋を開けてみれば運営は円滑で、特に質疑応答での聴衆の質問を拾い上げテンポ良く回答が進む様子は、技術イベントとしては理想的だと感じた。Environment、VFXと開催されたArt Diveだが、次はどの分野が主題に設定されるだろうか。なお、Epic Games Japanでは常にこうしたイベントでの登壇者を求めているそうだ。腕に覚えのある方は、SNS上で同社スタッフに声をかけてみてはいかがだろうか。