<4>海外から頼もしい助っ人が参戦
ーーアニメーションへのただならぬこだわりを聞かせていただきましたが、エフェクトまわりはどうでしょう?
森江:冒頭の水たまりのカットでは、波紋の表現をHoudiniによる流体シミュレーションで作成しました。
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ーー例えばMayaのFluidではなく、Houdiniで作成されたのはどのような理由からですか?
森江:トランジスタ・スタジオのブランド戦略的にHoudiniも使わなければ、、、というのは冗談です(笑)。流体表現については、スタジオとしてHoudiniが一番ノウハウを蓄積していることが大きいですね。この前、HoudiniのTIPS本を出版した 平井(豊和)くん が担当してくれました。
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波紋エフェクトの作業UI
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ホイヘンスの原理により、同心円状に広がる波紋同士が重なる様子が見てとれる。ところで、この波紋エフェクト(1カット)の解説がひときわ詳細なことからもトランジスタ・スタジオのHoudiniに対する強いこだわりが伝わってくるのは気のせいだろうか
ーー恐竜の口から滴るヨダレも印象的ですが、こちらもHoudiniによるエフェクトなのでしょうか?
森江:たしかに流体エフェクトですけれど、こちらは実写素材を利用しました。Houdiniによるエフェクトは冒頭の波紋だけですね。最初にお話したとおり、スケジュール的に3Dエフェクトを多用するのは非現実的だったので。。ヨダレの実写素材は、片栗粉を水で溶かしたものをドライヤーで飛ばして撮影したんですよ。それをAfter Effectsでキーイングして合成しています。
ーーそのながれでコンポジットまわりをリードされた柴野さんのお話を聞かせてください。まずは他の方々と同じ質問を、これまでのキャリアをお聞かせください!
柴野剛宏氏(以下、柴野):(苦笑)。大学卒業後にデジタルハリウッドへ1年通いました。デジハリ卒業を機に、ポリゴン・ピクチュアズで働きはじめましたのですが、ポリゴンさんは完全分業制だったことからゼネラリスト的に働いてみたいと思い、縁があってトランジスタ・スタジオに入りました。
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柴野剛宏氏(トランジスタ・スタジオ)
森江:柴野は、6年ほど前にトランジスタ・スタジオがディレクションやオリジナル作品もやっていこうと活動しはじめたタイミングで入ってくれました。その意味では、会社が変革していく最も激動の時期からがんばっているメンバーのひとりですね。
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ーーそうでしたか。先ほど、環境の構築は田口さんが手がけられたとうかがいましたが、レンダリング設定などはどのように受け渡しを?
森江:田口さんにライティングを組んでいたいたシーンファイルをそのまま使って、キャラクターとBGを個別にV-Rayでレンダリングしました。
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ライティング設定。ディレクショナルライト1灯と、HDRIを利用したDomeLight1灯の計2灯で構成、レンダリングはV-RayによるGIである
ーーコンポジットはどのように?
森江:実は、コンポジットワークではバンクーバーでご活躍中(2016年3月中旬時点)のテラオカさん(※6)に技術的なことで相談にのっていただいたんです。以前から半透明なCG素材の書き出しやモーションブラーの処理について疑問があったのですが、本プロジェクトを進める際にテラオカさんへ相談したところ、NUKEによるコンポジット作業に関するアドバイスをしていただけることになりました。
※6:Galaxy of Terrorのテラオカマサヒロ氏のこと。CGWORLD.jpにて 連載「NUKEプラクテイカル・ガイド」 を執筆中
柴野:テラオカさんから教えていただいた10数種類のレンダーエレメントをMayaから書き出し、ビューティーを再現できるようにコンポジットを構築することで、NUKE上でシェーダのパラメータ調整が行えるような感覚でコンポジット作業が行えました。Mayaに戻らずに反射度合いを抑えるといったことが可能となり、目から鱗が落ちました。
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NUKEのノードツリー。テラオカ氏のアドバイスの下、背景、キャラ共に出力したレンダーエレメントからビューティーを再構築するかたちでコンポジットが組まれている
ーー北米の大手VFXスタジオが導入しているコンポジットノウハウを採り入れることができたわけですね。
柴野:レンダーエレメントの中には、「Position Reference(Pref)」といった、初めて聞くものがいくつかありました。Prefはオブジェクトの位置情報を格納するものなのですが、NUKE上で3D的にマットを抽出することができたりと、重宝しました。
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キャラクター用レンダーエレメントの一覧。「diffuse, lighting, specular, shadow などの基本的なものから、bumpnormal, world情報、ls(ライトセレクト=選択したライトの影響を受けたdiffuseやspecular)などの調整用の素材も含め、18種類ほどの素材を出力しました」(柴野氏)。なおレンダーエレメントは、背景、キャラ、全体の3レイヤーに大別した上で書き出したとのこと
森江:テラオカさんのアドバイスは「どうすれば形を良く見せられるか」という観点で一貫していました。例えば、田口さんの恐竜モデルのハイクオリティな形状を、コンポジット作業によるライティング調整によって立体的な画に仕上げるためには、といったことなのですが、海外の大手VFXスタジオは自分たちのコンポジットワークに対する考え方とまったく異なるアプローチから画づくりを行なっているのだと痛感しました。ぜひ、今後のプロジェクトにも活かしていきたいと思います。
CUT 10のブレイクダウン。(左)<1>Mayaから書き出したレンダーエレメントの素組み/(右)<2>背景のマット、および一部をカメラマップによって追加
CUT 10のブレイクダウン(続き)。(左)<3>質感・立体感や、照度、環境の影響(空の青、空気遠近など)を調整/(右)<4>全体の色味調整、デフォーカスやライトラップなどを合成したコンポジットとしての完成形。この後、さらにDaVinciによるグレーディングが施された(後述)
ーー本作では、コンポジット工程後にグレーディングまでトランジスタ・スタジオで担当されたそうですね。
森江:そうなんです。MAまわりで一度ポスプロに入ったことを除けば、映像制作を社内で完結することができました。Web向けということで放送規格に対して厳密に配慮する必要がなかったのもラッキーでしたね。画完パケに関するノウハウを蓄積できました。
ーーグレーディング作業にはどのツールを利用されたのですか?
森江:田口さんから「使い勝手が良いのでは?」とDaVinci Resolveを教えてもらい、今回導入しました。歴史あるツールだけあって、無料のものから有料のものまでLUT(Look Up Table)が豊富に用意されているのも魅力でしたね。いくつかLUT集を購入したのですが、甲乙つけがたいLUTが多くて最終的な納期のギリギリまで柴野とふたりで悩んでしまいました(苦笑)。
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DaVinci Resolveによるグレーディング作業の例
ーーDaVinciの使い勝手はいかがでしたか?
森江:操作がわかりやすく、調整幅も広いんですよ。例えばあるLUTを充てると、特定のカットだけ恐竜の歯茎の赤が極端に強まってしまったりしたのですが、そうしたときもそのカットだけ彩度を下げるといった細かい調整も手軽に行えました。
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グレーディング例。(上段・中段)ボツ案の一部/(下段)最終的に採用されたグレーディング
ーー最後に、公開後の反響をお聞かせください。
森江:先日クライアントの方からメールをいただいたのですが、100万回再生を突破(※6)したことをとても喜ばれていたのでホッとしています。ぜひ多くの方に観ていただければと思います。
※6:2016年2月末時点で120万回再生を超えている。 youtu.be/vswCi9uGZBE
STAFF
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オカモトゼロワンCM『恐竜』篇、中核スタッフ。右から、森江康太ディレクター、田口工亮氏(フリーランス)、田島誠人氏、柴野剛宏氏。
映像制作:トランジスタ・スタジオ
Info.
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