>   >  震災からの復興と感謝の意を石巻から。地方創生RPGに市が公費を投入する理由
震災からの復興と感謝の意を石巻から。地方創生RPGに市が公費を投入する理由

震災からの復興と感謝の意を石巻から。地方創生RPGに市が公費を投入する理由

自治体からの受注と広がるシリーズ展開

その一方で確かな可能性も感じられた。リリース翌年に英語対応を含めたアップデートを行うと(例によって内製ローカライズだ)、海外で遊ばれはじめたのだ。その中にはモルドバ在住のプレイヤーもいた。ルーマニアとウクライナに接する旧ソ連の構成国のうちの1国で独立紛争を国内に抱えるなど、経済の低迷が続いている。ヨーロッパの最貧国でもあり、同社にとっては仕入れ先エリアの1つだ。

本作のプレイを通してさいたま市に関心をもち、いつか旅行したいと感じ480円という現地では決して安くはない額の課金をして「これからもがんばってください」といったメールが寄せられたという。ゲームを通して、地域や自治体が海外にファンをつくる道筋やプラットフォームがすでに確立されている。このことは大きな励みになり、以後のゲーム開発に繋がっていった。実際、『ローカルディア・クロニクル』は同社にとってターニングポイントとなった。口コミで話題が広がる中で、自治体が関心を示しはじめたのだ。

●『言な絶えそね -行田創生RPG-』(2018)

口火を切ったのは埼玉県行田市だ。「さいたまニュービジネス大賞」受賞をきっかけに、市の担当者が関心をよせた。そこから話が広がり『言な絶えそね -行田創生RPG-』のリリースに繋がる。『ローカルディア・クロニクル』とは異なり、本作は行田市が企画し、同社に開発を発注したものだ。公費を財源に産官連携で製作された、日本初の自治体公式RPGになったのだ。

映画『のぼうの城』(2012)で一躍有名になった忍城や、国の特別史跡に指定されている埼玉古墳群など、観光資産を数多く抱える行田市。これらをゲームを通して有効活用し、観光客を呼び込みつつ地域経済の活性化に繋げることが課題だった。自治体の協力を得て開発はスムーズに進行。市内の企業から協賛金を得てゲーム内に実名で登場させることもできた。前作でやりたくてもできなかったことが実現した。

●『はじまりの島 -淡路島日本遺産RPG-』(2019)

第3弾の『はじまりの島 -淡路島日本遺産RPG-』も、南あわじ市の守本憲弘市長の提案を受けて淡路市、洲本市、南あわじ市の3市と、兵庫県淡路県民局、淡路島くにうみ協会、淡路青年会議所、そして淡路島観光協会からなる淡路島日本遺産委員会の共同プロジェクトに昇格した。これに伴い内容も現代の少年が古代に召喚され、島全域を巡るストーリーとなった。

背景にあるのが「『古事記』の冒頭を飾る「国生みの島・淡路」〜古代国家を支えた海人の営み〜」が日本遺産に認定されたことだ。淡路市、洲本市、南あわじ市が2016年に文化庁に申請したものだが、ストーリーが難しく、地元の認知度が今ひとつだった。そこでゲームを通して島民の理解を深めようとしたのだ。

本作でも新たな取り組みがされた。『ローカルディア・クロニクル』で行われたアイテム課金を復活させ、アイテムの売り上げを淡路島日本遺産事業の運営資金としたのだ。オリジナルモンスターの公募を実施し、約30点がゲーム内で登場。そのうちの半数は小学生の発案だ。GPSクーポンも継続的に実施されており、キャラクターの等身大パネルも道の駅をはじめ、島内8箇所で掲示されている。

他に2020年9月19日(土)~11月3日(火・祝)には島内の観光施設において、『リアル謎解きゲーム はじまりの島~黄泉からの謎の使者~序章』といったイベントも開催されている。

●『天倫の桜 -佐倉市サムライRPG-』(2020)

第4弾『天倫の桜 -佐倉市サムライRPG-』の開発もユニークだ。千葉県佐倉市のequoが全額を出資して、佐倉市を舞台にしたRPGの開発を依頼してきたのだ。同社は東照電気の子会社で、地域創生ビジネスを目的としたベンチャー企業。佐倉市は市内に蔵や武家屋敷が建ち並び、印旛沼の竜神伝説でも知られる。こうした文脈を踏まえて、ゲームはサムライが活躍する和風ファンタジーRPGとなっている。

『天倫の桜』についてもリリース後、市役所や観光協会と共同でキャラクターの等身大パネルを武家屋敷の中に飾ったり、キャラクターグッズを販売したりといった施策が見られる。2020年10月30日~11月1日に佐倉城址公園で開催されたイベント「LANDO SAKURA ~NIGHT FESTIVAL~」では、特設ブースと共にキャラクターのラッピングを施した痛車も展示されるなど、市民向けのアピールが行われていた。

▲(左)佐倉市の武家屋敷/(右)キャラクターの等身大パネル

▲「LANDO SAKURA ~NIGHT FESTIVAL~」で展示された痛車



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