地方自治体が主導するゲーム開発が静かな盛り上がりをみせている。自治体が国の助成金などを財源に企画を立て、委託業者が開発するスキームだ。近年では教育機関と連携し、人材育成も踏まえて開発される例も出てきた。群馬県・熱中日和・専門学校が連携して取り組んだスマホ向け埴輪育成ゲーム『群馬HANI-アプリ』の開発・運用事例についてレポートする。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

盛り上がりを見せ始めたゲームによる地域活性化の取り組み

ゲーム開発技術をゲーム以外の目的で使用し、課題解決を図る行為。いわゆるシリアスゲームや、ゲーミフィケーションと呼ばれる領域だ。諸外国に比べて日本では取り組みが遅れがちだったが、意外なところから成功事例が出始めた。国の地方創生推進交付金などを財源とした、地域活性化を目的としたゲーム開発だ。地方自治体をクライアントに、公費すなわち税金を用いた受託開発と位置づけられる。

スマホARで城跡に天守閣を再現し新たな観光資源にしたり、地域の歴史や伝承をベースにRPGを開発しGPSチェックインによるスタンプラリー機能と組み合わせたりと、興味深い事例が出始めている。中には横スクロールアクションゲーム『宇治市~宇治茶と源氏物語のまち』のように、自治体がクラウドファンディングを活用してゲーム開発を行う例も見られるようになった。

こうした自治体主導型ゲームは企業側からすれば、一般のゲーム開発と比べて、主に3つの点でちがいがある。第一に公募をはじめ、独自の情報収集や自治体との関係性構築が求められること。第二に開発予算が数百万円~数千万円と総じて少ないこと。そして第三に単年度決算が原則で、予算の執行が下半期に集中するため、開発期間が半年程度しか取れない例が多いことだ。

▲『群馬HANI-アプリ』のチラシ

もっとも、こうした制約を産官学連携で乗り切る事例も出始めた。群馬県が主導して開発し、2020年3月31日にiOS・Android向けにリリースされた埴輪育成ゲーム『群馬HANI-アプリ』だ。すでに2万ダウンロードを実現し、関係者の予想を超えたヒット作となっている。企画立案した群馬県地域創生部文化振興課の酒井玲美氏と、開発を受託した熱中日和の花井直人氏、開発に協力した太田情報商科専門学校に話を聞いた。

▲群馬県文化振興課 酒井玲美氏(後列左、『ハニハニ群馬』出演者と)

呼び水となった『群馬HANI-1グランプリ』

「日本一の埴輪県」として知られる群馬県。2020年9月に国宝に指定された綿貫観音山古墳出土の埴輪をはじめ、国宝・国指定重要文化財の埴輪の約半数が出土するなど、質量ともに群を抜いている。

もっとも、そうした事実を知らない県民も少なくない。もっと埴輪の魅力を県内外にアピールすると共に、子どもたちや歴史文化にあまり興味のない若者層に関心をもってほしい。そのためには従来のイベントや冊子制作などにかわる、新しいアイデアが必要だ......。文化振興課で埴輪担当として様々な施策にかかわってきた酒井氏は、当時の係長である鈴木氏とともに、前々からこうした問題意識をもっていた。

そこで2018年に実施されたのが、群馬県で出土した埴輪を対象とした人気投票『群馬HANI-1(はにわん)グランプリ』だ。アイドルグループの総選挙をイメージして、事前に100体のエントリー埴輪を選定し、Webや葉書などで広く投票を呼びかけた。1万票の投票数が目標だったが、約2ヵ月間の募集期間で県内外から5万9,261票の投票をかぞえ、関係者を驚かせた。

全国から寄せられた投票で7,969票を獲得し、見事1位に輝いたのは藤岡市から出土した「笑う埴輪」だ。群馬古墳フェスタ 2018で行われた受賞式では、埴輪が出土した下田遺跡にほど近い藤岡歴史館が会場だったこともあり、大いに盛り上がった。

本施策について酒井氏は「子どもたちが古墳について関心をもつきっかけになりました。県では古代東国文化の中心地として繁栄した群馬の歴史に触れ、郷土への誇りと愛着を深めてもらうことなどを目的に、夏休みに『東国文化自由研究』を募っています。イベントの結果、2019年からは古墳時代をテーマとしたものが数多く応募されるようになるなど、埴輪王国群馬の認識の広まりを感じられるようになりました」と語る。

もっとも、これには伏線があった。募集パンフレットに記された「1位に選ばれた埴輪がセンターに、上位10体の埴輪がオリジナル動画で唄って踊る」という一文だ。これがネット上でバズり、投票数を上振れさせる要因になった。

「最初は人気投票だけでしたが、事前にヒアリングした事業者様から提案があり、それは面白いと公募内容に追加しました。もっとも、ネットで話題になったことで、本格的な動画コンテンツをつくることになり、受託された事業者様には、かなりご負担をかける結果になってしまいました」(酒井氏)。

▲『ハニハ二群馬~ぐんまのはにわと踊ろう!~』

▲「群馬HANI-グランプリ」のパンフレット(一部)

これ以外にも酒井氏は「群馬県の埴輪を対象とした人気投票にもかかわらず、北海道から沖縄まで、全国から投票があった」、「投票だけでなく、埴輪に関する熱い思いを書いてくれる人が多かった」ことに驚かされたという。ちなみに、投票にあわせて「推し埴輪」に寄せられた応援コメントは1,983件にのぼっている。

なお、本プロジェクトの原資となったのが、文化庁が管轄する「文化遺産総合活用推進事業(地域文化遺産活性化事業)」だ。公募は県のホームページ上で行われ、随意契約(プロポーザル契約)で実施された。受託業者は新潟県に本社を構え、イベント企画や編集業務などを手がけるニューズ・ラインで、契約金額は397万998円。イベントの主催者は群馬歴史文化遺産発掘・活用・発信実行委員会で、群馬県が事務局を務めた。

このように、予想外の盛り上がりをみせた『群馬HANI-1グランプリ』。このまま終了させるのはもったいないと、終了後に新たな企画が考案された。それがスマートフォン向け埴輪育成ゲーム『群馬HANI-アプリ』の開発と配信だ。当初、令和元年度の補助金申請に向けて書かれた申請書はスマートフォンのGPS機能を生かし、スタンプラリー形式で埴輪の展示施設を巡る周遊アプリの予定だったが、差別化のため埴輪の育成要素が盛り込まれた。群馬県では過去にも3作、同様のアプリを配信した実績があり(これらは県の東国文化ポータルサイトにまとめられている)、反対意見はなかった。

念頭にあったのは、酒井氏が子どもの頃に親しんだ育成ゲーム『たまごっち』だ。アプリ開発業者と構想を固めた上で文化庁に内容の変更を相談したところ、認められ、プロポーザルが実施された。その結果、採択されたのは新宿に事務所を構えるゲーム開発会社、熱中日和だった。

専門学校と連携しデザイン費用を抑える

さて、ここで時計の針を戻そう。県から提示された募集要項に記された見積もり限度額は、739万6,000円(税込)だった。金額の是非はともあれ、一般的なゲーム開発の予算からすれば、元々周遊アプリの予定だったこともあり、かなり物足りないのは事実だろう。個人クリエイターではなく、一般のゲーム開発会社からすればなおさらだ。それでは、なぜ熱中日和は受注に至ったのだろうか。

もっとも、開発予算が少ないのは県も承知していた。そのため官学連携で開発予算を圧縮できないかと、酒井氏から群馬県下の専門学校に打診があった。太田市にある太田情報商科専門学校はそのひとつだ。学校法人太田アカデミーが運営し、ゲームクリエイター学科やデザイン学科など、2年制から4年制まで7学科29コースが存在する専修学校だ。

学校側では「グラフィック素材の制作では協力したいが、本格的なゲーム開発を受注することは難しい」として、関係のあるゲーム開発会社に仲介を考えた。白羽の矢が立ったのが、熱中日和の代表取締役で、同校で非常勤講師も務める花井直人氏だ。ナムコ、ポジトロンなどを経て2005年に同社を設立。ゲーム開発を行うかたわら、複数の専門学校で教鞭を執るなど、人材育成にも力を入れている。学校側から打診を受けた花井氏は、二つ返事で引き受けた。

▲左から鈴木岳見氏、丸山和哉氏(太田情報商科専門学校)、花井直人氏(熱中日和)

ゲームの開発金額としては物足りないが、講師業を通した学校側とのつながりや、学生の実力を踏まえた業務の切り分け、そしてゲーム開発技術の異業種展開への関心などを鑑みて、本案件を引き受けることにしたという。これまで産学連携でゲームを開発した実績はなく、不安な点も多々あったが、過去の経験から「自分が動いて学生を集めれば、実現できる」という見通しもあった。

ちなみに、この時点で県側から提示されたアプリの仕様は、大きく次の5点だ。

①スマートフォン・タブレット向けアプリ(iOS、Android)であること。サーバは使用せず、クライアント完結型であること
②アプリ内で『群馬HANI-1グランプリ』の埴輪100体を紹介すること
③埴輪の育成ゲームを通して、埴輪について親しみがわくこと
④育成方法やゲーム内のクイズなどを通して、埴輪について学べること
⑤埴輪の所蔵施設(博物館など)への周遊を促す内容であること

ここから花井氏は「育成ゲームなら成長段階や結果に応じてキャラクターのバリエーションが必要だが、デザイン費用だけで予算を上回る」と判断。そこから「デザイナー志望の学生に埴輪のデザインとデータ制作を担当してもらい、開発費用を圧縮する」ことを発案した。そして、これをベースに企画書を作成し、応募したところ、見事受注に成功。合計で5~6社の提案があった中で、登場予定の埴輪が約40体と、群を抜いて多いことが決め手になった(※)。

※なお『群馬HANI-1グランプリ』、『群馬HANI-アプリ』は一般入札ではなく、公募型プロポーザル契約で事業者が選定されている。プロポーザル契約は随意契約の一種で、一般入札が入札金額で決定されるのに対して、事業者と企画内容を鑑みて決定される点にちがいがある。こうした理由から本案件をはじめ、一般入札に馴染みにくい案件で採用事例が増えている

▲公募時に県から提示された企画案

契約が終了すると、熱中日和と酒井氏との間で仕様の詳細が詰められた。その結果、中核となるゲーム体験は「埴輪のキャラクターを育て、最終段階を群馬県出土の埴輪とし、育てた埴輪などで古墳を飾る」というものになった。ベースとなったのが「自分の好きな埴輪を古墳に並べて、マイ古墳をつくるのが、埴輪好きの夢」という酒井氏のアイデアだ。花井氏は打ち合わせを通して「埴輪が本当に好きで、仕事の域を超えて進めている」と感じたという。

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Slackを通して約40名の学生を管理

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Slackを通して約40名の学生を管理

ここで、改めてスケジュールについて確認しておこう。学校側から提案があったのは4~5月。公募締切が8月20日で、審査を経て契約が終了したのが9月中旬。最終納品は翌年3月末で、実際の制作期間は約半年間だった。

そこからスケジュールを逆算して、花井氏は年内の3ヵ月でグラフィックデータを作成し、年明けから3月末をプログラミングの期間に充てた。そのうえで太田情報商科専門学校を筆頭に、県下の専門学校に協力の打診をしていった。

最終的に本プロジェクトに名を連ねた専修学校は下記の5校で、約40名が参加した。このうち参加者数が15名を数えるなど、最も貢献度が高かったのが太田情報商科専門学校だ。2D・3Dの専門にかかわらず、複数のコースから学生が参加した。また、偶然にも仕様書作成を手がけた若手ゲームデザイナーが太田情報商科専門学校の卒業生と、同校に縁の深いプロジェクトになった。

太田情報商科専門学校(群馬県太田市)
東日本デザイン&コンピュータ専門学校(群馬県前橋市)
中央情報大学校(群馬県高崎市)
国際理工情報デザイン専門学校(千葉県千葉市)
アーツカレッジヨコハマ(神奈川県横浜市)
※は花井氏の赴任校

データの発注に際して熱中日和側から提示した条件には、「連絡や納品はSlackで行うこと」、「質問などは学校を経由せず、Slackで直接行うこと」、「質問や修正に関する要望は1営業日以内で返答すること」などがあった。他に仕様書(画像の収め方、アウトライン、塗りの付け方など)・発注リスト・確認用ツール(Unityプロジェクトかexeファイル)などが提供された。また、専任のデザイナーが1名つけられ、質疑応答やチェックバックに臨んだ。

発注内容は埴輪のキャラクターデザインとアニメーションデータ(約10種類)の2種類で、制作する埴輪は第一世代(幼児相当)から第四世代(成人相当)まで約40種類だ。このうち学生は、1人1種類以上の埴輪データをつくることが条件となる。アニメーションデータには全コマのイラストを作成し、png画像で提出する方式と、UnityのAnimatorで作成し、Assetにして提出する方式が提示された。

▲熱中日和から学生に示された発注仕様書(一部)

これに対して学生は(前述の通りコースがまちまちだったこともあり)、Photoshopで連番データを作成する者もいれば、3DCGモデルをつくり、アニメーションをつけた上で、2Dイメージにレンダリングした者もいた。中には2Dアニメーションソフトをベースにデータを作成したケースもあったほどだ。「学生の専攻やスキルにあわせて、かなり自由に作業を進められました」(太田情報商科・鈴木氏)。

もっとも、約40名の学生をSlack上で管理するのは、なかなか大変だった。参加者の2/3は女子学生で、可愛らしいキャラクターを好む傾向があり、第一世代~第二世代の埴輪デザインに希望が集中した。その一方で、作業が進むうちに連絡が取れなくなる学生も出てきた。学校によっては、約半数の学生が脱落したほどだ。こうした中でも、太田情報商科専門学校の学生は全員が最後までやりきった。花井氏は「先生方による学生指導の賜物で、週1回は放課後に学生を集めて声がけをしていただくなど、サポートしていただいた」とふり返った。

これに対して同校の専任教員として学生指導にあたった鈴木岳見氏と丸山和哉氏は、「学校側を経由せずに、直接Slackで学生が連絡できたため、時間のロスが少なかった。教員側の負担も軽減できた」とふり返った。学生側からも質問に対する回答や、クオリティチェックなどが短時間で受けられたので、好評だったという。時間がかかると、それだけモチベーションが下がってしまうからだ。

▲熱中日和から学生に示された提出チェックリスト(一部)

ただし、このように企業と学生が直接つながることで、トラブルが発生することもあり得る。本プロジェクトでは教員側もSlackで参加したが、授業や校務などもあり、常時状態を確認できるわけではない。それでも大きなトラブルがなく完遂できたのは、花井氏が講師業を通して教員と信頼関係が築けていた点が大きいという。太田情報商科専門学校の鈴木氏は「県側から打診を受けたとき、すぐに花井氏の顔が浮かんだ」という。信頼できるパートナーあってこその産学連携だと述べた。

「プロのゲーム開発者との共同制作を通して、学生がモノをつくることの責任感について学べました。今回はその点が最も大きかったと思います。参加した学生からも『こうした経験が在学中にできて良かった』などの声が寄せられました。こうした経験は、プロとして長く仕事を続けていける人材を輩出する上で、重要な要素だと思います。熱中日和さんのように、信頼できるプロと連携できるのであれば、今後もどんどんやっていきたいですね」(太田情報商科専門学校・鈴木氏)。

ちなみにクオリティ面では「最初の埴輪デザインの段階では『埴輪らしさが出ているか』、『それぞれの特徴が出ているか』という点を中心にリテイクが出されることもあった。しかし、それ以外で大きな修正要求はなかったという。実際、言われなければプロによるものか、学生によるものか、判断がつきにくいレベルに仕上がった。学校側の指導の賜物だろう。

▲学生がオリジナル埴輪のデザインとデータ作成を担当したプレイ画面

なお、本作には育成ゲームならではの工夫も行われている。全体のボリューム感と想定プレイ期間だ。本作は小学生から一般層まで幅広い層をターゲットとしている。このことは毎日遊ぶヘビーユーザーから、両親のスマホを借りて週に1回程度プレイする子どもたちまで、遊ばれ方が不明瞭であることを意味している。そこでゲームの進行速度でばらつきを抑えるため、プレイ頻度に応じて成長速度が自動的に調整されるしくみが加えられている。

ともあれ、こうしたサポートや学生自身の頑張りなどもあり、スケジュールは順調に進行。当初の予定通り、2020年3月末日にリリースすることができた。なお、産学連携を通して、グラフィックデータの制作工数は約半分にまで短縮できたという。

▲花井氏(写真後列左)と開発に参加した太田情報商科専門学校の学生たち

リリース後の反響と今後の展開

こうしてリリースされた本作。総ダウンロード数は約2万件で、「無料アプリとはいえ、ほとんど宣伝していない状況で、この数字は快挙」(熱中日和・花井氏)だという。酒井氏も「育成できるのは県内で出土した埴輪だけなので、遊んでもらえるのも県民が中心だろうと思っていました。そのため当初のダウンロード目標は1,000件でした。それが、こんなに多くの人に遊んでもらえて驚いています」とコメントした。

もっとも、そこにはSNSなどを用いたプロモーション活動があった。そのひとつが、県の公式Instagram「ぐんまハニスタグラム」だ。「Instagramには、個人アカウントで飼い猫の写真などをアップロードしていました。公式ホームページによる情報発信ではワンクッションあるので、もっと即時的で、視覚的な情報発信ができたらと思い、スタートしました」(酒井氏)。それまでのイベントで知り合いになった埴輪ファンが登録してくれて、情報拡散に貢献してくれた。

そうしたインフルエンサーの1人が、古墳にコーフン(興奮)する集団「古墳にコーフン協会」の代表で、古墳シンガーのまりこふん氏だ。これに限らず、古墳ファン、埴輪ファンには若い女性が多いという。「土偶ファンにも通じるところがあると思うのですが、特に埴輪には『ゆるいデザイン』が多く、ツッコミどころが多い点が共感を呼ぶのではないでしょうか。また、文字がない時代の出土品なので、いろいろ想像して自分なりのストーリーがつくれる点が人気の要因かもしれません」(酒井氏)。

また、コロナ禍の外出制限もプラスに働いたという。「このゲームで埴輪について知ってもらって、いつか実際に親子で博物館に行けたら良いよね......。そんな声も耳にしました。コロナがなければ、ここまでダウンロード数が伸びなかったかもしれません」(酒井氏)。花井氏も同様で、「県のホームページで感染者数の情報を得た際に、本ゲームの存在を知った人も多かったようだ」とふり返った。

▲群馬県公式はにわガイドブック『HANI-本(ハニぼん)』

このほか、本作の開発と並行して、群馬県公式はにわガイドブック『HANI-本(ハニぼん)』も県の予算で制作・出版された。教育関係の専門新聞社にプレスリリースも出した。「クイズを解いてもらえれば、埴輪についての知識が身につく。ステイホームで外出できなくても自宅で楽しんでもらえるツールとしてアピールしました。つくって終わりではなくて、『いかに広報をするか』に熱量をかけています。もちろん、お金をできるだけかけずに、ですが(笑)」(酒井氏)。

今後の展開についても準備が進んでいる。「今年はコロナ対応が優先されて、予算がとれませんでした。しかし、せっかくゲームと本で埴輪について学んでもらったので、2021年度は改めて予算をつけて、Webで『埴輪検定』を実施しようと思っています。アプリをアップデートして、そこからWebにアクセスしてもらい、回答してもらうイメージです」という。

ただし、自治体が主導するゆえの問題もある。単年度決算の縛りで、サーバの運営費が捻出できない点だ。「育成ゲームで、何年も運営されることを考えたとき、サーバが立てられれば、埴輪やクイズの追加など、アイデアも広げられたのですが......」と花井氏は語る。細かいバージョンアップや修正についても、同社が無償で行なっている状態だ。いずれも担当者ではどうにもならず、国全体の制度設計の話となる。

▲ゲームのクイズ画面(左)とチェックイン画面(右)

発注条件にもあるように、本作には「実際の古墳に出かけて『発掘』すると、特別なごはんをゲットできる」、「県内32か所の博物館や東京国立博物館に行くと『お友達埴輪』をゲットできる」など、GPS機能を活かした仕様がある。もっとも、このうちリリース時は群馬県内の92箇所の古墳にしか対応していなかった。これが8月20日のアップデートで、県外129箇所でも発掘できるようになった。

花井氏は「いずれも半日程度の作業で、それほど負担ではない。自分は神奈川県在住なので、県外対応は当初からやりたかったことのひとつ」と語るが、イレギュラーな対応であることは事実だろう。本来であれば年度ごとに保守運営費が別立てで用意されるべきだが、補助金ベースでのアプリ開発では難しい。前述の通り、年度ごとに予算執行が求められるからだ。

本件に限らず、こうした「複数年度にまたがったアプリ運営の予算捻出」問題は、自治体主導型アプリ開発の関係者で、ネックとしてあがる項目のひとつだ。別途進めているヒアリングでも、契約書に「OSのアップデートに関する修正対応は行わない」と明記された例も聞かれた。このことは、せっかくつくられたゲームが関係者の意図によらず、遊べなくなることを意味している。今後議論が求められる点だろう。

もっとも、こうした課題は公費でアプリ開発が行われるようになって、はじめて明らかになってきた事柄だ。問題があれば、それに即したように制度設計を変えればいい、ということになる。それができるか否かは、自治体主導型のアプリ開発が今後、どれだけ盛り上がるかにかかっている。産官学連携で実現した『群馬HANI-アプリ』は、その興味深い事例のひとつだといえそうだ。