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実力派CGプロダクション8社による座談会「リガーの今とこれから」

実力派CGプロダクション8社による座談会「リガーの今とこれから」

表現を左右する「リグのスケール」

小森:スケールをかけられるようにしてくれという要望が必ず出ますよね。

  • 小森俊輔/Shunsuke Komori
    StudioGOONEYS テクニカルディレクター
    2014年5月から株式会社StudioGOONEYSに雑用兼リガー兼パイプライン開発として参加する。TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』『BUDDI MINNI』ではリグフローのベースの開発、キャラクターのベースリグの開発、キャラクター全般のリグを担当
    gooneys.co.jp
    『BUDDI MINNI』

久保:リアル系の案件ならある程度元の形状を維持した画づくりになるので、形状が自然に見えれば成り立ちますが、セル調の案件だと、見た目優先で何でもありな部分があります。肩などの部位を外したり、末端肥大系スケール、嘘パースなど。とにかく、格好良い画にしたいという。

福本:スケール対応のことを考えずに済むなら、リグの難易度は極端に下がりますからね(笑)。スケール対応をすると、チェック時に「あーこの軸だけダメだったか......」みたいなことが頻発する。どうしても解決できない場合、いっそスケールのアトリビュートをロックして隠したりもします。

小森:でも、そういう箇所に限って、「ここ膨らまないんですけど」とか言われて(笑)。

久保:X、Y、Zの3軸が一緒にスケールしないとシアーしてしまうので、「アームスケール」とかスケール用のアトリビュートを用意して、そこで操作してもらうようお願いしたりしますね。もちろん事前にそれで大丈夫か確認して進めるんですが、プロジェクト終盤、「なんでここシアーしてるんだろう?」という箇所があったりして、シーンを見てみるとやっぱり個別にかかってたりするんですが(笑)。

福本:骨がローカル軸に沿って設定されていないと、シアー計算がぐちゃぐちゃになりますからね。

荒井:直にバインドすると形状が壊れるので、小骨を多数打って、減衰するようにバインドして対応したり......。相談される内容のほとんどがスケールですね(苦笑)。

福本:以前、アニメーターからの要望が「シルエットを変えたい、スケールをかけたい」という内容ばかりで、キレたリガーが頂点ごとにコントローラを設定した、なんていうこともありました(笑)。

:それは重そうですね(笑)。リグの軽さについても、スケールと同じくらい重要視されると思いますが、みなさんそのあたりはいかがですか?

  • 平 大和/Masakazu Taira
    アニマシニアモデラー
    1983年宮城県生まれ。2003年株式会社アニマへ入社。主にキャラクターモデリングとディレクションを担当する中で現在はワークフローやパイプラインの改善に力を入れている。主な作品にニンテンドー3DS用ソフト『ファイアーエムブレムif』『CRまわるんパチンコ大海物語3』TVアニメ『ラブライブ!』『Bad Piggies』ゲームトレイラーなど
    www.studioanima.co.jp

    『ファイアーエムブレムif』 ©2015 Nintendo/INTELLIGENT SYSTEMS
    発売元:任天堂株式会社
    ※ニンテンドー3DSは任天堂の商標です。

福本:かなり軽くしていますが、おそらく一番軽いのはマーザさんのリグじゃないかと思いますね。全てローカルで計算されるしくみですので、あの構造だとワールド計算であれば動かないくらいの複雑さ。軽くしているからこそ、あのクオリティが出せる。PPIでは、作業効率も考慮して軽くしたい箇所だけローカルで設定するようにしています。

赤木:軽い分複雑にしているので、作れる人が限られてしまいます。

久保:確かにローカルだと、ローカルの概念をもっていない人に説明するのが大変になってしまうという問題はありますね。

小森:新しく来た人に、ぽっと振れる内容ではなくなってしまいますね。結果的に、振れる内容は「とりあえずウェイト塗り」みたいになりがちではありますが、そこからフォースの目覚めを感じる人というか、適性のある、「スクリプトいけそうだ!」「ローカルわかりそうだ!」という人を見つけて声をかけて、リガーに育てる。

荒井:リガーって2種類いるじゃないですか。テクニカルリガーの人と、アーティストリガーの人と。前者だと固いリグになりがちだったり、後者だと骨を入れすぎちゃったり。人によって考え方が変わってきますよね。どういうのを良しとするのか、仕様に完全に応えたものがクオリティの高いリグなのか、汎用性が高いのがそうなのか、軽ければいいのかとか。

赤木:やはり映像をつくっている会社としてやりたいなと思うのは、映像で表現したいことをどれくらいできるのかという追求ですね。表現上の要求にどこまで対応できるのかというのが「クオリティ」だと思います。たとえそれで重くなったとしても仕方ないと思っていて、最終的にねらった画を得られるかどうか。

福本:あと、予算を意識しすぎて、クオリティを諦めるドライなリガーもいるんですが、それはちょっと「リグ魂」がないなって思っちゃうんですよね(笑)。もちろん、予算や工数内に納めることは重要ですが「、気配り」も重要だと思います。アニメーターから「君のリグ、良かったよ!」って言ってもらえるのは嬉しいですよね。逆にドライな対応をして嫌われると仕事減っちゃいますし、小さな評判の積み重ねで少しずついろんな方々から頼られるようになります。個人的には、サービス精神を発揮できるかどうかが、良いリガーになるかどうかの分かれ目なんじゃないかと思います。

リガーのこれから

:これまで何度かリガー人口の少なさに言及されていましたが、これからどのようにリガーを育成していけばいいでしょうか。

久保:学生のときからリガーをやりたいという人はいない、という印象はありますよね。もし新卒で「リガー志望です」という人が入ってきたら、「ほんとに?」「、え、落ち着いて考えて?」と思う。

一同:(笑)。

小森:稀少種なので、ライフプランとしては良いと思います。長く戦える仕事にできるんじゃないかなと。

赤木:個人的には、その点は逆に危惧していて......。リグは自動化されやすいのではと思います。実際にそういうながれはあるので。そんな中で、リガーとしてどういうものを出していけるかというのは、難しい課題じゃないでしょうか。

小森:確かにそうですね。ただ、それは全部のセクションに言えるのじゃないかなと思います。モデリングならスカルプトが、アニメーションならモーキャプが、ライティングやレンダリングならGPUレンダリングが、みたいに、全てのセクションで技術の更新スピードは見逃せないものがあって、その中で「われわれの意義とは」というようなことを考えないといけない。......ただ、今の時点でいえば、リガーは終生仕事できるのでオススメかなと思います(笑)。

:確かにリガー不足という状況の中で、1人でも多くのリガーを採りたいという会社は多いと思います。ただ、リグという作業領域自体の難易度というか、入りは難しいですよね。

福本:リグって理系っぽいし、ムリ!って閉ざしてる人もいるとは思いますが、実際にはそうじゃないことを伝えたい。それぞれの問題に、解決のための「公式」がいくつかあります。経験によって公式の引き出しは増えていくので、最初は無知でもまったく問題ありません。大体のリグは組み合わせと応用で対応できます。技術や知識は後からついてきますので、まずは「そんなに難しいことじゃないんだよ」というのを感じてほしいです。

久保:むしろ「簡単」なんですよね。『ピタゴラスイッチ』ってあるじゃないですか、ああいう反応の組み合わせがベースにあると思います。模型が好きという人は向いているし、楽しいと思うんですよね。

荒井:ひょっとしたら、専門学校での教え方とかで難しく感じてしまうのかなと思います。教える側が「リグって難しいな」と思いながら教えている感というか......。

小森:リグの魅力を学校で伝えられていないというのはありそうですが、何よりも、モデリングもアニメーションも何をやっているかがわかりやすいんですよね。CGへの入口が「モデルが格好良い」、「アニメーションが格好良い」は大いにある。モデリングやアニメーションは、作っているものを見せればわかってもらいやすいんです。リグは説明が難しくて「リグって何やってるの?」という感じで伝わらない。そういうイメージを刷新していくというか、伝えていくということを、われわれはやらないといけない気がします。そんなに難しいものじゃないんですよということと一緒に。

金田:テクニカルな部分、ギミック的な部分もお題としてはありますが、より大事だと思うのは、骨が正しい位置に打たれているかどうかじゃないかなと思います。イメージで骨を打ってしまうと、ちゃんとした位置に打てていないということがよく起きるんです。動物園や動いている機械などを観察して、そういう目を養ってほしいですね。

福本:よくあるのは、指の付け根ですよね。イメージで指の付け根に骨を打つ人がいますが、実際に曲がるのはもっと奥側です。指は一例ですが、イメージで骨を打つ人って多いですよね。

荒井:とはいえ、実物を模倣することが必ずしもベストではないこともありますよね。嘘の骨を足したり、嘘の位置に打った方がいい形状に曲げられることもあります。

久保:確かに。ただ、それは理解してやる必要はありますよね。わざとやっているという認識というか。本当は背骨は背中側にあるんだけど、このデザインだったら胴体の真ん中に通した方が良さそう、とか。肩とかも難しいですしね。

小森:動物の関節の位置や可動範囲は、全セクションが知っているべき知識だと言えそうですね。モデリングでもいい位置に割りを入れるには必要ですし、アニメーションでもそう。リガーだから必要というわけじゃなさそうです。スクリプトも言ってみれば同様で、仕事をやる以上は効率化を考えなければいけなくて、部署を限定せず必要だと言えると思います。それから、見る分野も尖る場所もちがいますけど、ベースとしての観察力。裏を返せば、CGをやっている方ならだれでもリガーになることは可能です。つまり、君でもなれる?

福本:スクリプトは、どの分野でも書けたらありがたいですよね。どれだけ極める人がいてもいい。あとはモチベーションですよね。さっき話題にあったように、プラモデルみたいに、『ピタゴラスイッチ』みたいに組んでみたいというのも良いですし、ほかには、胸のリグを組みたいという理由でなってくれてもかまわない。

一同:(笑)。

荒井:あとは、ゲーム会社だと、大手でも求人にリガーという枠がなかったりしますよね。求人にないということは、専門学校側もカリキュラムに組み込むという考えに繋がりにくいのではないでしょうか。

小森:確かに、ゲーム会社にはリグが部門として存在しないというのがそもそもあるかもしれないですね。ゲーム会社で働いている知人が、みんなリグ部門なんてないと嘆いていました。......われわれがゲーム業界に乗り込んでいくしかないのか!

荒井:CEDECのモジュラーリギングのセッション(※3)も満席で、リグに関心がある人はこんなにいるんだ!と思ったんですが......なんで人手は足りないんでしょうね(苦笑)。

※3:『CEDECのモジュラーリギングのセッション』
CEDEC 2015での講演「モジュラーリグシステムのアーキテクチャ」。スクウェア・エニックステクノロジー推進部の佐々木隆典氏が登壇し、同社のモジュラーリグシステム「CRAFT」を紹介した www.jp.square-enix.com/info/library


金田:うちは3dsMaxへの依存度の関係でよくあるリグのセオリーからは外れてしまっているので、募集をかけても望み薄かなと半ば諦めています......。ですので、リグで入りたいという方は、優しくしますのでぜひ来てほしいです(笑)。

平(アニマ):アニマもリガーいないので!本当に募集しています。

赤木:リグは各所の問題を吸収するというか様々なものが見える部署ですので、SVになりたい場合にもいい経験になります。リグのわかる人が、リグ以外の部署のSVとして立ってくれると、会社からもありがたがられると思います。

小森:「CG業界、入るならリグから!」。実際、重宝されると思うので、興味があるという方はぜひ取り組んでほしいですね。

総括

様々なプロダクションのリグ事情が窺えた今回の座談会。都内を中心に、リグにまつわる全ての現場の声が集まったわけではないが、おそらくは全国のプロダクションの悩みである「リガーが足りない」という思いは伝わったのではないだろうか。

良質なアセットに、良質な演技(アニメーション)によって命が吹き込まれてこそ、良質な映像は成立する。アニメーターが品質と共に高い生産性を持続させながら作業に当たるには、当然ながら良質なリグは不可欠だ。今回語られたトポロジーの問題、スケールの問題、部署間コミュニケーションの問題......それらを吸収しながらアニメーターの表現力を下支えするリグの仕事は、モデリングやアニメーションの格好良さとはまた異なる、まさに縁の下の力持ちとしての矜持が光る。

「CG業界に入るならリグから!」という力強い言葉の通り、これからCGの職を志す方々にとって、本記事がリグという仕事に目を向ける機会になれば幸いである。

Profileプロフィール

アニマ/ILCA/オー・エル・エム・デジタル/サンジゲン/StudioGOONEYS/デジタル・フロンティア/ポリゴン・ピクチュアズ/マーザ・アニメーションプラネット

アニマ/ILCA/オー・エル・エム・デジタル/サンジゲン/StudioGOONEYS/デジタル・フロンティア/ポリゴン・ピクチュアズ/マーザ・アニメーションプラネット

前列・左から、
久保圭之 リギング スーパーバイザー(オー・エル・エム・デジタル)
平 大和 シニアモデラー(アニマ)
赤木達也 キャラクターチーム マネージャー(マーザ・アニメーションプラネット)
金田剛久 システム開発部 部長(サンジゲン)

後列・左から、
田淵玲児 リギング アーティスト(デジタル・フロンティア)
福本健太郎 リギング スーパーバイザー/アセット部 部長(ポリゴン・ピクチュアズ)
荒井修平 プロダクショングループ リグセクションリーダー(ILCA)
小森俊輔 テクニカルディレクター(StudioGOONEYS)

スペシャルインタビュー