>   >  公開後わずか数日で100万回再生を突破! 妥協なき"馬鹿VFX"にみるプロフェッショナルたちの美学、オカモトゼロワンCM『恐竜』篇
公開後わずか数日で100万回再生を突破! 妥協なき"馬鹿VFX"にみるプロフェッショナルたちの美学、オカモトゼロワンCM『恐竜』篇

公開後わずか数日で100万回再生を突破! 妥協なき"馬鹿VFX"にみるプロフェッショナルたちの美学、オカモトゼロワンCM『恐竜』篇

<3>何が何でも"腰振りカット"を守りぬく!

ーー田口さんのキャリアの謎に迫ることができたので、他の方々のキャリアも聞かせてください。田島さんは、今回恐竜のリギングやマッスルシステムの開発を担当されたとのことですが?

田島誠人氏(以下、田島):僕は、静岡文化芸術大学のデザイン学部に通っていました。ここでは、Webデザインを中心に勉強していたのですが、カリキュラムの中に3DCGの講習もあり、いつの間にか3DCGの方が面白くなってました。

オカモトゼロワン『恐竜』篇

田島誠人氏(トランジスタ・スタジオ)

ーー新卒でトランジスタ・スタジオに入社されたのですね。

田島:はい。森江さんたちが手がけられた、amazarashのMV(※5)に感銘を受けて門をたたきました。大学では3ds Maxを勉強していたのですが、トランジスタはMayaがメインツールだったので、面接のときは「入ってから覚えます!」で乗りきりました(笑)。

※5:トランジスタ・スタジオは、『夏を待っていました』MV をかわきりに、2010年から2011年にかけてamazarashiのミュージックビデオの3DCGアニメーションを継続して手がけていた

ーー今回はリグまわりを担当されたとのことですが、日頃からリガーの役割を担うことが多いのですか?

森江:リギング専任というわけではないのですが、田島の資質に合っていると思うので担当してもらうことが多いですね。彼は要領をつかむのが上手いので、「こういう動きができるようにしてほしい」といった要望を最初にパパッと説明しただけで、具体的なセットアップの組み方は自分でどんどん考えてくれるのでいつのまにか出来上がっているんですよね。

田島:ありがとうございます(汗)。今回の恐竜についてですが、基本的にはMayaプラグインのAdvanced Skeletonを使用してボディのメインリグを組んでいきました。

オカモトゼロワン『恐竜』篇

恐竜の全身リグ。AdvancedSkelton 5の「dinosaur」テンプレートをベースに作成された

ーーフェイシャルはどのように?

田島:顔周りは通常のFKベースのリグを併用して鼻孔や歯茎、眼球周りや首周りの皮膚が動かせるように細かく組み込んでいきました。ただ、スケジュールがかなりタイトだったので恐竜モデルの等身や関節の位置がFIXした段階で簡単なリグを組み込んでおき、それをアニメーターに渡してレイアウト作業を進めてもらいつつ、並行してセットアップのブラッシュアップを進めていくというかたちで作業しました。

ーー今回のリギングで心がけたことはありますか?

田島:最初からどこもかしこも動かせるように大量のリグを仕込んでおくといったことはやらないようにしました。絵コンテを見て表情アップのカットが多かったので、フェイシャルは細かく動かせるように組む一方では、あまり見えない部分は手早く済ませるといったかたちで効率良く作業を進めることを心がけました。

  • オカモトゼロワン『恐竜』篇
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恐竜のフェイシャルリグ。拡張性を考慮し、AdvancedSkeltonは用いずに田島氏がイチから自作したという

森江:キャラクターアニメーションについては、プライマリはほぼ自分ひとりで引き受ける一方で、マッスルシミュレーションなども含めたセカンダリアニメーションは後輩アニメーターの小川(光悦)くんと王(亜雄)くんに手伝ってもらいました。

田島:筋肉表現については、Maya標準のマッスル機能を利用しました。ちょうど『ジュラシック・ワールド』(2015)のブレイクダウンが公開されはじめた時期だったのでそれらも参考にしつつセットアップしています。

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筋肉のセットアップ。アニメーション作業が効率的に行えるよう、適用した際に効果的に見えるポイントに絞ってMuscleオブジェクトが配置されている

ーー苦労した点を教えてください。

田島:フォトリアルな表現なので、やはりデータ負荷には悩まされました。マッスルのウェイトを作成する際は、恐竜のモデルがものすごいハイポリゴンだったので、ペイントウェイトでブラシを一筆塗るだけでも結果が反映されるまでに20秒ぐらいかかりました(苦笑)。とにかく重かったので、1週間ぐらい費やした気がします。

オカモトゼロワン『恐竜』篇

ーー続けて、アニメーション作業についてお聞かせください。

森江:ぜひ語らせてください(笑)! 細かいところに高度なアニメーション技法を用いているんです。例えば、オスとメスの2体とも全身が映るカットでは、2体の動きが同期しないように足のステップや手のずれ、首の振りとかを細かくずらすことでリアリティを出したり、生物特有の呼吸など微細な動きを加えるなど、できるだけ実在感を込めるようにしました。

ーー森江さん的に快心の動きはどれですか?

森江:演出的にはコメディタッチなので動きとしてもコミカルなものが多いのですが、一番こだわったのはメスがサッとオスから身を離す動作の際に、オスの腰も一緒に引っぱられた後に "スポンと抜けるアクション" ですね、、、でも、誰も気づいてくれない(苦笑)。

一同:(笑)

森江:腰振りアニメーションを作成するにあたっては、柴野に手伝ってもらい2人で実際に演じたリファレンス用の動画も撮りました。ふざけていると思われそうですが、腰を動かしたときの反動や軸足の位置などアニメーションを作り込む上ですごく参考になったんですよ。

ーー"なんと!? そんな"こだわりの腰振りカット"ですが、尺もけっこう長いですよね。実にチャレンジングな表現で、まさに偉業を成し遂げたなあと。

森江:たしかに制作中には 「生々しすぎませんか?」 という懸念の声も聞かれました。過激すぎるのでカット割りや構図自体を変更すべきではないかという意見もあったのですが、「そんなことをしたら作品全体として凡庸になってしまい、誰も観てくれなくなりますよ?」と。腰振りカットは要の表現なので、妥協せずに根気強く理解を得ることに努めました。

オカモトゼロワンCM『恐竜』篇:CUT 10 Animation Development

通称「腰振りカット」こと、CUT 10のアニメーション作業の変遷をまとめたもの。再生順に、<テイク1>レイアウト段階/<テイク2>簡易的なアニメーションを付けた状態/<テイク3>プライマリアニメーション/<テイク4>セカンダリアニメーション(皮膚および筋肉の揺れなど、動きのディティール)を加えた、アニメーションとしての完成形


ーーまさにクリエイティブ魂ですね。

森江:その後も腰振りカット自体には了承してもらったものの、今度は回数に対して"物言い"がありました。公開された完成形では腰を7回振っているのですが、「(7回だと)長すぎるから3回にしませんか?」と。

ーー不謹慎かも知れませんが、なんだかシュールなやりとりですね(笑)。

森江:たしかに(苦笑)。試写のタイミングでは、実際に3回のバージョンも用意したのですが、最終的に責任者の方が「7回でいこう」と鶴の一声を発してくださったので感謝しています。

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<4>海外からも頼もしい助っ人が参戦

Profileプロフィール

トランジスタ・スタジオ/Transistor Studio<br />田口工亮/Kosuke Taguchi

トランジスタ・スタジオ/Transistor Studio
田口工亮/Kosuke Taguchi

右から
森江康太ディレクター、田口工亮氏(フリーランス)、田島誠人氏、柴野剛宏氏。

トランジスタ・スタジオ

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