<2>好きこそものの上手なれ、田口工亮の表現力
森江:田口さんのすごさは、モデリングの技量だけでなく、ライティングやレンダリングリングにも精通していらっしゃることだと思います。今回は恐竜モデルの制作だけでなく、背景セット(環境)の作成からライティングまで一環して手がけていただきました。
ーー森江さんがおっしゃるとおり、CGWORLDの表紙グラフィックを描き下ろしていただいたとき(※3)も同様のことを感じました。田口さんは、どのようにキャリアを築いかれてきたのですか?
※3: 田口氏はCGWORLD vol.179(2013年7月号)の表紙グラフィックとして『Factory』を描いた。当該号には、そのメイキングも寄稿している
田口:完全に独学ですね。23才のときにCGをやってみようと思い立ったのですが、CG系の専門学校などには通わずにハウツー本を片手にさわりはじめたんです。
ーーCGWORLDが最初に田口さんを取材させていただいたのは、映画『はやぶさ 遙かなる帰還』VFXメイキング(※本誌163号に掲載)でしたが、東映アニメーションのデジタル映像部にはどのような経緯で在籍されたのですか?
田口:独学でCGを覚えたため学校のつながりなどはなかったので、シリコンスタジオのクリエイター求人紹介サービスに登録したんです。そのときに担当してくれたエージェントの方が野口さん(※4)を紹介してくれました。
※4:野口光一氏。東映アニメーションでVFXスーパーバイザーとして活躍するのと同時に、近年は『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)などのプロデューサーとしても精力的に活動中
田口:野口さんのご厚意で、25才のときに東映アニメーション デジタル映像部に入り、映画『俺は、君のためにこそ死ににいく』(2007)のVFX制作に参加したことが、今につながってます。東映アニメーションでは実写VFXのゼネラリスト的な立ち回りで作業をすることが多かったので、モデリングからカット制作までひと通り学ぶことができました。
森江氏が描いた演出コンテより
ーーそうだったのですね。話を戻して、今回は環境全体の構築も担当されたとのことですが、ひとつひとつのアセットをイチからモデリングするのでは、さすがの田口さんでも厳しかったのでは?
森江:背景セットについてはスケジュール等を考慮して、TurbosquidのAsset Scan 3Dモデルを何個か購入して、それをベースに組んでいただきました。
田口:そうですね。ただ、購入したモデルのテクスチャに落ち影や陰影が焼き込まれていたりしたので、フラットなテクスチャへとレタッチしたり、ハイメッシュ過ぎて必要以上に重いデータについてはZBrushでリトポするといったかたちで調整しました。地面などに生えている草の表現はVRayFurを利用しています。