>   >  [産学連携のトリセツ]「産」と「学」を分けない。壁を壊し、地続きにする
[産学連携のトリセツ]「産」と「学」を分けない。壁を壊し、地続きにする

[産学連携のトリセツ]「産」と「学」を分けない。壁を壊し、地続きにする

自分の裁量で動ける環境をつくる

CGW:3人とも、活動の範囲も量も超人的で、この座談会が「産学連携のトリセツ」として機能するのか心配になってきました(苦笑)。産学連携に率先して取り組んでいる方々は、そういう傾向にあるのでしょうか?

簗瀬:超人的でない人は、あまりいないように思いますね。もうひとつの傾向として、産学連携で成果を出している学術界の方々は、産業界出身者が多いです。例えば元IBM、元SHARPなど......。企業での実績があり、大学に足場を移した方々は、両方の事情を把握なさっています。一方で、東京大学の稲見昌彦教授のように、産業界出身者でなくても、産業界から引く手あまたの先生もいるので、一概には言えませんけれど。

長谷川:確かに、超人的な方々はすごく多いですね......。そして、産業界出身者が多いというのも同感です。例えば安生さんは産業界出身者で、今も産業界に身を置きつつ、ビクトリア大学の教授とディレクターも兼任しています。

簗瀬:超人的な働きができるかどうかは、「自分の裁量で動けるかどうか」によるところが大きいので、様々なことを自分の裁量で処理できる環境をつくっている人が多い印象です。裁量が限られていると、第三者の介入で共同研究が中断したり、付き合いにくくなったりします。加えて、直接的なメリットがなくても、意見や助力を求められれば応じる姿勢でいると、歓迎されますし、信頼が積み重なっていきますね。例えば私の場合は、Unityを使っていない研究であっても、機会があれば助言をするようにしています。信頼の積み重ねは、研究費と同等か、それ以上の価値があると思っています。

三上:「自分の裁量で動けるかどうか」は重要だと思います。大変な役割ほど、率先して引き受けて、自分でハンドリングして効率化した方が楽になりませんか? そうやって仕事を圧縮して、産業界と関わる時間をつくるように努めています。

相互理解を深め、共同研究の土壌を育てる

CGW:座談会の締めくくりに、産学連携に関する皆さんの今後の展望を教えてください。

長谷川:当面の目標は、産学連携による共同研究のためのしくみをつくり、社内の様々な課題を大学と共有し、共同研究をスタートさせることです。すでに一定の成果が出ている共同研究もありますが、まだまだ学術界との距離は縮まっていないのが実状です。もっと気軽に当社から大学に相談をもちかけたいですし、大学の方々を当社にお招きして、特別講義を依頼したり、意見交換をしたりする機会をつくっていきたいです。気軽にコミュニケーションできる、近い距離感の存在になりたいというのが、私の願いであり展望でもあります。

三上:私の展望は2つありますね。第1に、修士課程や博士課程の修了生が、どんどん企業へ入っていくようになってほしいと願っています。研究を修了した人たちの価値が高まり、その人たちがハブとなり、出身研究室と連携し、産学連携を牽引していくながれをつくりたいです。第2に、企業でひとつのプロジェクトを終えた人が、次のプロジェクトに移行する前の一定期間、特任教員として企業と大学の両方に所属する環境をつくれないかと考えています。週2回くらいの頻度で大学で講義をしてもらえたら、学生が現場の知見を得る良い機会になりますし、われわれ教員の視野も広がります。企業の人にとっても、論文を読み放題、設備も使い放題の大学という環境に身を置くことはメリットがあると思います。もちろん輪講や学会にも参加できます。そうやって学術界の知見やつながりを得た人が再び企業のプロジェクトに戻っていく一方で、次の企業の人が特任教員として大学にやってくるというサイクルを実現できれば、わざわざ産学連携という言葉を使うまでもなく、産と学がより身近な存在になっていくと思います。

簗瀬:そもそも産学連携は、「企業が研究費を出して、大学に研究してもらう」こととイコールではありません。学術界の知見をもつ人を企業のプロジェクトに加えるか、もしくは企業のディレクション能力をもつ人を大学のプロジェクトに加えるかのいずれかだと考えるべきです。そこで研究費が必要となり、企業に出す体力があれば、出せばいいのです。これを実行する上で一番重要になるのが、相互理解でしょう。必要とされる人材を交換するためにも、誰かにしわ寄せがいくブラックな環境にしないためにも、相互理解が不可欠です。昨今は新しい事業を開始するときのハードウェアの生産コストが下がっており、修士課程や博士課程の修了生が起業するケースが増えています。そういう新興企業は、自分たちと同じような人材、研究を修了した人材を迎え入れるので、産学連携を理想的なかたちで実践できる組織に育つはずです。既存の枠組みで人材募集を行なってきた企業は、将来的に不利にならないためにも、今のうちから産学の壁を壊し、地続きの関係性を構築していく努力をする必要があるでしょう。もっとカジュアルに共同研究ができる土壌を育てていくことは、産業界にも学術界にもメリットのあることだと思います。

info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.270(2021年2月号)
    第1特集:もっと! 気になるイケメン'21冬
    第2特集:産学連携のトリセツ
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2021年1月9日
    cgworld.jp/magazine/cgw270.html

特集