the English version(pdf) is available from following link.
CGWjp201603-daishogun-kickstarter.pdf
メディアミックスプロジェクトの『風雲維新ダイショーグン』が今、新たな展開をみせている。企画原案を務めた日本を代表するデジタルアーティストの笹原和也と、『SHOW BY ROCK!!』の3Dパートで注目をあつめたStudioGOONEYSがタッグを組み、360°映像として新作CGアニメーション制作するという。その名も『風雲維新ダイショーグン Reboot』。世界に向けて発信するため、その制作資金をクラウドファンディングで募るという計画だ。笹原監督とStudioGOONEYS代表の斎藤瑞季氏に本作への熱い思いを語り合ってもらった。4月1日(金)に配信されるニコニコ生放送と共に必見だ。
INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_蟹 由香 / Yuka Kani
DAI-SHOGUN -Great Revolution- Concept Movie
<1>笹原和也『CAT SHIT ONE』×StudioGOONEYS『SHOW BY ROCK!!』、夢のコラボレーションが実現!
――おふたりが出会われた、きっかけは?
StudioGOONEYS・斎藤瑞季(以下、斎藤):2012年にStudioGOONEYSを起ち上げたばかりの頃でした。以前からお世話になっていたプロデューサーさんの紹介で、笹原さんが映像ディレクションを手がけていたある遊戯機向けCGアニメーションの一部を担当させていただいたのがきっかけですね。
笹原和也監督(以下、笹原):そのときの仕事ぶりがすばらしかったので、その後に『CR風雲維新ダイショーグン』(以下、『ダイショーグン』)でも一部のCGアニメーションをお願いしたんです。斎藤さんとは映像のセンスが合うんですよね。僕が好きなタイプの映像というと、『ファイナルファンタジーX-2』(2003)みたいなルックで、斎藤さんもそういう画づくりをしてくれるんです。
-
笹原和也/Kazuya Sasahara
1971年生まれ。大学時代に3DCGアニメーションの世界に足を踏み入れ、有限会社笹原組(現在はアニマに改名)を1997年に設立、取締役に就任。2010年にアニマを退職し、株式会社ILCAに入社。ディレクターとして活躍中。
主な代表作:『PROJECT SYLPHEED』(2006・ムービーディレクター)、『CAT SHIT ONE -THE ANIMATED SERIES-』(2010・監督)
@sasaharakazuya
斎藤:僕にとって『FF X-2』のCG表現は、2次元と3次元の中間をねらった"2.5Dの表現"で、なかでもフェイシャルに惹かれました。それ以降のハイエンドなCGアニメーション表現は、よりリアルな方向へと向かっていくのですが、僕は『ダイショーグン』のキャラクターを見たときに『FF X-2』に相通じる魅力を感じたんです。そういうルックでロボットが出てきて冒険活劇をするというのが面白かったですね。
『ダイショーグン』コンセプトムービーより。
斎藤:それに笹原さんは「こういうのが面白いよね」とか「自分はこういうのをやりたいんだ!」といった、ご自身の思いに対してすごく真っ直ぐなんです。さらにみんなの意見を採り入れつつ、自分は葛藤しながらつくっていく。僕が一緒に仕事をしたいと思う監督さんって、やっぱり自分の作品を一番好きでいられる人なんですよ。笹原さんからはそれをすごく感じます。
-
斎藤瑞季/Mizuki Saitoh
株式会社StudioGOONEYS 代表取締役社長。群馬大学 教育学部 理科科を卒業後、CGの世界に入るため上京。デジタルハリウッド大学院在学中に明治製菓『チョコレートンの冒険』や東京証券『シェア先生と楽しく学ぼう』のCG監督を務め、映画『デスノート the Last name』(2006)への参加を皮切りにフリーランスへ。約7年半の活動を経て、映像演出に重きを置く仲間を集い、2012年4月に同社を設立。趣味はCPUのオーバークロック。
StudioGOONEYS公式サイト
笹原:こだわりをもつことには良い面と悪い面と両方あるのかもしれませんが、こだわりをもてる人、もちつづけている人って、正直あまり多くない気がします。僕にとって、『ダイショーグン』は、2008年頃から取り組んでいるメディアミックスプロジェクトなんです(※1)。それだけ思い入れが深くて、遊戯機やTVシリーズとしての展開が終わってもまだ自分の中で完結した感じがしないんですよ。もちろん、自分の原案がコンテンツ化すること自体は嬉しかったのですが。
※1: アニマのオリジナルメディアミックス企画『艶華王道 ダイ☆ショーグン』として、2009年にWeb小説を発表したことから、一連の展開がスタートした。
――そうだったんですね。
笹原:なによりも、2011年にフルCGアニメーション企画としてのコンセプトムービーをつくっていたのですが、それを世間に発表するタイミングにもめぐまれなかったので、なんとかして披露する機会を設けて、『ダイショーグン』のCGアニメ化には大きな可能性があるんだ! と訴えたいと思い続けていました。
『艶華王道 ダイ☆ショーグン』(東京アニメフェア 2010にて、S3D映像として披露されたデモリール)
斎藤:「ダイショーグン」で動画検索しても、遊戯機の"当たり"映像しか出てこないんですよね。僕自身、このコンセプトムービーを見せてもらって面白いと思ったし、うらやましいとも感じました。もっと世の中の人に観てもらって、認められてほしいですね。
――そうした思いから、『風雲維新ダイショーグン Reboot』というKickstarter(キックスターター)企画が誕生したわけですね。
笹原:はい。原作者サイドには、制作から事務的な手続きまでこちらで全て行うということで許可をいただきました。
▶次ページ:
<2>360°パノラマ映像と、驚きのクラウドファンディング出資者への特典
<2>360°パノラマ映像と、驚きのクラウドファンディング出資者への特典
――Kickstarterで集めた出資金を元に制作される「360°パノラマ映像」では、どのような映像を目指されているのですか?
笹原:具体的な映像プランの前に、まずはKickstarterにおけるこれまでの達成状況を調べることからはじめました。それでわかったのですが、映像企画って目標達成の難易度がかなり高いんですよね(苦笑)。デヴィッド・フィンチャーとBlur Studioがタッグを組んだ『THE GOON』で約4,000万円しか集まらなかったし、Kickstarterにおけるアニメプロジェクトのなかでは最も多くの金額をあつめた『Under the Dog』でも約8,000万円(※2)。つまり、みなさんアニメーションにはなかなかお金を出してくれないということです(笑)。
※2:『THE GOON』は、目標金額40万米ドルでKickstarterに挑戦。最終的に44万1,900米ドルを集めた。80分の長編化を目指しているようだが、公開日は未定(※2016年3月時点)。『Under The Dog』の場合は目標金額58万米ドルに対して87万8,028米ドル達成と、アニメ企画としては過去最高の出資金をあつめることに成功。90〜120分の長編を制作中だという(2016年5月に公開予定)。両プロジェクトとも目標額には達成したが、一連の経緯をたどると長編アニメーションを制作する上では難航していることがうかがえる。
ーーKickstarterは話題をあつめる取り組みとしては効果的ですが、Kickstarterであつめた資金だけで長編アニメーションを制作するのは非現実的、というわけですね。
笹原:であれば、達成できそうな目標額を先に決めて、その範囲で付加価値のある映像をつくろうという作戦を採ることにしました。さらに言うと、達成金額から手数料やリワード(出資者へ提供される特典。ノベルティグッズや限定イベントへの招待など様々)の制作費などが差し引かれてしまうので、映像制作に使えるのは半分程度なんですよね。そこから導き出したのが、2分程度の短尺だけどハイクオリティなCGアニメーションでなおかつ独自の付加価値をもつ360°映像です。これを足ががかりに、長編やシリーズとしての可能性を追求していきたいと考えているんです。
――世界的にVRへの関心も高まっていますしね。そしてStudioGOONEYSさんはVRコンテンツの制作実績をおもちです。
斎藤:はい。ただ、僕たちが制作のお手伝いをさせていただいた『GUZZILLA VR』は、360°映像ではありません。また別の制作手法が求められることになるわけですが、笹原さんは面白いことを考えますよね。
笹原:どのような映像をつくるのか、Kickstarterを実施している間に順次発表していく予定なのでご期待ください。360°映像を研究してみてわかったのは、(見た目としては)カット割りができないので長回しの映像としてつくるのが正解なのだということでした。さらに自分で視点を動かせるように仕上げることで、没入感や臨場感を味わえる。今回はそんな演出を目指そうと思っています。コンセプトムービーの中でも描かれているような、主人公・徳川慶一郎が敵ロボット(蒸気傀儡)に追われて、街を壊しながら走って行く様を描けたらと考えています。2016年12月の完成を目指しています。
――アセットはどうされる予定ですか?
笹原:基本的には遊戯機向けに作成したモデルをStudioGOONEYSさんにお渡しする予定ですが、(DCCツールの)バージョンが古いのでアップデートしなければなりませんね。
斎藤:一部のデータをお借りして確認してみたのですが、V-RayもMayaもバージョンがだいぶ以前のものなので正直、大変ですね(苦笑)。いろいろと手を加える必要があると思います。
――クラウドファンディング達成時のリワードの中に、キャラクターモデルのデータ提供がラインナップされているのが目新しいと思いました。
笹原:ポリゴン・ピクチュアズさんの『シドニア堂』(※3)を参考にさせてもらいました。今回の『ダイショーグン Reboot』ではリグも付けます。商用利用は不可という条件ですが、CGプロダクションさんがトレーニングやR&Dのために活用していただけたらなと。海外では様々なモデルデータが販売されていますが、ダイショーグンのようなデザインのアセットが、しかもリグ付きというのはまずありません。一般の方向けには、映像データやDVDのほか、アートブックやサウンドトラックのコースを用意しています。
※3:TVシリーズ『シドニアの騎士』のアセットをMMD対応3Dモデルとしてデータ販売するサービス、一部のモデルは無償で配布された。2015年11月30日(月)にてサービス終了
▶次ページ:
<3>世界に向けた、ハイエンドな大人向けCGアニメーションに突破口を
<3>世界に向けた、ハイエンドな大人向けCGアニメーションに突破口を
Enter a world of robot anime in this VR movie experience!(Kickstarterプロモーション動画)
――KickstarterのPR動画(上記リンク)も大変面白い仕上がりですね。あの内容はどのように?
斎藤:笹原さんとの話し合いが盛り上がっていくうちに、きちんとPR動画を撮ろうという話になったんです。と言っても、笹原さんにはダイショーグンの空手着(※4)を着てもらうけど、場所はオフィスで普通に喋ってもらうぐらいで考えていました。ところが、ある日突然、笹原さんからロケ地の候補が送られてきて、「え? こんな話聞いてないぞ......?」と(笑)。
※4:今回のインタビュー時にも笹原監督が着ている空手着。左胸には「笹原會館」と刺繍され、背中にはダイショーグンの紋章がはいった特注品である。なんとStudioGOONEYSが、応援の思いを込めてプレゼントしたものだという。
笹原:(笑)。実は、『悪魔城ドラキュラ』シリーズのプロデューサーなどで知られる五十嵐孝司さんの新作アクションゲーム『Bloodstained』(※5)のKickstarterピッチ映像を見たら、開発したいゲームの世界観にマッチしたお城で撮影されていたんですね。映像としてもしっかりと演出や舞台設計をされていて、それに非常に心を動かされたんです。そこで、僕も身体を張らなきゃなと思って、絵コンテをきって、みんなで神奈川県・足柄にある金時山へロケに行くことに(笑)。
※5:昨年5月に実施された、『Bloodstained: Ritual of the Night』では、目標額50万米ドルに対して、554万5,991米ドルと実に10倍以上の出資をあつめた。前述したアニメ企画の実績と比較すると、ゲーム企画ではより多くの出資が見込める傾向にあるようだ。
斎藤:笹原さん、最初は火渡りをするとまで言っていたんですよ! まさかそこまで本気だとは思わなかった(笑)。そこで僕も実写撮影の経験はあったので、素人なりにできる範囲でやってみましょうと。Blackmagic Cinema Cameraを引っ張り出してきてRAWデータで撮影しました。グレーディングすることで、かなり締まった映像になったはず。うちのスタッフに実写撮影を学んでもらうための良い機会にもなりました。
2015年9月29日(火)に行われた、Kickstarterプレゼンテーション用撮影の様子。後半に登場する瓦割りのカットはハイスピード映像のためiPhoneで収録されたが、それ以外はBlackmagic Cinema Cameraを用いることで映画的なルックが追求された
――その点でも類を見ない試みをされているわけですね。"道なき道を歩む方々が挑むプロジェクト"だということが伝わってきます。
斎藤:『ダイショーグン』については、2DアニメのTVシリーズしか知らない方も意外と多いんですよ。そうした意味でも、ゲームのプリレンダーパートとしてではなく、ひとつのコンテンツとしてこうしたルックのCGアニメーションが世に出たらどんな反響があるのか気になります。笹原さんがKickstarterを選ばれたのは海外マーケットを視野にいれてのことだと思うのですが、僕としては日本にいる人たちにもぜひ観てもらいたいんです。
――たしかに。『SHOW BY ROCK!!』の3Dパートのように、近年は日本でもセル・シェーディングではない、より新しいルックのCGアニメーションに対する機運が高まっていますからね。
笹原:昔から3DCGコンテンツ制作に携わっている人たちには、『ファイナルファンタジー』シリーズのCG表現に魅了されて業界に入ってきた人がすごく多いと思うんですよ。ところが、そうしたフォトリアルというか、ハイエンドなCG映像をつくれる案件はまだまだ限られているので、『ダイショーグン』のビジュアルは新鮮に映るはず! PR動画のなかでも申し上げましたが、一般的にCGアニメーションは子どもを中心としたファミリー層をターゲットにした作品が主流です。大人向けにはフォトリアルなCG表現は向いてないとする風潮すら感じます。
――おっしゃるとおり、大人向けでフォトリアルな表現となると一般的には実写VFXが選ばれますよね。ハリウッド映画がその典型だと思います。
笹原:だから、そこを突破したい。僕の中で、「蓼食う虫も好き好き」理論というものがあるんです。蓼(たで)は確かに苦いのですが、みんなが食べたいものだけをつくっているだけだと埋もれていってしまいます。1,000人のお客さんがいれば1人くらいはダイショーグンのようなCGアニメーションを気に入ってくれる人がいるだろうと。だけど、たとえ1,000人に1人でも73億人に観てもらえれば、730万人じゃないですか。埋もれることよりも目立つことを大事にしています。
――たしかに。それこそが、クラウドファンディングの根底にある考え方ですね。
笹原:だから、誰かに言われるのではなく自分ひとりだけではじめました。斎藤さんが「『ダイショーグン』みたいなCGアニメーションをやりたい」と言ってくれたことも大きな支えになっています。
――このインタビューを通じて、少しでも多くの人にまずは興味をもってもらえると良いですね。
笹原:前例のない試みなので、実のところ五里霧中です(苦笑)。僕の悪戦苦闘ぶりを面白がってもらえれば......。
斎藤:ほら、弱気にならないで(笑)。笹原さん、本当にガチンコで取り組まれていらっしゃるのでぜひ『ダイショーグン』を応援してください!
「豪華ゲストと贈る『ダイショーグン・風雲維新スペシャル!』ザ・ワールド・イズ・マインZ!!」【シシララTV#63】
このKickstarterプロジェクトに少しでも興味をもたれた方は、まずはニコ生にて、笹原和也監督のガチンコぶりを確かめてもらいたい。
info.
-
『風雲維新ダイショーグン』Reboot
(Kickstarter日本語まとめサイト)
これまでに、遊技機とTVシリーズ(2Dアニメ)として展開してきたILCA・笹原和也原案のオリジナル企画『風雲維新ダイショーグン』の360°フルCGアニメーション新作の制作資金を募ったクラウドファンディング。3月24日(木)から4月23日(土)までの30日間で20万米ドル(約2,260万円)集めることを目指す。
FacebookとTwitterにて新たな情報やビジュアルを続々と公開中。
●支援される方は下記の英語サイトへ●
Dai-Shogun - The Great VR Animation Revolution