<2>360°パノラマ映像と、驚きのクラウドファンディング出資者への特典
――Kickstarterで集めた出資金を元に制作される「360°パノラマ映像」では、どのような映像を目指されているのですか?
笹原:具体的な映像プランの前に、まずはKickstarterにおけるこれまでの達成状況を調べることからはじめました。それでわかったのですが、映像企画って目標達成の難易度がかなり高いんですよね(苦笑)。デヴィッド・フィンチャーとBlur Studioがタッグを組んだ『THE GOON』で約4,000万円しか集まらなかったし、Kickstarterにおけるアニメプロジェクトのなかでは最も多くの金額をあつめた『Under the Dog』でも約8,000万円(※2)。つまり、みなさんアニメーションにはなかなかお金を出してくれないということです(笑)。
※2:『THE GOON』は、目標金額40万米ドルでKickstarterに挑戦。最終的に44万1,900米ドルを集めた。80分の長編化を目指しているようだが、公開日は未定(※2016年3月時点)。『Under The Dog』の場合は目標金額58万米ドルに対して87万8,028米ドル達成と、アニメ企画としては過去最高の出資金をあつめることに成功。90〜120分の長編を制作中だという(2016年5月に公開予定)。両プロジェクトとも目標額には達成したが、一連の経緯をたどると長編アニメーションを制作する上では難航していることがうかがえる。
ーーKickstarterは話題をあつめる取り組みとしては効果的ですが、Kickstarterであつめた資金だけで長編アニメーションを制作するのは非現実的、というわけですね。
笹原:であれば、達成できそうな目標額を先に決めて、その範囲で付加価値のある映像をつくろうという作戦を採ることにしました。さらに言うと、達成金額から手数料やリワード(出資者へ提供される特典。ノベルティグッズや限定イベントへの招待など様々)の制作費などが差し引かれてしまうので、映像制作に使えるのは半分程度なんですよね。そこから導き出したのが、2分程度の短尺だけどハイクオリティなCGアニメーションでなおかつ独自の付加価値をもつ360°映像です。これを足ががかりに、長編やシリーズとしての可能性を追求していきたいと考えているんです。
――世界的にVRへの関心も高まっていますしね。そしてStudioGOONEYSさんはVRコンテンツの制作実績をおもちです。
斎藤:はい。ただ、僕たちが制作のお手伝いをさせていただいた『GUZZILLA VR』は、360°映像ではありません。また別の制作手法が求められることになるわけですが、笹原さんは面白いことを考えますよね。
笹原:どのような映像をつくるのか、Kickstarterを実施している間に順次発表していく予定なのでご期待ください。360°映像を研究してみてわかったのは、(見た目としては)カット割りができないので長回しの映像としてつくるのが正解なのだということでした。さらに自分で視点を動かせるように仕上げることで、没入感や臨場感を味わえる。今回はそんな演出を目指そうと思っています。コンセプトムービーの中でも描かれているような、主人公・徳川慶一郎が敵ロボット(蒸気傀儡)に追われて、街を壊しながら走って行く様を描けたらと考えています。2016年12月の完成を目指しています。
――アセットはどうされる予定ですか?
笹原:基本的には遊戯機向けに作成したモデルをStudioGOONEYSさんにお渡しする予定ですが、(DCCツールの)バージョンが古いのでアップデートしなければなりませんね。
斎藤:一部のデータをお借りして確認してみたのですが、V-RayもMayaもバージョンがだいぶ以前のものなので正直、大変ですね(苦笑)。いろいろと手を加える必要があると思います。
――クラウドファンディング達成時のリワードの中に、キャラクターモデルのデータ提供がラインナップされているのが目新しいと思いました。
笹原:ポリゴン・ピクチュアズさんの『シドニア堂』(※3)を参考にさせてもらいました。今回の『ダイショーグン Reboot』ではリグも付けます。商用利用は不可という条件ですが、CGプロダクションさんがトレーニングやR&Dのために活用していただけたらなと。海外では様々なモデルデータが販売されていますが、ダイショーグンのようなデザインのアセットが、しかもリグ付きというのはまずありません。一般の方向けには、映像データやDVDのほか、アートブックやサウンドトラックのコースを用意しています。
※3:TVシリーズ『シドニアの騎士』のアセットをMMD対応3Dモデルとしてデータ販売するサービス、一部のモデルは無償で配布された。2015年11月30日(月)にてサービス終了