毎回ひとつのテーマ(制作分野)を設定し、第一線で活躍するアーティストやEpic Gamesスタッフによるテクニックが披露されるUE4 Art Diveシリーズ。昨年末の「Environment」に続き、「VFX」をテーマとした第2回が7月5日(日)にオンラインで開催された。いずれのセッションも、業務上携わっているプロジェクトとは関係なく、このイベントのために作例に取り組んだという。普段大規模プロジェクト等で積んだ研鑽が垣間見える講演内容の概要をレポートする。

TEXT&PHOTO_岸本ひろゆき / Hiroyuki Kishimoto
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

<1>「豚×京都 〜UE4でなろう破壊神〜」by 斎藤 修(ずし)

最初の登壇者は、前回のEnvironment Art Dive にてプロシージャル田植えを披露した斎藤 修(ずし)氏。題材は、事前にTwitterに投稿された際に大きく拡散された「豚による京都の破壊」だ。Marketplaceで販売されている京都アセットによる街並みにHoudiniのテストジオメトリとしてお馴染みPig Head が飛来、辺りは瓦礫の山と化してしまう。

「みなさんも、とにかく何か物を破壊したくなったこと、あるんじゃないでしょうか? しかし、ここ日本は法治国家です。物を壊しては怒られてしまいます。そこでUE4の出番です。UE4を使えば、どんなに物を壊しても怒られません。本当です」と穏やかに語る斎藤氏は、前回同様HoudiniとUE4の組み合わせで制作を進めた。Houdini上で事前に破壊シミュレーションを行い、それをUE4へ組み込むのだが、ここで斎藤氏はUE4内での破壊エフェクト表現の実装手段を網羅的に検証。スケルタルメッシュ/ジオメトリキャッシュ/VAT/リアルタイム物理演算システムを比較した表は同種の作業に取りかかる際の重要な指標となりうるものだ。

また、ゲーム開発に最適化されたモデルは物理的な構造からは逸脱していてシミュレーションには適さず、そのままでは使えないことを指摘。具体的には閉じていない形状やオブジェクトの相関、見えない箇所の消去などが行われた「最適化済みモデル」をシミュレーションに適した状態=「破壊ready」にする重要性を説明し、その対応方法などが披露された。なお、家屋の破壊ready化作業はモデリング専業ではない斎藤氏の手で約2日、瓦を1枚1枚配置するなど、単純にゲーム内に配置するのは難しいモデルになっているとのこと。

なお、この講演の内容は本誌vol.265(2020年9月号)でも詳解されているので、併せてご覧いただきたい。

●講演スライド

<2>「もっとNiagaraを楽しもう!~UE4.25での作例と解説~」 by 池田 亘

続いては、今年2月に発売された書籍「HoudiniとUnreal Engine 4で学ぶリアルタイムVFX」の著者で、Naughty Dogのエフェクトアーティストを務める池田 亘氏によるセッション。本業ではUE4を用いていない同氏だが、Niagaraがまだalpha版だった2018年にUNREAL FESTに登壇するなど、かなり早い時期からNiagaraに注目しており、今回は待望のNiagara正式リリース後初の講演となった。「ついにベータが外れて正式リリースとなったNiagaraですが、開発期間が長かった分、作り込まれたツールになったと信じています」。

作例は、レーザーの照射と破壊された柱・床の破片が渦を巻いて飛び散るというエフェクトで、技術的なテーマは「VATの応用によるNiagaraでの破壊表現」。通常はテクスチャの1行1行をアニメーションの1コマのように用いるVATだが、ここでは破片のID的に用い、1パーティクルにひとつずつ異なる形状の破片が生成されるようにしている。レーザーによって破壊される様子や破片が渦巻上に飛散するアニメーションはNiagara内で組んでおり、自由なアニメーションを得ることに成功している。

「頂点位置を毎フレーム再構築する流体用VATをベースにしたしくみになっています。アニメーションがテクスチャに焼き込まれて決め打ちになってしまうのがVATの弱点ですが、今回は工夫してそこを克服したとも言えるしくみにしました」。

Houdiniによる破壊やHoudiniとNiagaraの連携などは先述の書籍で詳しく解説されているが、今回はその内容をコンパクトに含みつつ、UE4.25+正式版NiagaraでのTipsなども披露された。後半はセル調の仕上げについても言及し、4.25で新たに追加されたNiagaraからカメラの値を取得するノード「Get Camera Properties」などを活かしたルック開発が語られた。

●講演スライド

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<3>「デジタル水遊び」 by 宮本浩司

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<3>「デジタル水遊び」 by 宮本浩司

VATを用いた流体に焦点を当てたこのセッションでは、タイトルの通り実際に水遊びをしてリファレンスを多数撮影してから制作に臨んでおり、「スマホでのスロー撮影は、結構手軽にできるようになりましたよね。それから、体を動かすとモチベーションが上がりますよね! 梅雨に入る前で天気も良くて、気持ちよかったです」とリファレンスの大切さもさることながら、実地体験の楽しさも再確認できる内容となっていた。

宮本氏所有のスマートフォンが960fpsのスロー動画撮影に対応していることから、水しぶきの動画を撮影。特に、水を張ったバケツに身の周りにある小物を落としてみるというくだりでは六角錘(40号)・ナツメ錘(30号)・スパイク錘・エギ(ルアー)などを投入、実際のDCCツールでのシミュレーション時にもそれらをモデリングして使用していた。なお、エギは3号想定。

シミュレーションには、Fluid作成からUE4までひと通りサポートしているHoudiniを使用。得られたパーティクルを調整・削除してメッシュ化し、polyReduceで2,000ポリゴンに整理。「流体データはハイメッシュなものが出来上がってくることが多いので、VATを作る際には必須な機能かなと思います。使用ポリゴン数もここで決めるため、これなしには語れないノードです」。UE4で読み込んだFluidは、水しぶきエフェクトのほか、発光させてファンタジックにしたり、炎のエフェクトにしたりと応用例も。

質疑応答では現実を観察する際のオススメの方法を問われ「旅行に行きます。そのときに、気分転換と合わせていろいろなものを見てみます」と紹介するなど、観察やリファレンスに関する印象が深かったが、実務面でも流体データをゲームに読み込むための作り込みについての体系立てた解説などの学びが得られる講演となっていた。

●講演スライド

<4>「ディゾブルマテリアルで表現する立体魔法陣」 by 林 武尊

最後のセッションは、マテリアルによるディゾルブを活用したVFX作例だ。作例自体は「Houdini、ZBrush、Substance Designerを用いなくてもできる」というように、誰でも簡単に真似できることを念頭に作られた。マスクテクスチャで「絵を削る」ことで達成されるディゾルブは、消失・焦げ・氷結などの表現に用いられる、応用範囲の広いエフェクトだ。今回はマスクアニメーションの作り方かたマテリアルの使い心地の改善、Timeノードを用いたディゾルブマテリアルのテスト方法など、初歩的な内容を前半じっくりと解説。実際に手を動かしながらすぐに試せるような構成となっていた。

そして後半では、前半の内容の合わせ技からなる立体魔法陣の制作について語られた。まず簡易的なモデルとマテリアルでプロトタイプし、アニメーションとエフェクトの完成状態を確認してから本制作に入る。本講演に際して、テストマテリアルは40程度作られ、完成した立体魔法陣のマテリアルは19。「ワンオフのマテリアルばかり作りましたが、実際の開発では広く使えるマスターマテリアルとして作成し、テクスチャは何枚使えるかなどいろいろ考えていく必要があります」。なお制作中のアセット管理としては、試行錯誤フォルダと清書フォルダを分け、それぞれにテクスチャ、モデル、パーティクルシステムの各フォルダを用意したとのこと。このほか様々なTipsが語られ、エフェクトマテリアルの楽しみが大いに伝わる講演となっていた。

●講演スライド

4つの講演は「破壊とその準備(+レイマーチ煙)」「VATを応用したNiagara事例」「流体」「マテリアルによるディゾルブ」とそれぞれにまったく異なるアプローチで語られ、改めてVFXという分野の層の厚さを感じさせられた。また、4講演中3講演でVATが用いられ、さらにはその応用も語られたが、このテクニックは今後もさらに深く使い込まれていくことは想像に難くなく、より大規模なリソースを搭載した次世代機を控え、どのような工夫が凝らされていくか楽しみだ。

いったんは会場を借りたイベントとして企画されたものの、昨今の情勢によりオンラインイベントとして仕切り直しを余儀なくされたという今回。蓋を開けてみれば運営は円滑で、特に質疑応答での聴衆の質問を拾い上げテンポ良く回答が進む様子は、技術イベントとしては理想的だと感じた。Environment、VFXと開催されたArt Diveだが、次はどの分野が主題に設定されるだろうか。なお、Epic Games Japanでは常にこうしたイベントでの登壇者を求めているそうだ。腕に覚えのある方は、SNS上で同社スタッフに声をかけてみてはいかがだろうか。