>   >  [産学連携のトリセツ]「産」と「学」を分けない。壁を壊し、地続きにする
[産学連携のトリセツ]「産」と「学」を分けない。壁を壊し、地続きにする

[産学連携のトリセツ]「産」と「学」を分けない。壁を壊し、地続きにする

産学連携に率先して取り組んできた先駆者たちは、今日までにどんな経験をし、どんな考えをもち、どんな展望を抱いているのか。オンラインの座談会にて、ざっくばらんに語り合ってもらった。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 270(2021年2月号)掲載の「第2特集 産学連携のトリセツ/「 産」と「学」を分けない。壁を壊し、地続きにする」を再編集したものです。

TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

三者三様の産学連携の取り組み

CGWORLD(以下、CGW):はじめに自己紹介をお願いします。

長谷川 勇氏(以下、長谷川)スクウェア・エニックス テクノロジー推進部の長谷川です。社内の技術的な課題を外部のリソースを使って解決するしくみづくりに取り組んでいます。各大学との共同研究にも関わっていますが、どちらかと言うと、共同研究のためのしくみづくりの方がメインの業務です。

  • 長谷川 勇氏
    スクウェア・エニックス
    テクノロジー推進部 シニア・マネージャー/R&Dテクニカルプロデューサー。オープンソース、ソフトウェアプロダクト、エンタープライズシステムなどの開発を経て、ゲームプログラマーに。スクウェア・エニックスに入社後は、Luminous Studio(現、Luminous Engine)、『FINAL FANTASY XV』の開発に参加し、VFX・UIを担当。専門は言語処理系。SIGGRAPH Asia 2018 Real Time Live! チェア、情報処理学会 ソフトウェア工学研究会 運営委員、情報処理教育委員。共著に『ゲームエンジニア養成読本』(技術評論社)がある。


三上浩司氏(以下、三上)東京工科大学 メディア学部の三上です。私は純粋な学術畑出身ではなく、産業界でキャリアをスタートしました。大学卒業後、新卒で日商岩井という総合商社に入社し、コンテンツを提供するサービスやインフラ、ビジネス全体のしくみをつくっていく中で、「もっと中身の制作に関わりたい」と思うようになり、本学のクリエイティブ・ラボの設立にプロデューサーとして参加しました。その後、本学の教員になり、学術界に転向してからは「産も学も自分の土壌」という少し変わった気持ちで、産業界の方々とお付き合いをさせてもらっています。

  • 三上浩司氏
    東京工科大学
    東京工科大学 メディア学部 教授、東京工科大学大学院 バイオ・情報メディア研究科 メディアサイエンス専攻 教授。1995年より家庭用ゲーム機の通信対戦サービス、メタバースビジネスなどの起ち上げに従事した後、1998年に金子 満氏(JCGL創設者)と共に東京工科大学 片柳研究所にクリエイティブ・ラボを設立。プロデューサーを務める。ゲームデザイン研究やxRを活用したエンターテインメントの拡張や、手描きアニメ表現のCGアニメーションやゲームへの応用などに従事。博士(政策・メディア:2008年 慶應義塾大学)。共著に『ディジタルアニメマニュアル2009』(デジタルアニメ制作技術研究会)などがある。
    http://mkmlab.net


簗瀬洋平氏(以下、簗瀬)ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン(以下、ユニティ) クリエイター・アドボケイトの簗瀬です。私の担当は学術で、ミッションは「学術の世界でUnityを使ってくれる人を増やす」というものです。やり方は個人の裁量にまかせられているので、私の場合は、大学の方々と一緒に共同研究を行い、しっかりと成果を出していくことをメインの活動にしています。その活動を通して、Unityを使った優れた研究を増やしていくことを目指しています。

  • 簗瀬洋平氏
    ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン
    クリエイター・アドボケイト(学術)。ゲームデザイナー/シナリオライターとしてゲーム制作に携わる。主なプロジェクトは『ワンダと巨像』『Folks Soul 失われた伝承』『魔人と失われた王国』など。2012年よりスクウェア・エニックスでリサーチャーに転進、現在はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンで学術・教育方面を担当しつつ研究者として活動。東京大学 先端科学技術研究センター 客員研究員、大阪芸術大学 アートサイエンス学科 客員教授、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科付属メディアデザイン研究所 リサーチャー。
    https://sites.google.com/site/yoh7686/home


CGW:現在ご自身が取り組んでいる産学連携の、具体的な内容を教えてください。

長谷川:開発現場における課題を発見・抽出し、それを抽象化して大学側に公開するためのプラットフォームをつくっています(プラットフォームの詳細は月刊『CGWORLD』vol. 270で紹介)。産学連携に興味をもつ組織は多いですが、利害が一致せず、上手くいかないケースが多々あります。産学の間を取りもち、上手く利害が一致する大学とマッチングさせ、共同研究を軌道に乗せる術を日々模索しています。

▲吉田則裕氏(名古屋大学)、小川秀人氏(日立製作所)、長谷川氏らによるCEDEC 2019のセッション「その課題,大学と一緒に解決しませんか? ~産学連携・共同研究のススメ~」の発表資料より抜粋。大学と企業が共同研究に取り組む場合の代表的なながれを示している。これはあくまで代表例であり、例えば研究課題発掘とパートナー選定が前後するケースもあり得る


三上:企業の方々からは様々な問い合わせをいただきますし、折にふれて情報交換もしています。大学が取り組むに値する課題で、目指すゴールがきちんと定まっていれば、共同研究をスタートさせます。実際、私の研究室はスクウェア・エニックスさんと積極的に情報交換をしながら課題の発見に取り組んでいます。企業内で課題を発見し、その後でパートナーの大学を探すというケースもあると思いますが、先にパートナーを選定し、一緒に課題を探すというケースもあります。スクウェア・エニックスさんと当研究室の関わり方は後者にあたりますね。2019年からはバンダイナムコスタジオさんとも産学連携に取り組んでおり、当研究室を含む5つの研究室が参加しています。すでに課題共有まで進んでおり、長期的な視点でもって共同研究を進めています(共同研究の詳細は月刊『CGWORLD』vol. 270で紹介)。

簗瀬:私の場合は、客員研究員やリサーチャーとして大学の研究を支援するというかたちをとっています。代表的なものだと「Unlimited Corridor」「StratoJump」などの共同研究があります。これらの研究では、産業界の視点から研究テーマ自体を提案しました。さらに私の場合は学術界に対する理解もあるので、コンテンツ制作関連の研究をどのように論文にしていくか、アピールしていくかといったアドバイスもしています。

産と学は、お互いを補完できる存在

CGW:先ほど、長谷川さんは「利害が一致せず、上手くいかないケースが多い」とおっしゃいました。産と学とでは利害が大きくちがう点が、産学連携を難しくしているのだと思います。皆さんは、どこにメリットを感じて産学連携を推進しているのでしょうか。「ここがうれしい」という要点を教えてください。

長谷川:産業界だけでは解決できない課題を、学術界の助力を得ることで解決できる可能性があります。逆に、産業界の知見が学術界の研究に役立つこともあります。お互いを補完できるという点で、産学連携にはとても大きな価値があります。近年の研究開発は目まぐるしい速度で進んでおり、当社だけでゲーム開発に関わる全領域の最新動向をリサーチすることは困難です。かといって、競合他社との協業は難しい場合が多いです。大学は共同研究の相手として非常に選びやすいという側面があります。実際、欧米のゲーム会社やCGプロダクションでは、共同研究を通して最新動向に関する理解を深め、学生との交流を通して次世代の開発者も育成し、採用にもつなげるしくみが定着しています。

三上:本学は「実学主義」という教育理念を掲げており、「産業界で役立つ研究をする」ことを目指しています。産業界のトップレベルの方々の課題を共有してもらえることは大きなメリットです。信頼されている証でもあるので、誇らしくもありますね。費用を頂戴できる共同研究の場合は、機材や研究員の雇用、海外での研究発表、論文誌への投稿にかかる費用を捻出できることもメリットのひとつです。一方で、例えば国際学会の学会誌論文(Journal論文)の採択数を重視し、実学にはさほど重きを置かない大学の場合は、先のような点はメリットにならないかもしれません。

簗瀬:三上先生がおっしゃるように、私の周囲にも企業から相応の費用を受け取って共同研究をしている研究室は多いです。ただ、そういうケースばかりだと「産学連携はハードルが高い」と思う企業もあります。当社の場合は、研究費を大学に支払うかたちはとっていません。その代わり、研究者でもある私が大学に出入りし、研究や論文指導を一緒に行い、成果を出していくようにしています。

CGW:研究費は支払っていなくても簗瀬さんの人件費はかかっているわけですし、成果が出ているなら、双方にメリットのある関係性と言えそうですね。

三上:同感です。実際に共同研究が始まれば、企業の方々が大学に来て、一緒に研究をすることになります。自分たちのホームグラウンドで、プロフェッショナルの仕事を見たり、意見を聞いたりできます。しかも学生たちも、アルバイトのような立場ではなく、主体的に研究に参加できる。学生の立場からすれば、未来を開拓する技術を用いた就業体験ができることは大きな価値です。これまでに身に付けた技術や知識を実践でき、産業界の実状を知ることができ、指導やアドバイスも受けられます。適切なパートナーを見つけるために時間がかかったり、学生の技術や知識が不十分だと恩恵を受けられなかったりといった側面はあるものの、上手く作用すれば、産学連携による共同研究はすごく魅力的なものになります。

CGW:就活のための業界研究という点でも、メリットがありそうですね。

三上:はい。加えて、産学の交流が新たな講師を迎えるきっかけになるケースもあります。例えばユニティの安原広和さん(ゲームデザイナー)は、特任准教授として着任されており、ゲームデザインやUI・UXデザインの指導を担当しています。バンダイナムコスタジオの方々にも、共同研究の一環で今年度から特別講義を実施していただいています。これもまた、産学連携のメリットのひとつだと思います。

簗瀬:産業界の方々が、学術界の方々の論文やその発表に対して、「この研究は、こういう用途に活用できるのでは?」「この点は、実用的だと思いますよ」といった意見を伝えてあげると、ものすごく感謝されますね。実用性がないように見える研究でも、まったく異なる視点から見ると、急に展望が開ける場合もあります。視点のちがう人々の交流を通して、新たな気づきが得られることも産学連携のメリットでしょう。学会に参加する大学関係者の指摘は厳しいものが多く、「新規性がない」「使い道がない」といったことを言われがちですが、産業界の方々がポジティブな意見を伝えることで、医療やゲームへの転用の道が拓けたケースもありました。

長谷川:産業界からのポジティブなフィードバックは研究のモチベーションにもつながるようですね。安生健一さんの招待で、ニュージーランドにあるビクトリア大学のCMIC(Computational Media Innovation Centre)を訪問した際、学生のとある研究を「おもしろいですね」と褒めたら、すごく喜んで、今まで以上に研究に打ち込むようになったという話を後から聞きました。

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相手のメリットへの不理解が落とし穴をつくる

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