2月26日(土)、27日(日)の2日間にかけて、マンガ・アニメ業界のボーダーレス・カンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima 2021」(IMART 2021)が開催された。2019年に続く第2回目の開催となった同カンファレンスでは、全24セッションをラインナップ。本稿では開催初日に行われたポリゴン・ピクチュアズ(以下、PPI)の塩田周三氏による基調講演と、開催2日目のセッション「個人作家のキャリアデザイン2」の模様をレポートする。
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TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
Keynote:デジタルアニメーションにおけるクリエイティブと経営
PPIは1983年に設立した国内最大規模の老舗3DCGスタジオであり、塩田周三氏は2003年に3代目の社長に就任した。基調講演のモデレーターはジャーナリストの数土直志氏が務め、国内外で数多くの作品を手がけてきたPPIの軌跡をふり返った。
塩田氏はPPIの特徴として国際色の豊かさを挙げる。現在のスタッフは約300名、その中の15~20%が外国人材であり、社内では日本語だけでなく英語も飛び交い、会議は同時通訳もされているインターナショナルな職場だという。そういった多彩なクリエイターたちと共に、2020年は30タイトルの作品に携わり、計880分の映像を手がけた。
▲ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役社長・塩田周三氏
塩田氏はPPIについて「創業者である河原敏文のDNAが受け継がれているスタジオ」だと評する。社長に就任した際には、河原氏が口癖であった「誰もやっていないことを、圧倒的なクオリティで、世界に向けて発信していく」という考えを社訓に掲げて、PPIのDNAを継承した。
この3つの理念について塩田氏は「絶対に完成しない」ところが良くできていると語る。誰もやっていないことも、クオリティの定義も、どの国に作品を届ければ良いのかも、時代によって定義が変わるからだ。それらを自らに問い続けることによって、怠惰とは無縁のスタジオになることができた。
▲「Big Bang Project」
基調講演では「誰もやっていないこと」の例として、河原氏が80年代後半に起ち上げた「Big Bang Project」に言及。人間のような柔らかい動きができる3DCGを目指して完成した映像『In Search of Muscular Axis』を紹介した。
さらに1995年には3DCGのキャラクター『イワトビペンギン Rocky & Hopper』が資生堂の整髪料のCMに出演。CGキャラクターが商品の宣伝をすることは当時は画期的で、さらに『Rocky & Hopper』をタレントと見なすことでCM制作費だけでなく出演料も得られたという。『Rocky & Hopper』は一躍人気を集め、現在も商品が販売されるほどのヒット作となっている。
▲『イワトビペンギン Rocky & Hopper』
塩田氏は師匠である河原氏から「高みを目指す」ことの大切さを教わったと話す。だがそのチャレンジ精神ゆえにPPIは何度も倒産の危機に見舞われたことも事実であり、自身が社長に就任してからは「高みを目指す ただ死なずに」とクリエイティブと経営のバランスを考慮するようになったと明かす。
そのひとつが作業工程の効率化である。効率化はクリエイティブを否定するものではなく、拡大させるものだという考えを社内に根付かせ、他業種の手法も参考にしたことでスムーズな制作体制を実現。その結果として年間700ものの改善案が生まれ、それらはPPI Toolsと呼ばれるプラグインや、データベース・表現開発に活かされている。
▲世界各地での講演の様子
「世界に向けて発信していく」ことについては「日本に仕事がなかった」と意外な回答が飛び出した。1990年代中盤にアニメブームが起きて、3DCGは高くて要らないと言われた時期があったという。そのため3DCGの勢いがあったアメリカに活路を見出そうと、地道かつ実態のある人脈づくりに勤しんだ。
塩田氏は日本の強みとして、海外の人たちが「日本に興味をもっていること」を挙げる。とりわけアニメ業界においては日本はひとつの聖地であるが、言語の問題などもあって日本の関係者がなかなか海外に出てこないという状況がある。だが塩田氏は少年時代をアメリカで過ごしていたこともあり、海外コミュニティに積極的に参加することで人脈を築いていった。PPIの営業は基本的に代理店を介しておらず、それらの人間関係が仕事に繋がっている。
▲左・数土直志氏、右・塩田周三氏
塩田氏は「日本の視点から言うと"失われた20年"という言葉がよく使われるが、日本のブランドはこの20年間ものすごく上がっている」とコメント。アメリカがものすごく変化する中、日本があまり変わっていないことが文化の面でも差別化になっており、それらはぜひ利用するべきだと私見を述べた。基調講演ではそのほか、塩田氏の経営理念や居場所としてのスタジオの役割なども語られ、PPIの秘密の一端を垣間見られる内容となった。
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Session 03:個人作家のキャリアデザイン2
Session 03:個人作家のキャリアデザイン2
2019年の第1回IMARTでも開催された「個人作家のキャリアデザイン」。その第2弾にはアニメーション作家の山村浩二氏と、プロデューサーの岡本美津子氏が登壇。モデレーターは土居伸彰氏が務め、東京藝術大学で後進の育成にも取り組む2人のキャリアを追いながら、今後のアニメ作家やプロデューサーに求められるものを探っていった。
まず山村氏はセッションのタイトルに反して「今までキャリアをデザインしようという意識はまったくなかった」と告白。「作家として、そのときどきの興味と衝動にまかせて活動してきた結果が現在に至っている」と自らを分析する。
1964年生まれの山村氏は「70年代、80年代に出会った作品が大きく影響していて、そのときの理想やモチベーションが今も続いている」と話す。とくに高校生のころに出会ったジャック・ドゥルーアンのピンスクリーン・アニメーション『心象風景』に魅了されたことで、「日本で一般的に接してきたマンガ・アニメ以外の可能性を感じ、今の自分のキャリアに直接繋がる出会いとなった」と振り返った。
▲山村浩二氏のキャリア
山村氏が初めて手がけたアニメは、中学生のときに制作した『しょーとしょーとしょうげきじょう』だ。本作は同年創刊のアニメ雑誌『アニメージュ』のコラム「おかだえみこ・鈴木伸一のアニメ塾」を読み、8ミリカメラで個人でもアニメ制作ができると知って衝動的につくった作品だという。
プレゼンではそういった自主制作アニメから、第75回アカデミー賞短編アニメ賞にノミネートされた代表作の『頭山』、さらに現在制作中の最新作『幾多の北』まで紹介。また絵本作家としても活動しており、出版関係者からは「アニメーションの知見も深いんですね」と言われてしまったことがあると笑顔を見せる一幕も。その多彩な活躍ぶりは、土居氏も「唯一のキャリアデザイン」と評するほどだった。
▲山村浩二氏のキャリア
岡本氏はNHKから転職して東京藝大に入るという経歴をもち、セッションでは自ら企画した番組『デジタル・スタジアム』と『テクネ 映像の教室』について企画意図を説明した。
2000年から2010年まで放送された『デジタル・スタジアム』は視聴者が手がけた作品をプロのが講評する公募番組で、若いクリエイターの発表の場をつくることを目的に制作された。本作では数多くの映像が紹介されたが、岡本氏は「力を入れようとしたのは放送の後」とコメント。「放送して終わりにしない」をモットーに、プロデビューに向けたサポートをしたり、イベントのプロモーションをしたり、さらに個人的な進路相談を受けたりと、クリエイターと「社会との接点」を生むことを重視していたという。そこから現在も活躍する多彩なクリエイターが誕生した。
▲『デジタル・スタジアム』のしくみ
2012年から放送中の『テクネ 映像の教室』では各回で異なる表現技法をテーマに、それらを用いた映像を紹介している。『デジタル・スタジアム』は作品を募集して審査・放送する「刈り取り型」であったが、『テクネ 映像の教室』はクリエイターに映像制作を依頼する「種まき型」で、それによって若手からベテランまで幅広い作家に発注することが可能となった。
このようにプロデューサーの働きかけによって、クリエイターを応援することもできる。そのため岡本氏は「個人作家のキャリアデザインを考えるにあたり、プロデューサーなど周辺の人材育成も重要になるだろう」と語った。
▲『テクネ 映像の教室』のしくみ
後半では土居氏も交えてディスカッションを展開。どのようなミッションを課して創作活動に臨んでいたのか、プロデューサーに求められる資質、教育現場で若い人たちに伝えていることなど、様々な話題が飛び出した。
最後に山村氏は、近年自らプロデュースをするようになったのは、自分だけの作品ではないものをつくっていきたいと考えたからだと明かす。そして新しいものを生み出したいという作家同士がネットワークをもつことが、理想的なキャリアデザインの形成に繋がるのではないかと展望を述べた。
それを受けて岡本氏は、近年では車のUIなどにアニメーションを利用する研究も進んでいることなどに言及し、作品制作だけではなく、他分野でも個人作家のポテンシャルが活かせるのではないかと発言。時代によって変化するキャリアデザインについての示唆に富んだセッションとなった。