リガーになったきっかけ
平:現在はリグを中心に取り組んでおられる皆さんですが、どういったキャリアでリグに関わるようになったのでしょうか。
田淵:入社当時、社内でリグの勉強会がありまして。入社したばかりで知識にも貪欲だったので参加したんですが、そこから、気づいたらズルズルと。元はモデリングをやりたくて......実を言うとリグにはあんまり興味はなかったです(苦笑)。
赤木:僕は最初はアニメーターになりたかったクチです。ただ、学生時代からプログラムもできたので、入社時にはやはり自分のアピールポイントとして押し出していたんですね。そうしたら、テクニカルなことを頼まれているうちにいつのまにかリガーに......。いつかはアニメーターになりたいなと思っていますが、今のところなれそうな気がしません(笑)。
福本:僕は最初に入社した会社がDFさんなので、田淵さんとも元同僚なんです(笑)。入社当時、アニメーターを志望していましたが、人手が足りないということでモデリングにアサインされました。その後、アニメーションまでの期間リグにアサインされ、当時、社内で最もリグの技術力が高い先輩の下に徒弟制のような感じで就くことになりました。8ヶ月ほどしてその先輩は退職されたのですが、その後は「一番リグができる人の弟子だから、福本君、もちろんリグできるよね?」と半ば強制的に、全プロジェクトをまたいでリグにアサインされることになりました。先輩が様々なツールを用意してくれていたのでリグを設定することができましたが、ツールの中身はまったくわからない。なので、トラブルが発生した時は力技で直す、といった綱渡り状態でしたね。1年ごとにテーマを決めて、「今年はツールの中身を理解する」「今年はツールをカスタマイズする」といった感じで勉強していきました。
荒井:もともとはKONAMIさんでゼネラリストとしてやっていて、そこからテクニカルアーティストのようになって、リグに取り組むようになりました。それまでリグはプログラマーが組んでいたんですが、どうしてもデジタルアーティストとプログラマーというところで、そこが実務上のボトルネックになるという問題意識があって、軸足を移していきました。ゲームベースのリグから映像畑に来ると「あ、デフォーマ使えるんだ!」みたいな新鮮さがあります。ゲーム用のリグは、インフルエンス数だったり小数点以下どれくらいで切ったりといった制限が非常に多いですからね。映像用のものはそのあたりが自由になる分、重いなあとは思います。それはそれで面白いなと。
金田:僕も前職はゲーム会社で、そこにはモデラーとして入りました。1年経ったところで、描画エンジンを開発するための「研究開発部門」に属することになったんですが、そこではデザイナーは1名という状態。独力で何でもやらなければならない状況で、様々な作業を自動化する必要があり、プログラミングの経験を積んでいきました。一番最初にCGを始めたときはLightWaveでしたが、研究開発部門で3ds Maxを使うようになりました。その経験から現在の職場でシステム開発部に所属し、リグも担当しています。
久保:リガーになったのは今の会社に来てからですね。それまではフリーランスでいろいろやっていました。一番最初はアニメーターとして3ds Maxを使っていましたが、フリーランスになってゼネラリストになりました。そこからOLMに入ってリガーになるんですが、その経緯は一部で半ば伝説化しています(笑)。入社が決まって、勤務開始1週間前にプロデューサーから連絡があって、「パスポートもってる?」と。一体何だろうと思ったんですが、LAにある系列会社Sprite Animation Studios(以下、SPRITE)でリグの勉強をして来いと。SPRITEには日本人のリグスーパーバイザーがいて、その人の下で2週間修行をしました。当時OLMにはリガーが少なく、またSPRITEのリギングシステムを理解している人もほとんどいませんでしたが、『パックワールド』というフルCGテレビシリーズに参加することになり、そのために、日本側にSPRITEのリギングを習得している人間が必要になったというわけです。気がついたら、めっちゃリガーになってました。
小森:当初はゲーム会社でモデリングをしていました。PS2の頃で、ポリゴン数は1,000や2,000が目安の時代です。モデリング担当者がリグまで組む体制でしたが、ツールは3ds Maxで、リグはBipedでした。その後パチンコメーカーに所属していたときもモデリングをやりつつリグもやっていて、スクウェア・エニックスヴィジュアルワークスに入ったときに、何でもいいですと言ったら「リガーだ」と言われてリガーになりました。ツールの変遷としては、専門学校時代がMayaで、ゲーム会社では3ds Maxでしたが、個人的にMayaを買って、趣味でMayaでリグの勉強をしたりもしました。現在は、リグの他にはパイプライン構築まわりやこまごましたことを担当したり、ちょろちょろとモデリングをしたりという感じです。
リギングワークフローの効率化
平:冒頭でワークフローをざっくりご紹介いただきましたが、モデリングとアニメーションの間に入るリグセクションは部署間のクッション的な立ち回りになることもあるかと思います。続いては、そのあたりについてのことや、効率化などお伺いできますか。
田淵:DFではキャラクターについては基本となる素体が用意してあって、それを使えばジョイント等も自動で組まれるフローができています。それを基準にすることでキャラクター班との連携を図っています。
平:モデラーがモデリングして、身長や頂点番号、ウェイトが変わったときは、問題になりませんか?
田淵:UVの位置で対応するようにしています。UVは全て同じように開いているため、そうした変更にも対応可能です。
赤木:マーザでは映画案件がメインで、アセット数が多くてそれほどクオリティを下げるわけにもいかない、という出発点でリギングシステムを組んでいます。まずベースメッシュを用意して、そこに「モデラーが扱うためのリグ」を入れます。体型を変えるときに使うリグで、プロポーションが変わらないでほしいところを変えられないように作ってあるものです。これによって、頂点の意味合いというのがモデラーによってそこまで変わらないようにしています。そこから、各キャラクターにリグを移植していきます。モデルのトポロジー、頂点番号は、大体プロジェクトで1つ。それでは難しい場合は、男性用・女性用・子供用などとやむなく分けることもありますが、基本は、なるべくどうやって派生させていくかをポイントに進めていきます。モデラー用リグを組んだものでモデリング作業を進めて、僕らはその骨をもらってリグ作業がスタートします。フェイシャルについては、ブレンドシェイプのターゲットが100個くらいになることがあります。これをキャラクター数分作成する際に、ジオメトリの特徴を残しつつフェイシャルを転写していくツールを用意していて、だいたい15秒くらいで90個前後という速度で転写できます。もちろん、まぶたの開閉を中心に完全に自動で写せるわけではないので、そこは手で調整することにはなりますが。
福本:PPIでも、プロポーションを調整するための「モデラー用のリグ」を設定するフローはマーザさんと同じです。まずは自由にモデリングを行い、ベースメッシュを作成します。その後、プロポーション調整用リグを設定し、モデラーに渡します。プロポーション調整の情報はプリセットで管理しているので、異なるプロジェクト間でも共有できています。本番のリグ作業ですが、効率化という点では限界までツール化しています。骨の構築、位置調整、インフルエンスの設定、共通のセカンダリコントローラの設定などです。プロジェクトごとの表現の要求に合わせてリグの仕様も変わりますので、スーパーバイザー(SV)がリグやツールのカスタマイズを行なった上で、量産に取りかかります。
荒井:みなさんすごいので圧倒されていますが、ILCAはできて4~5年なので、ベースモデルのような概念もまだ用意できていません。つくりたいのですが、ルックも様々な方向に行ったり来たりしている中でなかなか時間をとれずにいます。セクション間での効率化というところでは、今のところ「話し合い」。キックオフミーティングを大事にしています。当社ではeSTを導入して、モジュラーリギングでリグを組むフローになりました。こうしたものをゼロからつくるのは非常に大変です。パッケージとして取り入れて、それに則した命名規則などで進めると、コントローラなどの命名規則が揃ってアニメーターにも優しく、またR&Dも沿うべきデータのながれが1本出来上がるので、ツールを作りやすいという利点があります。
金田:サンジゲンは3ds Maxにべったりなフローになっています。Bipedをベースに組んだものをフィギュアモードで関節位置を変えていって、そこでモデルのプロポーションを変更します。それを集約して、再度Bipedを当てる、というのが基本的なフローです。モブキャラクターに関してはこれで済むので、モデラーの作業範囲内で完結します。メインキャラクターはさらにそこから「フルリグ構造」と呼ばれるリグを組み足しています。表情はモーフをベースに作っていて、やはり90個くらいのターゲットができます。シルエットとして変更したいのは鼻と顎なので、そこは動かせるようにリグを組みます。目はテクスチャで、いわゆるレイヤー構造のようなイメージでパーツ分けされています。それらをUVをずらしたり回転・拡大したりして操作できるように、リグを繋いでいます。この接続は完全な自動化は難しいのですが、どのように動くかを定義している式(エクスプレッション)は一緒なので、繋ぐ作業自体は誰でもできる状態にはしてあります。部署間の連携については、そのショットの画のために担当アニメーターがどんどん変えていくのが前提になっていますので、フルリグ構造によって肘・膝・頭などは自由に動かせるようにしてはありますが、あとはアニメーター各者に任せています。ごくまれにリグの組み直し要望が返ってくることがありますが、それも大元に関わるような修正でない限りは起きないイメージです。
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金田剛久/Takehisa Kaneta
サンジゲン システム開発部 部長
ゲームソフトウェア開発会社のモデリング担当デザイナーとしてCG業界に入る。以降フリーランスCGデザイナー、CGアプリケーションエンジニアを経て2010年サンジゲン入社。主な参加作品にTVアニメ『ブラック☆ロックシューター』(2012)、映画『009 RE:CYBORG』(2012)、『ブブキ・ブランキ』(2016)など
www.sanzigen.co.jp
『ブブキ・ブランキ』 ©Quadrangle/BBKBRNK Partners
平:アニメーターがショットごとにモーフターゲットを追加するといったことも耳にしましたが。
金田:人によりますね。確かに、アングルによって、煽りに対応できないとかライティングしたらおかしく見えるとかいうのは、実際ありますので。モブキャラクターなら、用意したモーフの範囲内で解決できると思います。フェイシャルアニメーション用のリグは今後考えていかなければと思いますが、今はモーフで対応しています。上手い人が必要に合わせて作った表情の方が良い画になりますし、サンジゲンのスタイルに合っていると感じます。
久保:OLMは、グーニーズさん同様リガーは全員スクリプト必須です。そのために、たとえリグ作業が立て込んでも社内からヘルプを募れないという問題を感じています。一度組んだリグは、全てのバージョンがスクリプトのかたちで残っていますので、バリエーションを付けるときなどに活用されています。必要な部分だけ抜き出して組み合わせて適用したりといった使い方もできます。モデリングセクションとの連携は、wrapベースのリグなので、モデルの更新があってもそんなに差し替えコストはかかりません。あとは、ちゃんと関節を考えながらモデリングしてね、とコミュニケーションをしっかりとるとか、そういうところです。関節だけでなく、パーツの位置が完全に変わるような変更も困りますが、そういうときの更新の連絡が「修正しました」だけだと、一体どこが変わったのか完全に間違い探し状態になってしまいます。wrapベースであることが一番の効率化要素ではありますが、反面、ベースモデルのようなものはありません。プロジェクトごとの1体目のリギングは仕様を検討しながらスクリプトを書くので時間がかかります。その後は派生系になりますので比較的容易に進みます。
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久保圭之/Yoshiyuki Kobo
オー・エル・エム・デジタル リギングスーパーバイザー
東京都生まれ。2012年株式会社オー・エル・エム・デジタル入社。それまではゼネラリストだったが、入社を機にリガーに転身。主にフル3DCG案件のリグを担当。リガーとしての参加作品に映画『ルドルフとイッパイアッテナ』(2016)、TVアニメ『パックワールド』(2014)など
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『ルドルフとイッパイアッテナ』 ©2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会
平:wrapだと細かい形状がちゃんとついてこなかったりしませんか?例えば髪の毛のような......。
久保:確かにそこは気をつけないといけないですね。wrapデフォーマの癖を読むというか、ついてきてほしいところの分割の増やし方など、リダクションモデルの作り方にちょっとしたコツがあります。髪の毛については、デザインの時点で難航が予測できそうなら、モデリングの最中に直に相談しに行きます。可能であればできるだけバラしてもらって。どうしてもワンメッシュにしないといけないなら、ひとつのハイポリモデルに対して複数のwrapをかけるといった方法で対処します。ただ、重くなるのであまりやりたくはないですが。
小森:グーニーズでは、2年ほど前、リグフローを急ぎで構築しつつ、2つの基本テーマを設定しました。1つめは「モジュラーリギング」。流行りの、部分ごとに足していく感じで組み上げていくリグですね。2つめは「スクリプトベースでのコンストラクト(構築・組み上げ)」。現在は、そのようなリグを作り始めているところです。OLMさんと同じで、グーニーズもwrapベースです。リダクションモデル、ウェイト、ドリブンキーなどをスクリプトとしてバラバラに書き出しておいて、実行ボタンを押すと、読み込まれてリグが組み上がる。多少のモデル修正ならwrapで吸収できるので問題にならないという点も同様です。マテリアルについても同様のしくみを用意しています。やはり関節が変わると「これどういうことですか?」ってなりますね......これは全国共通で、怒っていいと思います。......ま、変わりますけどね(笑)。
福本:某大手会社さんのリグに似たしくみでしょうか?
小森:そうですね、源流はスクウェアUSAのホノルルスタジオの発想だと思います。OLMさん、SPRITEさんのシステムも完全にその系譜ですよね?ただ、リグ作業者への敷居は高いと思いますね。どうしてもスクリプト前提になってしまう。新人育成の面では、そこをどうクリアするかというのは課題です。
トポロジーが変わるような修正への対処
平:お話を伺っていて思ったのですが、リグをつけたアセットがアニメーターまで出荷されて、ショット作業が進んでいる中で、トポロジーやマテリアルに修正・差し替えが発生した場合、どこまで戻りますか? 分業体制だと、必ず戻すケースがあると思いますが。
田淵:DFの場合は、MotionBuilderからのアニメーションデータを読み込んでレンダリングシーンを組み上げるので、シルエットが変わるような変更でない限り問題にはなりません。もしシルエットが変わるようなら、モデラーまで差し戻されて直すことになります。
赤木:マーザはパイプラインが厳格なので、直すとなったらモデラーまで戻して直します。そういったながれも含めてシステム化しているので、そこまで大事には......なることもありますが(笑)、細かいものであれば大丈夫です。誰が直すかということで言えば、リグを入れてみないとわからないような、口の中のような部分はリガーが直すこともありますが、必要があればモデラーへ戻します。
福本:PPIではビルドという社内ツールを使用しています。このツールは、モデル、リグ、マテリアルなどの別々に管理された各要素を組み合わせて、リグが設定された最終データを再構築するというツールです。このツールのおかげで全工程が並行して作業を行えており、ビルド実行時には最新のデータが読み込まれますので、修正や差し替えの際に各工程間で問題が発生することはありません。修正された内容に対して各工程がそれぞれ対応する、といった感じです。質感の設定や修正はルックデヴグループが対応しています。
金田:サンジゲンではトポロジー変更が発生するような変更でしたら、モデラーまで差し戻します。ただ、大前提として完全にウォーターフォール(※1)で進めていますので、監督OKが出るまでリグに回ってくることはありません。監督OKが出た後ということで、アニメーションに渡ってから戻って来るのはよほどのことでない限りありません。それでもショットワークを進める中で問題が発覚するケースはありますが、その場合は、モデラーまで戻してバージョンを上げることになります。ルックに関しては、色替えに素早く対応できるようなツールを用意しているので問題ありません。アニメのフローにおいて色彩設計・色指定スタッフの提示する色は絶対的なもので、リアルなCGでのルックデヴとはまた意味合いがちがってきます。これを厳守するために、以前はマテリアルをごっそり入れ替えて対応していましたが、なかなかに手間のかかる作業でした。現在はこれをツール化して、即座に反映できるようにしています。
※1:『ウォーターフォール』
ウォーターフォールモデル。システムの開発手順を表すモデルの1つで、各工程でのチェックを徹底し前工程への戻りを起こさない前提で進めるフローのこと
久保:モデルの修正には2種類あると思うんですよね。ショットだけ問題が起きる場合と、全体的なエラーになっちゃう場合と。OLMでは、前者なら一番低コストで修正できるセクションが修正し、後者はモデラーまで戻して対応します。モデラーまで戻った場合も、最新モデルをリファレンスで読み続けているためにアニメーション作業が止まることはありません。
関節の移動問題
平:トポロジーの変更と並んで、関節の変更もリギングを中心に影響範囲が大きいと言えますが、そのあたりはどのように対処されていますか?アニマでは、レイアウトモデルの時点でわりと作り込んだものを用意しています。それをアニメーターに渡すわけですが、レイアウトモデルと言いつつ、意外と本番アニメーションのノリで作業が進んでしまい、アニメーター側は「関節を変えないでくれ!」となります。一方モデラーとしてはレンダリングモデルが本番のモデルですから、関節の位置も必要であれば変えたいと思うわけで、悩ましいところです。モデリング作業と並行して、制作進行上の都合でアニメーターがどんどんアサインされるんですが、そうなると渡せるのはどうしても仮のモデルになってしまうので、それでアニメーションをしっかり付けても付け直しになってしまいます。こうした問題は何とか解決したいですが......。
田淵:DFでは、キャラクター班がレンダリングOKまで最初に詰めて、それから進んでいきます。アニマティクスモデルといったものはなく、アニメーション作業に移ってから関節を変えなければならないといったことも、ほとんどありません。その点でのトラブルは起きないものの、ただキャラクターが上がってくるのが遅くなるというのはデメリットかもしれません。
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田淵玲児/Ryoji Tabuchi
デジタル・フロンティア リギングアーティスト
2007年株式会社デジタル・フロンティア入社。『バイオハザードディジェネレーション』(2008)よりリガーとして活躍。『鉄拳ブラッド・ベンジェンス』(2011)でリギング・リードを、『バイオハザードダムネーション』(2012)や細田守監督の大ヒット作『バケモノの子』(2015)ではリギング・スーパーバイザーを務めた
www.dfx.co.jp
『バケモノの子』
監督・脚本・原作:細田守/スタジオ地図作品 Blu-ray&DVD 2016年2月24日 発売 発売元 :株式会社バップ
©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
赤木:マーザでは、作り込まない状態のモデルで渡して、アニメーターには位置を決める程度の作業にとどめてもらうようにしています。そして、絶対比率の変わらないところ・変えてほしくないところを「モデラー用リグ」で固定しておく。このラフリグ作業は20分ほどで終わる内容で、済んだらアニメーターを呼んできて一緒に動きをチェックします。先へ進んでいくと直せないので、準備の段階でやりとりをして、問題ないかを確認してから進める。序盤でモデラーもアニメーターも意見を出して、吸収しておく。後で問題になるとすごく波及してしまうので、火消しは早めに。
福本:レイアウトの内容にもよると思います。移動のみのラフレイアウトであれば、プロポーションの変更は大きな問題になりませんが、接地まで詰めた内容のレイアウトであれば大問題となる恐れがあります。PPIでは、レイアウトやアニメーション作業に入った後のプロポーションの変更は、基本NGとしています。どうしても変更が必要な場合は、リグで全部位にスケールがかかるように設定していますので、コントローラで対応しています。ただ、シリーズものや長編のメインキャラクターなどであれば設定し直すので、対応は都度判断ですね。TV案件では、スケジュールと予算の都合で、どうしても十分なプリプロを経ずにプロダクションに進んでしまうことがありますが、ここで骨の変更のようなことをすると本当に炎上してしまいます。プロジェクト開始前に4ヶ月程度は使って、ベースとなるメインキャラクターの作り込みと、量産のためのしくみの構築が必要です。各工程のSV同士でしっかりとコンセンサスがとれていれば、レイアウトが始まってからプロポーションを変えるというのは、基本的には発生しないと思います。ただ......デザインの遅れやクライアントからの修正対応による遅延は常に起こりうるので、その場合はレイアウト開始時期を遅らせて対応することになりますね。結果的にショット部門への負担が増大しますが、全体が炎上するよりは、という苦しい判断になります。とにかく、準備期間をしっかり確保することが第一です。
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福本健太郎/Kentaro Fukumoto
ポリゴン・ピクチュアズ アセット部部長・リギングスーパーバイザー
2002年に株式会社デジタル・フロンティアに入社。リギング、アニメーションを軸にチーフデザイナーを務める。2008年にポリゴン・ピクチュアズに移籍し、現在はアセット部部長として、モデリング、エンバイロメント、リギングの3グループを統括。代表作は『鉄拳5』(2004)、映画『デスノート』(2006)、『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』(2011)など
www.ppi.co.jp
『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』 ©2015 Lucasfilm Ltd. All rights reserved.
荒井:ILCAも関節位置は変えない前提ですね。プロポーションはリグで変えられるようになっていますので、必要であればアニメーターごとに変更してもらう感じで。なので、元を変えるというところまで戻ってこなくても大丈夫なようにはなっています。ちゃんとしたブレイクダウンができた案件だと、骨の位置は頂点位置から導き出すしくみになっています。モデラーが頂点の意味を認識していないと困ることにはなりますが......。
金田:さっきお話しした通り、サンジゲンのフローでは戻ってくるということがほぼありません。あとは、アニメーターが個々に対応。『009 RE:CYBORG』(2012)のときはレイアウトモデルを用意して、差し替えるといったフローでした。このとき得られた経験値として、当社の場合は、差し替えコストが想像以上に大きく、これならモデルが完全に完成するのを待った方がまだ負担が軽微だということがわかりました。それまでアニメーターには待ってもらうことになりますが、完成した状態で出荷されるため、関節位置の調整はまず起きません。もし必要であれば、リグ側の操作で対応してもらいます。
久保:OLMも、関節という点で言えばほぼ完成形で渡すようにしています。どうしても間に合わない場合などはラフな状態で渡さなければならないこともありますが、その場合は「関節が変わること」「モーション自体の全破棄の可能性もありうること」をちゃんと連絡するようにしています。無理には活かそうとしない前提です。
平:なるほど。アニマではこれを活かそうとして負担が大きくなってしまうことがあります......。
久保:OLMでは、モデリングのチェックもポーズを付けた状態で行います。このおかげで、ショットワークに入ってから大きく印象がずれるということがありませんし、モデラーによってはポーズベースで作業した方が早くて高精度に作業を進められます。ただ、リグ班としてはTスタンスポーズのデータでなくてはフローに乗りませんので、ポーズ用のスキニングやリグは、リグ作業に移ったところで外すことになります。最近は、このモデルチェック用のリグとして、Advanced Skeleton(※2)というリグを試しています。また、プロポーション変更についてはリグ側のスケールで対応できるようにしていますが、悩ましいのが「模様」が入っているキャラクターです。スケールをかけると模様が伸びてしまうので、ショットワーク中にスケールでは対応しきれないと判明したら、モデラーに戻してリグを入れ直しということになります。このあたりはSVと相談ですね。
※2:『AdvancedSkeleton』
Maya向けキャラクターリギングプラグイン。非常に高機能ながら非商用利用の場合は無料(業務に使用する場合は1プロダクション1ライセンス3,000ドル)www.animationstudios.com.au
小森:やはりプリプロが一番大事ですね、CG業務全体に言える話ですが。マスターキャラクターを1体、しっかり作って、これで大丈夫だろうかとじっくり詰める必要があります。それでもキャラクターごとに個性があるんで、思ったより上手くいかないこともありますが、できるだけプリプロで問題をつぶす。アニメーターにも、本番に入る前にチェックしてもらう。ちゃんとアニメーションを付けていけそうだとそこで確認して、関節変更とかもそこで潰しておく。ショットワークに投入するのはそれからです。後半工程で問題が発覚したら、リグを伸ばしたりして対応します。
福本:プリプロ時にしっかりと確認しておけば、大きく関節の位置が変わることはないと思います。PPIでは、各関節の比率等は必ず造形監督がチェックしています。骨の位置はかなりシビアに見ていますね。造形監督の確認がとれるまではリグデータを出荷しないので、アニメーション時に「変だね」ということはあまり起きません。