Session 03:個人作家のキャリアデザイン2
2019年の第1回IMARTでも開催された「個人作家のキャリアデザイン」。その第2弾にはアニメーション作家の山村浩二氏と、プロデューサーの岡本美津子氏が登壇。モデレーターは土居伸彰氏が務め、東京藝術大学で後進の育成にも取り組む2人のキャリアを追いながら、今後のアニメ作家やプロデューサーに求められるものを探っていった。
まず山村氏はセッションのタイトルに反して「今までキャリアをデザインしようという意識はまったくなかった」と告白。「作家として、そのときどきの興味と衝動にまかせて活動してきた結果が現在に至っている」と自らを分析する。
1964年生まれの山村氏は「70年代、80年代に出会った作品が大きく影響していて、そのときの理想やモチベーションが今も続いている」と話す。とくに高校生のころに出会ったジャック・ドゥルーアンのピンスクリーン・アニメーション『心象風景』に魅了されたことで、「日本で一般的に接してきたマンガ・アニメ以外の可能性を感じ、今の自分のキャリアに直接繋がる出会いとなった」と振り返った。
▲山村浩二氏のキャリア
山村氏が初めて手がけたアニメは、中学生のときに制作した『しょーとしょーとしょうげきじょう』だ。本作は同年創刊のアニメ雑誌『アニメージュ』のコラム「おかだえみこ・鈴木伸一のアニメ塾」を読み、8ミリカメラで個人でもアニメ制作ができると知って衝動的につくった作品だという。
プレゼンではそういった自主制作アニメから、第75回アカデミー賞短編アニメ賞にノミネートされた代表作の『頭山』、さらに現在制作中の最新作『幾多の北』まで紹介。また絵本作家としても活動しており、出版関係者からは「アニメーションの知見も深いんですね」と言われてしまったことがあると笑顔を見せる一幕も。その多彩な活躍ぶりは、土居氏も「唯一のキャリアデザイン」と評するほどだった。
▲山村浩二氏のキャリア
岡本氏はNHKから転職して東京藝大に入るという経歴をもち、セッションでは自ら企画した番組『デジタル・スタジアム』と『テクネ 映像の教室』について企画意図を説明した。
2000年から2010年まで放送された『デジタル・スタジアム』は視聴者が手がけた作品をプロのが講評する公募番組で、若いクリエイターの発表の場をつくることを目的に制作された。本作では数多くの映像が紹介されたが、岡本氏は「力を入れようとしたのは放送の後」とコメント。「放送して終わりにしない」をモットーに、プロデビューに向けたサポートをしたり、イベントのプロモーションをしたり、さらに個人的な進路相談を受けたりと、クリエイターと「社会との接点」を生むことを重視していたという。そこから現在も活躍する多彩なクリエイターが誕生した。
▲『デジタル・スタジアム』のしくみ
2012年から放送中の『テクネ 映像の教室』では各回で異なる表現技法をテーマに、それらを用いた映像を紹介している。『デジタル・スタジアム』は作品を募集して審査・放送する「刈り取り型」であったが、『テクネ 映像の教室』はクリエイターに映像制作を依頼する「種まき型」で、それによって若手からベテランまで幅広い作家に発注することが可能となった。
このようにプロデューサーの働きかけによって、クリエイターを応援することもできる。そのため岡本氏は「個人作家のキャリアデザインを考えるにあたり、プロデューサーなど周辺の人材育成も重要になるだろう」と語った。
▲『テクネ 映像の教室』のしくみ
後半では土居氏も交えてディスカッションを展開。どのようなミッションを課して創作活動に臨んでいたのか、プロデューサーに求められる資質、教育現場で若い人たちに伝えていることなど、様々な話題が飛び出した。
最後に山村氏は、近年自らプロデュースをするようになったのは、自分だけの作品ではないものをつくっていきたいと考えたからだと明かす。そして新しいものを生み出したいという作家同士がネットワークをもつことが、理想的なキャリアデザインの形成に繋がるのではないかと展望を述べた。
それを受けて岡本氏は、近年では車のUIなどにアニメーションを利用する研究も進んでいることなどに言及し、作品制作だけではなく、他分野でも個人作家のポテンシャルが活かせるのではないかと発言。時代によって変化するキャリアデザインについての示唆に富んだセッションとなった。