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震災からの復興と感謝の意を石巻から。地方創生RPGに市が公費を投入する理由

震災からの復興と感謝の意を石巻から。地方創生RPGに市が公費を投入する理由

東日本大震災で最大の被害を受けた宮城県石巻市。震災から10年を経て、国の復旧・復興工事に1つの区切りがつこうとしている。そうした中、2021年3月の配信に向けて市が取り組んでいるのが石巻地方創生RPGアプリ事業だ。地方自治体が公費を投入してゲームを開発する動きが進む中、その最先端ともいえる本作はどのように生まれたのか。行政と事業者が二人三脚で進めるゲーム開発の姿を取材した。


INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



マンガの街・石巻で進むゲーム開発

東京から東北新幹線で仙台に向かい、JR仙石線に乗り換えて約60分。JR石巻駅を降りると『仮面ライダー』と『サイボーグ009』のモニュメントが出迎えた。駅舎の正面入り口には、002(ジェット)と003(フランソワーズ)のモニュメントが並ぶ。宮城県石巻市は萬画家、石ノ森章太郎氏の所縁の地だ。JR石巻駅から石ノ森萬画館を結ぶ石巻マンガロードには、数々のモニュメントやキャラクターが建ち並び、風景に溶け込んでいる。

▲JR石巻駅庁舎

▲ホームに設置されたモニュメント。石巻市は1996 年に「石巻マンガランド基本構想」を策定。1999年には「第1期石巻市中心市街地活性化基本計画」を策定し、マンガ文化を生かした地方創生の取り組みを進めている(国土交通省 都市・地域整備局「まち再生事例データベース」事例番号18

2011年3月11日、東日本大震災で発生した10メートルを超える津波が街を襲った。全人口約16万2千人のうち、死者は3,553名(直接死・関連死含む)、行方不明者は418名にものぼる(令和3年1月末現在)。住人の40人に1人が犠牲となった石巻市は、同震災による最大の被災地だ。市の中心部には、復興に向けて応援メッセージを送った萬画家たちのギャラリーが設置されている。

▲JR石巻駅から石ノ森萬画館まで続く通りには、石ノ森キャラクターのモニュメントが並び、通称「マンガロード」と呼ばれている

▲東日本大震災に際して応援メッセージを寄せたマンガギャラリー

こうした中、石巻市が開発を進めているのが「石巻市地方創生RPGアプリ」だ。埼玉県のインディゲームデベロッパー、有限会社 井桁屋に開発業務を委託し、iOSとAndroid向けに2021年3月の配信を予定している。2020年11月の定例記者会見で市長が発表すると、「スマホRPGで地域の魅力発信」(石巻かほく)「方言だって魔法名に?」(石巻日日新聞)と地元メディアで大きく取り上げられた。

石巻市産業部商工課長の遠藤氏は「震災から10年が経過した今、オリジナルゲームを開発・発信できるほどに石巻は復興しました。また、震災ではボランティアの方々をはじめ、全国から多くのご支援をいただきました。本作には震災復興のアピールと、数々のご支援に対する感謝の気持ちが込められています」と語る。

本作に限らず、公費を用いてゲーム開発を行い地方創生につなげる取り組みが静かな広がりを見せている。「ゲームアプリで地域の魅力を発信! 『群馬HANI-アプリ』が実現した、産官学連携で進む次世代のゲーム開発」でレポートした、『群馬HANI-アプリ』はその1つだ。もっとも、開発には課題も多い。どのような経緯で本作が開発されたのか、遠藤氏をはじめ行政側の話を聞いた。

▲『石巻市地方創生RPG(仮)』のイメージビジュアル

▲(左から)石塚氏、髙橋氏、遠藤氏(石巻市産業部商工課)

▲RPGの配信について伝える地元紙



ベースになったのは高校生のアイデア

本作のきっかけになったアイデアは、石巻市および石巻青年会議所が主催する「いしのまき政策コンテスト」から生まれた。石巻管内の学校に通う高校生・大学生らが、「2030の石巻!~SDGsが未来を変える~」をテーマに政策を発表するもので、2019年度は10月20日(日)に決勝大会が行われた。ここで優秀賞を受賞したのが、石巻西高校野球部の生徒による「アプリを活用してまちの魅力を発信する」という提案だった。

その後、この提案を基に庁内で実現に向けた検討が重ねられていく中で、「RPGとGPSやクーポンを組み合わせたゲームアプリ」というアイデアに膨らんでいった。

参考にしたのが、すでにリリースされていた4本の「地方創生RPG」だ。プレイヤーに対して地域の歴史や文化に沿った冒険やストーリーを提供しながら、観光客の回遊や消費を促すという内容で、市中心部の回遊強化やコロナ後を見据えた観光客誘致といった目的に即していた。

▲いしのまき政策コンテストは2016年から毎年開催されている。2019年度は6チームが決勝大会に進み、様々なプレゼンテーションが行われた(2020年度はコロナ禍のため中止)

コンテスト終了後、先行する自治体などに視察を行なった。11月に埼玉県行田市が製作・運営する『言な絶えそね 行田創生RPG』の視察で同市を訪問。翌年の2月には、淡路島日本遺産委員会が製作し、淡路島観光協会が運営する「淡路島日本遺産RPG『はじまりの島』」の視察のため、兵庫県南あわじ市を訪ずれた。その過程でゲームの概要や自治体側の取り組みが、徐々に明らかになっていった。

もっとも、自治体の中には「アプリなら良いがゲームはNG」といった具合に、ネガティブな反応を示す例もある。一方で、本作では表立った反対意見は聞かれなかったという。遠藤氏は「市長とも協議して、トップダウンに近いかたちで進んだ点が大きかった」とふり返る。

本案件には市長の亀山 紘氏も一定の理解を示していたようだ。市のホームページに掲示された「平成29年度 第1回市議会出張なんでも懇談会」報告資料には、「過日行われた未来石巻政策コンテストにおいて上位入賞した高校生の提案が素晴らしい。大人と若者の考えのマッチングできるような取り組みを求める」という質問に対して、次のような回答が掲載されている。

「現代は価値観が大きく多様化しており、行政だけでは吸い上げられないため、こういった機会は有意義であると受け止めている。上位入賞者の政策を実際に事業として導入することとなれば、予算確保やそれに伴う他予算の削減や歳入増加策なども合わせて検討していかなければならず、政策の優先度を含めて総合的に精査するという現実的な視点で判断を行うこととなる」。

▲市内に設置された石巻市復興まちづくり情報交流館「中央館」

▲(左)市内で進む国の復旧・復興工事の一覧/(右)旧北上川の両岸で進む工事



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