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映画『テッド』

映画『テッド』

MVN の新たな可能性を提示した撮影スタイル

撮影現場でモーションキャプチャを同時収録

フレ氏にとって、本プロジェクトにおける最大の挑戦はテッドに命を吹き込むことだったという。「映画の冒頭数分のうちに、テッドが 3DCG でつくられた命を持たないキャラクターだという事実を観客に忘れてもらうことを目指しました。日常生活の中で出会うかもしれないと錯覚するような、リアリティのあるキャラクターにしたかったのです」とフレ氏。そこでマクファーレン監督がこだわったのは、テッドにオーバーなアニメーションを付けないことだった。子供向けアニメのキャラクターにありがちな誇張された動きではなく、テッドの内面と年齢を反映させたリアルな動きが求められたのだ。

限られた予算とスケジュールの中でマクファーレン監督が理想とするテッドの動きを具現化するため、VFX スタッフは全てのモーションを MVN で収録することを決定した。MVN は 17 個の慣性センサーを搭載したフルボディスーツで、カメラやスタジオを必要としないシステムだ。マクファーレン監督は連日 MVN を着用して撮影現場に現れ、撮影スタッフへの指示、役者の演技指導、テッドのモーションと声の収録を同時に行なった。

映画『テッド』MVN 映画『テッド』MVN

<左>MVN は 17 個の慣性センサーを搭載したフルボディスーツで、データの送受信機、電源バッテリなど、全てのシステムが1台のスーツケースの中に収まる。
<右>MVN の上から普通の衣服を着用することも可能で、専用のカメラやスタジオを必要としないため、屋外や公共の場所でもモーションを収録できる

映画『テッド』マクファーレン監督

MVN を着用して演技を行うマクファーレン監督

「私たちには、光学式モーションキャプチャを行うだけの余裕がありませんでした。また、マクファーレン監督は役者たちとのやりとりから生まれる、即興の演技やアドリブを重視しました。MVN を使用したからこそ、撮影現場での監督のひらめきや、監督の動きの癖をテッドに注入することに成功したと感じています」(フレ氏)

30 年以上の VFX 業界での経験を有するフレ氏にとっても、今回のような撮影現場でのキャプチャ同時収録は初めての試みだったという。本作での草分け的な挑戦によって、MVN の新たな可能性を提示できたとフレ氏はふり返った。

映画『テッド』

『テッド』はマサチューセッツ州ボストンが舞台とされ、いくつかのシークエンスはボストンに実在する場所で撮影された。上のシークエンスのロケ地は人気観光名所のニュー・イングランド水族館で、マクファーレン監督はここでも MVN を着用し、実写映像の撮影とテッドのモーションキャプチャ収録を同時に行なった


息の合ったかけ合いを実現した監督の声とアイラインツール

MVN を着用したマクファーレン監督は、撮影セットから離れている、カメラに映らない場所でテッドを演じた。本来テッドがいるべき場所には、「アイラインツール」という下の模式図のような機器が置かれた。このツールはT字型の金属のパイプの上部2ヶ所にテッドの眼と同じ大きさの白色の球体を配置したもので、ツールの下部にはスタンドが付いており、立ったり座ったりといったテッドの姿勢に応じて高さを変えられるようになっている。

映画『テッド』アイラインツール 映画『テッド』

<左>役者たちにテッドの眼の位置を伝えるための「アイラインツール」の模式図
<右>役者の演技の振り付けやカメラワークなどを検討する際には、アイラインツールに加え、本来テッドがいるべき位置にクマのぬいぐるみを置いたり、事前に制作しておいたプリビズを参照したりすることもあったそうだ

「役者たちは、マクファーレン監督が演じるテッドの声によって演技のタイミングを知り、アイラインツールによって視線を向けるべき位置を把握しました。これらが助けとなり、息の合ったテッドと役者のかけ合いが実現したのです」とクラーク氏は解説する。こうして撮影されたアイラインツールは、VFX の段階で 3DCG のテッドに置き換えられた。

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