Topics 2 背景セット
決められた範囲で"遊ぶ"ことで自ずとクオリティが高められる
背景セットの制作では、前項で紹介した井手ADが描いたコンセプトアートを再現するべく、2014年末から3名の社内スタッフと出向スタッフ2名によってV-Rayのレンダラ検証も兼ねたテストシークエンスの制作からスタート。同時に、外部パートナーに提供するための設定資料、ベースとなるモデルやテクスチャ、シェーダなどで構成されたスターターキットも作成された。
「従来まではプリプロの情報を積極的に外部へ提供することは避けられていたのですが、本プロジェクトでは大量のアセットを必要とするのでクオリティの指標となるトレーラーやスターターキットを作成し、アップデートを重ねながら協力してくれるパートナーさんを探していきました。プロットからおおまかなロケーション数は想定できるのですが、細部の物量まで把握するのは難しく、スケジュールの管理にも苦労しましたね」(鈴木重徳エンバイロンメントDir.)。
まずはザックリと全体を作り上げてレイアウトがFIXした段階で細部のつくり込みが行われたが、10社以上もの外部パートナーが参加しているため、社内でエラーチェックや最適化などクオリティを一定に保つ作業も必須であった。そこでテクスチャの数や形式、パスなどあらゆる情報がひと目で確認でき、仕様通りに作成されているかチェックする機能を備えたデータ管理ツールを開発し、このツールを各社に配布して納品前に不具合がないか確認してもらうといった方法で効率化を図ったという。
「外部パートナーの方々には、コンセプトアートと共に、参考となる大量のリファレンス画像群に加えて"何がマストなものか"を事前に共有して作業を開始してもらっています。制作途中でも必要に応じて明確な指示を出すために自ら詳細なデザイン画を描き起こすこともしていましたが、BGは映る範囲が広いため、全ての物に対し細かなデザインの指示を明確にするのは物量的に難しい面もありました。そこで先方からも提案をしていただいたり、こちらで、チェック用に先方から届いたデータを直接調整したりと、臨機応変に作業を進めました」(柿坪巧彌エンバイロンメントSV)。
外部パートナー向けスターターキット
外部パートナー向けに作成されたシェーダライブラリのマニュアル
実際に提供されたV-Rayのシェーダ群
BG班がショットワークも担当
ニックスとドラットーが、アウディR8で駆け抜ける街中シーンの背景モデルと、完成したショットの例。「BG見せ」などとも呼ばれる、各シーンの環境を伝えることが主目的のカットではBG班がショットワークまで一括して手がけることも多いという。「街中のBG見せショットでは、ブロダクトプレイスメントのコラボレーションしている各企業さんから提供されたロゴを目を惹く位置に配置するといった工夫もしています」(鈴木氏)
ルシス王国「謁見の間」
レギス王がアーデン・イズニア(ニフルハイム帝国の宰相)らと謁見を行う間の背景モデルと実際のカット例
「謁見の間」セットに適用されている床面のシェーダ構造をHyperShadeに表示させたもの
謁見の間の玉座は、そのデザインワークから柿坪氏が手がけたものだ。(左)玉座まわりの3DCGモデル最終形/(右)柿坪氏が描いたデザイン画
床面に用いているテクスチャの一覧。基本的には、diffuse、reflection、glossiness、normalで構成。「床には金と銀のラインがあるので、金属体と非金属体でシェーダを分けています。その際、金属体のreflection用としてreflectionBというマップを用意し、金属体と非金属体のシェーダをblendMaterialを使い統合しています(統合する際には、maskマップを使用)。そのほかにnormalBマップというものを使用しています。これは法線方向をほんの少しずらすことで、本来ならば床モデルは1つのポリゴンモデルなので均一に入るreflectionを、パネル1枚1枚の反射を異なるようにしてリアリティを高めるためのものです」(謁見の間の制作をリードした柿坪氏)
▶︎次ページ:Topics 3 メカ&プロップ︎