>   >  ポリゴン・ピクチュアズ最新の表現で描き出す『シドニア』完結の物語〜映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』
ポリゴン・ピクチュアズ最新の表現で描き出す『シドニア』完結の物語〜映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』

ポリゴン・ピクチュアズ最新の表現で描き出す『シドニア』完結の物語〜映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』

<2>人物制作 Character Modeling

過去作のアセットを現在のトレンドに合わせて調整

修正した過去アセットと新規アセットとのバランス調整が、本作の造形面でのテーマのひとつとなった。「6年ぶりに新作を制作するにあたり、トレンドを意識したキャラクター造形にしたいということで、求めるルックに到達するためにどれだけ過去アセットが使えるのか、造形から変えるべきなのかにまず向き合いました」(モデリングアーティスト・中島吉紀氏)。

結果的には新規アセットと修正した過去アセットのボリューム比は3:7程度となったが、両者が画面内に共存しても違和感がないよう、慎重にバランスが調整されている。「データを見て改めて、当時と今とのトレンドのちがいを実感しました。なので過去アセットも無調整で使えるわけではなく、また新キャラクターなどもディテール感などが乖離しないよう比較しながら落とし込んでいきました」(中島氏)。

近年PPIが手がける作品の中には、よりハイディテールなアセットを求められることも少なくないが、その感覚で対応すると『シドニア』の絵柄ではなくなってしまう。中島氏自身は『シドニア』プロジェクト初参加だが、過去のデータからは初めてTVシリーズでアニメ制作に取り組んだ苦労の痕跡を読みとることができたという。それらのデータを整理し、どのように効率的に劇場版のボリュームを捌くかのプロセスを組み立てていった。「ディテール面でやりすぎにならないようにしつつ、線の密度など情報量をアップデートできるよう、培ったテクニックを随時反映しながら進めました」(中島氏)。

谷風長道

▲TVシリーズモデルでのレンダリング結果

  • ◀本作用のモデル。作中時間の経過に伴い容貌が精悍になっているほか、現在のトレンドに合わせたバランス調整が施されている


科戸瀬イザナ

▲TVシリーズモデルでのレンダリング結果

▲【左】本作モデルのMayaでのプレビューと【右】チェック用QT表示。前作のモデルをリグ調整したもので、造形的には大きな編集が加わったわけではないが、シェーダの更新によってより適正な陰影が出るようになっている


融合個体かなた

▲融合個体「かなた」覚醒前の実験体段階の設定。本制作に入る前にラフに3Dモデルを作成しつつデザインを検討、さらに2D的にも詰め作業を加えてデザインを確定する



  • ▲完成した「かなた」完全体(フル装甲)


  • ▲飛行形態の形状・パーツ構成を検討

▲頭部の重力子放射線射出装置。機械的なパーツでの表現も検討されたが、最終的には生体パーツとなった

<3>機械制作 Mecha Modeling

ディテールまでメッシュでつくり込んだ衛人やコックピット

ディテール過多になりすぎないバランスを探ったキャラクターアセットとは別に、衛人に代表される乗り物(ビークル)アセットはグレーモデルの状態でもクローズアップに耐えられる程度につくり込まれている。「監督からのペイントオーバーによるフィードバックを度々往復して、TVシリーズと比べてかなりディテールアップされています。これによって、ライティング時の光の回り込みなどグッとリアル感が増しています」(モデリングアーティスト・岡島大地氏)。

形状にOKが出た後はPPI Shaderをアサインして輪郭線の出方を確認しつつ、さらに細部を詰めていく。コンセプトデザイン画ではポーズが付いているため、モデリング作業もそれに合わせて若干ポーズが付けられた状態で進み、モデリング終了後にはセットアップに適したポーズに整えてパブリッシュとなる。

衛人のコックピットも同様で、溝や段差はテクスチャではなくメッシュで造形、ライティングで陰影が入るようにし、テクスチャで汚しや傷を付与している。「旧シリーズにはない本作の方針として、ディテールはなるべくモデルで表現しています。機体の傷などは、ルックデヴ工程で統一感を調整するためにモデルでは入れていません」(岡島氏)。

なお、戦術防巡艦・水城のカタパルトの機構など、原作では詳細がわからなかった部分はPPIからアイデアの提案をしながら進められた。「こちらの裁量も大きく、自由にやらせてもらえました。監督のフィードバックをもらいながらですが、こちらのアイデアを採用してもらえたのは嬉しかったですね」(岡島氏)。

一九式衛人・二零式衛人劫衛

▲一九式衛人のグレーモデル



  • ▲カラー、ラインをレンダリングした状態。コンセプトアートと同程度の疎密感でラインが描画されるようディテールを調整している


  • ▲二零式衛人・却衛のグレーモデル

▲同レンダリング結果。「劫衛についても一九式と同様のながれで作成しました。よりラフなコンセプトから形状を読みとりつつ、手足以外は新規制作となっています」(岡島氏)

二零式衛人劫衛・コックピット

▲二零式劫衛のコックピットのコンセプト。レバーの新旧比較などが記載されている

▲完成したコックピット。正面のディスプレイは一九式と同じだが中・小型ディスプレイの追加などがある

水城・衛人発進機構

▲鶴音型戦術防巡艦「水城」の衛人を射出するカタパルト機構設定。今回映像として描写するにあたりPPI側でアイデアから起こしている。32機格納されている衛人を、左右2機・計4機ずつ高速搬送する

▲監督からのペイントオーバーの一例。修正・ディテールアップ要望、過去作参考資料などが確認できる

▲射出機構の動作のながれ(衛人は表示していない状態)。格納殻に吊り下げられている衛人を受け取りレールに固定、射出する向きに回転させつつ艦体側面へ移動、射出台座へ固定する



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