>   >  作画✕モーショングラフィックスで1クールをつくりきる TVアニメ『時間の支配者』の挑戦
作画✕モーショングラフィックスで1クールをつくりきる </br>TVアニメ『時間の支配者』の挑戦

作画✕モーショングラフィックスで1クールをつくりきる
TVアニメ『時間の支配者』の挑戦

ーー撮影パートはどのように進められたのでしょうか。

髙津:今作は、総カット数が1話あたり300カット前後ありました。現在のTVアニメでは多いもので1話あたり400カットくらい。その中で、モーショングラフィックスの部分は多いときで約30カット、平均すると20〜30カットくらいです。作業場所として旭プロダクションさんをお借りしているので、内製の作業効率化ツールもあり、素材が揃えば一気に取りかかって何とかなる環境でした。

監督のオーダーで「発光物なら光の干渉を受けるはず」、とキャラクターにこのグラフィックスが照り返したらどうなるのかを考えながら、強弱を調整しつつ最終的に決めていきました。ただ、1話は手間をかけて多少強めに光を入れています。1話は実験の意味もあり、つかみの部分でもあるので2倍くらいの時間をかけ、1話きりの表現もありました。映像として厚めの処理もあり、廊下のシーンなどはかなりゴリゴリに処理を入れています。

松根:廊下のシーンはホコリも舞っているし、色が既にあるにもかかわらず、さらにもう一段階色を重ねているので、1話は相当見応えのある映像になっていると思います。

髙津:最初はどういう素材が来るのかわからず、最悪の場合受け取った素材に対してこちらでパスを切らないといけなかったり、キャラクターの上に載せてもいいですか? と毎回確認しなければいけないケースもあるので心配していましたが、ステロタイプさんは初めからきちんとパスを切った状態で納品して下さったんです。なので、撮影としては上から順番に素材を載せて光らせ方の調整をしていくだけでよかったので楽でした。

伊東:そこは、当社がこれまで手がけてきたアニメ案件でも大変だった部分なんです。普段からモーショングラフィックスで拡張現実っぽい映像表現をやっていると、2Dのキャラクターの後ろはパスを切るという作業が当たり前なんですよね。

松根:お互いがお互いの苦労を知っているからできたことですね。

髙津:お互いが気遣ってくれるので、それが上手く連携できた要因なのかなと思います。大変ありがたい現場でしたね。

第1話のモーショングラフィックス

ーー余談になりますが、もし無限の予算、無限のリソースがあれば、どのようなことを手がけたいですか?

山下:僕たちに関して言うと、かえって困ってしまいます。例えば余裕をもって10時間かけたらすごく良いものができるかというとそうでもなくて、3時間しかない中でつくっているものの方が案外良い場合もあります。そうかと思えば、1つのシーンにまる一日かけることもあります。ただ、より濃い、深いものがつくれれば嬉しいので、予算があれば次のステップにいきたいとは思いますね。

伊東: 自分のパートというよりも、もっとバトルシーンでCGを増やしてほしいとか、観客視点の要望が出てきますね。それに付随してモーショングラフィックがあれば、言うことなしです。予算とお金があれば、作家さんやCGさんに使ってほしい。バトルシーンが増えれば増えるほど予算も必要です。原作ありきなので、原作にもバトルシーンを増やしてほしい。やるなら劇場版かもしれませんね。

髙津:撮影からすると、時間が一番ほしかった。確かに予算も必要ですが、現場としては時間がほしかった。1話は時間があったので処理を厚めにしたのですが、徐々に時間が取れなくなってきてしまいました。ある程度時間がないことが前提の制作で、どうしても無理という処理もあったのが残念です。時間があれば1話と同等レベルの処理を最終話までずっとできたかもしれません。撮影は1人の作業ではなく5人くらいの分業なので、もし時間が無限にあるならば、私1人で全部やるというのも考えられますね。

複数人で撮影作業をするのは、いい意味でブレることもあり良い結果になる場合もありますが、1人でやれば、自分が目指しているところを100%実現します。5分や10分の短い作品でないかぎりそういうことは無理ですが。実際300カットを1人でさばくのは無理で、1日20カット前後がいいところ。ただ会話しているだけのカットなら30カットぐらいさばけますが、バトルが入ってくると15カットとか、リテイクなしと考えても最低10日はかかります。

松根:今作に限らず、もし予算が潤沢にあったら、自分はアニメの制作システムそのものから変えていきたいです。現場において、旧来のシステムに限界がきているところがいくつかあって、それを変革するには無限に近い予算が必要だと思っています。ですから制作環境整備のための無限の予算と権力がほしいというのが本音でもあります。

特に新しいことをやればやるほど、旧来の制作システムに課題と限界が見えてきます。ハリウッド映画の監督が自分たちが求める表現に合わせてカメラを開発してしまうような感覚でデジタルツールや編集システムの開発に着手してみたいですし、実際に自分の中でも現在考えている構想がいくつかあります。

アニメ制作においては、最初から最後まで全ての工程において「編集&撮影を中心に据えたシステム」を採用すれば、確実に効率化が図れます。そういった、デジタルの強みを最大限活かしたシステムづくりに予算が回せると、逆にプラスワンの表現が可能になるのではないかと思うのです。

ーー最後に、視聴者の皆さんに一言をお願いします。

山下:画面からにじみ出てくる執念みたいなのを感じてもらえれば嬉しいです!

長井:本編だけでなく、オープニングも制作しているのでぜひみてください!

伊東:そうですね、最終話はラストバトルなので、総集編かのごとくモーショングラフィックスもいっぱい出てきます。また新たにチャレンジしている部分もあるので、最後までぜひ楽しんでいただければなと。

髙津:撮影もあと2本、全力を出し切って、あとは倒れるだけです。1話にかけた手間と同じくらい盛りに盛っています。映像として、光の表現などもリッチなものにしていきます。

松根:もちろん、撮影やCG等様々なパートのスタッフに最後までねばってもらって良い映像になっているのですが、「秘密こそが家族の証」というキャッチフレーズの通り、メインキャラクター4人の家族になる過程が最終話で収束していくので、そこに注目していただきたいです。家族って何だろうというのを思い出すきっかけが、12話、13話には詰まっています。家族をふり返るきっかけは難しく、自分もなかなか家族のことはふり返れません。リアルな現実で、もどかしいことでもあります。そこに『時間の支配者』で、彭傑先生が本当に言いたかったことが隠されているんじゃないかと思います。



Profileプロフィール

松根マサト×髙津純平×ステロタイプ

松根マサト×髙津純平×ステロタイプ

左から 監督・松根マサト氏、撮影監督・髙津純平氏、ステロタイプ 映像デザイナー・伊東正志氏、ステロタイプ クリエイティブディレクター・山下敏幸氏

スペシャルインタビュー