>   >  Autodesk 3ds Max 今昔物語 〜映画『TRON』の衝撃によって誕生した、25年間の開発をふり返る〜
Autodesk 3ds Max 今昔物語 〜映画『TRON』の衝撃によって誕生した、25年間の開発をふり返る〜

Autodesk 3ds Max 今昔物語 〜映画『TRON』の衝撃によって誕生した、25年間の開発をふり返る〜

<3>これからもクリエイティブな要望に応えていく

ーーデモ作品の制作も精力的に行われたそうですね。

ハドソン氏:『Corner Stone』というオリジナルPVを自分たちで制作したのが最初ですね。実際に自分たちで映像コンテンツを制作することによって、問題点や様々な検討事項を確認しながら、プログラムを向上させていったわけです。当時はレンダリングを始めたら2週間はかかっていました。今回新たに最新のマシンで再レンダリングしたら、1日もかからず終わりました。そう考えると現代と当時とでは、確実に革新が起こっていることを実感します。

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『Corner Stone』の1シーンより。本作は、遊びに行きたいと夢見るビルの土台レンガの物語である

『Corner Stone』(1990)3D Studio promotional video
より詳細な3ds Maxの歴史や『Corner Stone』リマスタリングにまつわるエピソードについては、下記リンクを参照してもらいたい。
doudoroff.com/atari
max.klanky.com/remastering-cornerstone.htm

ハドソン氏:『The Board Room』では、メンバーを募って、より複雑な映像表現に挑戦しました。当時はまだ新しかったネットワークレンダリング、つまりは、何十台かのコンピュータを繋いでレンダリングすることにも挑戦しましたよ。

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同じくオートデスク内部で制作した『The Board Room』の1シーン

ハドソン氏:その後、『Punch O Matic』という、ピクサースタイルのアニメーションを近所の学生とつくっていきました。その後、映画『ターミネータ2』(1991)、『トゥルーライズ』(1994)といったハリウッドの有名プロジェクに携わることとなり、ハリウッドで求められる機能をソフトウェアに追加していきました。CGアニメーション制作をやっていると、どのプロジェクトでも必ず問題がでてきて、その問題に取り組んで直したり、新しい機能を実装したり、製作を通じて、ソフトウェアを開発していきました。ソフトウェアによってクリエイティブな映像をつくるのは、非常に楽しい作業でした。最初は2人で開発していたプログラムも、Windows 対応を進めるにあたって、4名のプログラマが関わることになりました。

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『Punch O Matic』の1シーン

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当時の開発メンバーたち。向かって左から、ドン/Don、,トム/Tom、ロルフ/Rolf、ゲイリー/Gary、ジャック/Jack、そしてダン/Dan(敬称略)

ハドソン氏:コンピュータの草創期と比べると、メモリもCPUも進化しました。マルチコアのCPUと、多くのメモリが使え、グラフィックスボードもGPUを使えるものがでてきました。さらに開発チームのメンバーが増えたので、いろいろな開発が進められるようになりました。現在は YouTube のような表現の場が現在はあって、うらやましいです。まあでも当時と比べて一番のちがいは、私の頭にまだまだ髪の毛があったということですかね(笑)。

ーーノーコメントで(笑)。

ハドソン氏:話題になったと言えば、『ダンシング・ベイビー』を忘れてはいけませんね。世界中で話題になったのですが、3ds Max が登場したことで、人間のリアルな表現へのチャレンジがはじまったと言えます。

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『ダンシング・ベイビー』初期ビジュアル。日本でもTVCMに起用された

ーー逆に当時から変わらないことはありますか?

ハドソン氏:当時から今もゴールは変わりません。われわれの製品を用いて創造しながらコンテンツをつくる、その効率化を助けるのが私たちにとって不変の目標です。3DCGでクールな表現をつくるのは、いつも楽しいことです。毎日新しいは発見があったり、日々進化があるというのはわれわれ開発者にとっても楽しいことです。3ds Max がゲームや映画、様々な分野で活躍しています。今回の来日でも、様々なユーザーが 3ds Max を使って、ゲームや映像をつくるのを見たり、様々な業界、建築も含め、作品を観ることはすごく楽しみです。あとは、私の机の上が混沌としているのもいっこうに変わりませんね。

ーー当時と現在のコンピュータでは大きな性能差がありますが、具体的にどのような面にちがい(進化)を感じますか?

ハドソン氏:様々なシミュレーション、雲の表現、流体計算など、夢のような環境です。複雑な現象、煙、流体など、当時はできなかったようなことができ、これからさらに進化していくでしょう。先ほど紹介した『Corner Stone』では、影がありません。影を計算させる時間さえもありませんでした。今ならリアルなテクスチャ、フォトリアル的な家具をつくることもできます。

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エディ・パールバーグ氏(以下、パールバーグ氏):コンピュータが進化するのに応じて、デジタルアーティストの要望も高度化していくわけなので、常になんらかの改良が求められていることもかわりませんね。

ーーこれから導入が進んでいくはずの 4K、8K、HDRへの対応については、どのように考えていらっしゃるのでしょう?

パールバーグ氏:2013年に『DEAD SPACE 3』という4K規格のビデオゲームがリリースされましたが、膨大なデータを扱わなければならず、開発には苦労が絶えなかったそうです。高解像度化に応じて、要求も、データも、大きくなっていきます。ですが、4K、8K、さらには16Kと高解像度になることによって新たな感動を得られることも確かです。

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ーータブレットやスマートフォンの普及に関して、どうお考えですか?

パールバーグ氏:3ds Max は、クリエイティブな作業の中でエコシステムを構築しており、オートデスクとしては、ユーザーがどこにいてもつくりたいものがつくれる環境を提供しようと考えています。これはデスクトップPCに限りません。朝起きたら、すぐにストーリーボードをSHOTGUN(プロダクション管理ツール)で確認し、デスクトップPCに束縛されることなく、携帯端末で指示を出したり、アップロードできるようになる。現在提供している、ツール、コンテンツ、全てのものがエコシステムの中で制限なくつくれるような世界を目指しています。

ーー進捗やアセットの管理、データの受け渡しの効率化も制作現場の課題になっています。

パールバーグ氏:そのとおりです。3ds Maxに関しては、ブラウザの中で使えるようなレビューツールも充実してきており、カフェとかでタブレット端末で、ツールを使って、変更したものがすぐにアップロードされ、ネットワークで受け渡したりができるようになっています。様々な情報を SHOTGUN に集約して、映像制作のハブになるように、モバイルの環境でも作業できるように、デスクトップにしばられずに作業できるように考えています。今後、業界としては、どんどんモバイルデバイスが発展していくので、様々なツールも、もちろんモバイルデバイスへの対応を考えています。

ハドソン氏:1982年当時の自分に今のコンピューティング環境を教えたら、それこそ信じられない未来のようなものかもしれませんね。

パールバーグ氏:ツールの存在によってCG/VFX業界が成功していることを嬉しく思います。長期的な視点で、多くの人々がそれについて考えているということ。他社が開発したツールによって、より豊かで多彩な表現が創り出されていくことも大歓迎です。業界全体が発展していくわけですから。

ーーもし無限の開発費があったら何に使いますか?

パールバーグ氏: もし無限の開発費があったら、『マトリックス』のように脳にジャックインして考えるだけで何もかもが出来るようなものをつくりたいです。今は不可能ですが、あと25年ぐらい経てば実現できるかもしれません。たとえ開発費が有限だとしても(笑)。

ーーもし昔に戻れるなら、何をやり直したいですか?

ハドソン氏:3ds Max をつくる前に、これから流行るテクノロジーがわかっていたのであれば、さらに進化したものをつくっておきたいですね。先回りして、先の機能をつくっておきたい。当時の自分に、「未来ではこれだけのことができるんだぞ」と伝えられるといいのですが。

ーーでは、現在の 3ds Max の開発陣に対してご意見があれば。

ハドソン氏:そうですね。「ユーザーが求めるものに挑戦しろ!」と。自分たちの思うままに、信念をつらぬいていってもらえればと思います。

パールバーグ氏:全メンバーに楽しみながら(高いモチベーションの下で)開発してほしいですね。ユーザーのみなさんを楽しませたい、私たちはそのためにコードを書いているわけですから。

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ーーこれからCGにはどんなブレイクスルーがあると思いますか?

パールバーグ氏:われわれは多くの事柄に影響を受けています。日本の製造業からも影響を受けています。GPUなどハードウェアの進化、顧客のニーズに影響を受けています。そうした外的な要因、そこに込められたテクノロジーを貪欲に取り入れていきたいと思っています。そのためには現在CGを活用している業界だけでなく、幅広い業界から、意見を取り入れていきたいですね。人工知能の技術も長期的には、3ds Max の中に取り込まれていくことでしょう。今現在、人工知能の応用として考えているのは開発時のコードを書く際の活用で、いかにバグが少ないコードを書けるようにするのかを試しているところです。

ーー最後に、日本の3ds Max ユーザーへメッセージをお願いします。

ハドソン氏:いつも素晴らしい作品を創り出してくれてありがとうございます。これからも素晴らしい作品をつくっていってください。わたしが3ds Maxの開発に携わっていたときは、開発者であると同時に自分自身がユーザーでもありました。今では、こうして多くのユーザーに支えられています。

パールバーグ氏:これからもみなさんにとって良い 3ds Max であり続けられるように、ぜひ気軽にフィードバックを寄せてください。特に日本のユーザーさんとは良好な関係を築けているので、より深く交流していければと思います。

Profileプロフィール

トム・ハドソン&エディ・パールバーグ(オートデスク)<br />Tom Hudson & Edy Perblerg(Autodesk)

トム・ハドソン&エディ・パールバーグ(オートデスク)
Tom Hudson & Edy Perblerg(Autodesk)

左から、3ds Maxの生みの親こと、トム・ハドソン/Tom Hudson氏(現プリンシパル・デベロッパー)、エディ・パールバーグ/Edy Perblerg氏(現3ds Maxリード・プロダクト・マネージャー)。共に、オートデスク

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