ーー本作のモーショングラフィックスをつくるにあたって、デザインの方向性はどのように決められましたか。
伊東:今回最初に、松根監督から「こういうのをつくろう」と拡張現実系の演出をしたスポーツジムのイメージビデオなどを観せていただきました。また、今作の原作者・彭傑先生は台湾在住なので、日本のマンガとはちがう先生の独特な色づかいも採り入れています。全体としてはそこまで中華テイストを意識はしていないのですが、中国の拡張現実っぽいCMや映画『AKIRA』のバイクの後ろを流れる光の表現等を参考にしています。
モーショングラフィックス制作の参考にしたリファレンス画像
伊東:また、「加速」と「減速」はアニメ版独特の表現で、普通のモーショングラフィックスではあまり使用しない漢字を使っていることも大きな特徴です。
加速・減速のモーショングラフィックス
松根:原作をアニメにするとき加速の表現を「スピードアップ」にするか「加速」にするか悩みました。「スピードアップ」で合っているんだけど、グラフィックにしたときに短い尺の中でどれだけ情報を入れられるか考え、1ワードでも短くしたかった。情報を差し引いたときに、圧縮言語である漢字の方がわかりやすいと考えて採用しました。
ーー今回ステロタイプさんが作品中のモーショングラフィックスを全てご担当されたとのことですが、制作の手順、注意したところなどをお聞かせ下さい。
長井:大まかにわけると、伊東がベースのデザイン、私がモーション付けを担当しました。まずたたき台となる動きを私がつくり、実際に動かしながらどんどん調整していきました。さらに話数が進むにつれて、変わっていった部分もあります。
山下:大元の動きを見ながら、減速はこういう表現になるけど、加速はどうする? 色はどうする? などとバリエーションを増やしていきました。こうしたい、ああしたい、いやちがうと言いながら一緒につくっていった感じです。
伊東:今回はけっこう不思議なつくり方をしました。平面でデザインを起こしても、映像の中に登場するモーショングラフィックスは立体的なので、2Dデザインの時点で3D空間に配置して、まずは動かないものを空間に置いてみてから、動きも含めてつくっていきました。
長井:また、テンプレートをつくっても、尺を短くしないと本編に合わない場合、タイミングを合わせていく作業も必要でした。単に短くすれば合うというわけではないので、そのときの気持ち良さやシーンで表現したいことを意識して調整しました。
伊東:例えば拘束されるカットでは、パーツが出現する順序や組み上がっていくスピードなど、気持ちよさを重視しつつも状況が明確にイメージできるようにつくっています。ある部分が拘束されるとまずここが動かなくなるから、このパーツが先に出てくるのはおかしい、といったような考え方です。
拘束されるカットでのモーショングラフィックスの例
伊東:また、キャラクターごとにも特徴があって、ブレイズなら火のアレンジ、霧なら水のアレンジ、さらにそのときの感情や、環境などによっても動きが異なります。キャラクターの感情が荒ぶっているときは倍速で表現してちょっとガチャガチャしたり、パーツによって、組み方や出現のタイミングを毎回毎回、場面や感情に合うものにしていきました。
左から、それぞれヴィクト、霧、ミーナ、ブレイズのモーショングラフィックスのベースデザイン
【左】ヴィクトのモーショングラフィックスパターン、【右】ミーナのモーショングラフィックス
感情が高ぶっているときのモーショングラフィックスの例
山下:こういったことは1クールやる作品だからできることで、当社のいつもの案件だと1点ものの作品なので、理解がそこまで追いつかないうちに終わってしまうんです。今回は話数が進んでいくにつれて理解も進み、アレンジを加えていけたので良かったです。
伊東:確かに後半にいくにしたがって、つくりやすくなってきた感じはありますね。1話目、2話目はまだ1点ものをわざわざつくっているという感覚でした。いつもは1本の作品だけのためにまるっとつくることが多いので、話数の多い作品のためにパーツを用意してつくっていく作業は慣れていなくて、キャラクターの画を邪魔しないように、どうグローを乗せるのか等最初は苦労しました。
山下:社内で全部つくるのなら良いのですが、素材を渡すだけでは最終の画がわからないので、どこまでやっていいのかわからないということがあります。
伊東:不安はありましたが、1話の先行上映を見て、髙津さんに任せておけば全て安心だなと。
山下:制作を積み重ねていくことで、バリエーションを調整し、いつもの色で表現しておけば、撮影監督が調整してくれる。自分たちはここをがんばれば良い、という勘どころがわかってきました。