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本日公開!映画『鋼の錬金術師』監督&中核スタッフ座談会・OXYBOTの挑戦が日本のVFX制作にもたらすもの

本日公開!映画『鋼の錬金術師』監督&中核スタッフ座談会・OXYBOTの挑戦が日本のVFX制作にもたらすもの

ーー制作を終えて、今後への課題などはありましたか?

米岡:予算も時間も限られている中で新しいことにチャレンジしようとすると締切に間に合わない可能性があるので、ともかく今回は切り詰めてやっていこうという方針だったんですが、あるときエフェクトの都合でDeadlineを導入したいという話が出て。入れれば生産性は確実に上がるけれど、ただ、いろいろなところにお金がかかるので推進派と慎重派で足並みがなかなか揃わなかったんです。結局導入して上手くいったので良かったのですが、今後そういうことが起こったらもっと意志決定を早くできれば、より無駄なくクオリティが上げられるなと。そこをどうしていけば良いのか、まだ答えは見えないのですが。

  • 米岡 馨/KEI YONEOKA
    エフェクトスーパーバイザー
    (ステルスワークス)

曽利:大きなプロジェクトだったので、ある種のストレステストになって大きな収穫がありましたね。

米岡:結局何かを導入して無駄になったことはなかったように思えますね。

松野:機材にしても、ワークフローに関しても、結局万能はないというか。作品それぞれ、内容それぞれ、もっと言うと今回集まったチームそれぞれなので、上手くハマるかどうかですよね。

米岡:Deadlineは最初エフェクトだけで試運転みたいなかたちで導入したのですが、そこからだんだんコンポジット班も使うようになってきて。

松野:エフェクト以外のCGのレンダリング管理は、改良したBackburnerでやっていました。Deadlineに変えるにしても、ジョブ管理用のマネージャだけ変えれば良いというわけではなく、それに付随する必要になるので簡単に乗り換えるという選択にはいたらなかったですね。

曽利:こういうプロダクションはオリジナルのソフトウェアが動いてしまっていると、パイプラインの変更も一筋縄ではいかないですね。パイプラインの作成やワークフローは本当に重要です。今回アニメーション作成のツールだけでも多岐にわたり、Maya、3ds Max、MotionBuilderがメインですが、Blenderも使っています。

松野:結局みんなそれぞれが得意なソフトウェアで作業しているという。

曽利:昔のように「これじゃないとできない」というのは少なくなってきていますね。どちらかというとアーティストのスキルの方が重要です。

植原:ほぼ全てがレンダリング前にAlembicになっていましたね。

曽利:だからもうMayaが得意な人だけで仕事をしようとか、そういうのでは進まないですね。今回一部他社さんに協力を仰いだところもあるのですが、それぞれ得意なソフトウェアがあり、そこはOXYBOT側で吸収していくしかないので。

ーー映画制作に対するVFXのスタンスというのは徐々に変わってきているのでしょうか。

曽利:通常の制作体制だと、VFX班は撮影のとき「お客さん」になってしまいます。今回SVも一緒に撮影に行ったのですが、OXYBOTが制作なので、こちら側がホストというスタンスでお客さんではなかったですね。

植原:CG部のスタッフだけでクロマキーを立てられるようになりましたからね。

  • 植原秀登/HIDETO UEHARA
    VFXスーパーバイザー
    (フリーランス)

長﨑:ターゲットも、普段は「○メートルおきに貼ってください」とお願いする側なのですが、今回は自分たちがやる側。

ーー撮影スタッフとCG部での思惑にズレが生じることはありませんでしたか? 特に照明などはVFXだと如実に影響してしまいますが......

曽利:照明監督の石田さん(※)はOXYBOTの映画では3本目の参加だったので、CG側にすごく理解がある方で、いろいろ相談しながら進められました。撮影部とか照明部も徐々にVFXありきの撮影に慣れてきていますよね。カメラデータも普通に取っておいてくれますし。今までは言わないと細かく記録しておいてくれませんでしたが。

※:石田さん 照明技師・石田健司氏。曽利組作品としては、『ICHI』(2008)、『あしたのジョー』(2011)にも参加

松野:VFXでどのデータが必要かというのをもう理解して取ってくれている。

曽利:カメラテストの時点から合成のテストも含まれていたし、レンズに関してもポスプロ用のテストをちゃんとやってくれるし、VFX作業があることを前提で動いてくれていますよね。

松野:今回相当量のデータを取ってもらっていたのです。後処理のためのプランをかなりたくさん立てていたので。すごくたくさんデータを取らなければならなかったけれど、かといってそれをやりすぎると現場の大ブレーキになっちゃうので、そこの予行演習もして、本番に備えていましたよ。

長﨑:僕はずっと撮影についていたので「この人に言えばわかる」というのが現場に伝わっていて、非常にやりやすかったですね。カメラ関係の測量は撮影部の方でやってくれました。われわれがやったのは背景トラッキング用の距離やCGで後から背景を起こすときのためのサイズを測ったりとか。

曽利:お客さんとして入っちゃうと、無駄な部分とわかっていても後で必要になったら困るのでいろいろ測ってしまったり、ということもあるのですが、今回は制作側として入ったことで現場で「ここのデータはいらない」「じゃあここはあとでこうしましょう」とか取捨選択ができたので本当に無駄がなかったですね。

長﨑:撮影素材を見ると、だいたいここまでのクオリティにはもっていけるなというのと、これはどんなにがんばってもここまでかなというような伸びしろがわかるものですが、今回は監督が描いたコンテを上がってすぐに見られて、これをどういう風に撮ればいいだろうと検討するところから携われたので、本当に面白かったです。

曽利:長﨑君や植原君がつくったアニマティクスを基に撮影プランを立てていました。そこまでやって撮影しているから、撮ってきたものに対する責任がこちら側にあって、仕上げに対してまったく言い訳ができなくなります。

吉川:コンポジット側からひとつ言えるのは、イタリアで撮影できてすごく良かったなと。日本で撮影していたら背景をいろいろと苦労しなければならなかったですが、イタリアの風景だと説得力がちがいます。

  • 吉川辰平/SHIMPEI YOSHIKAWA
    コンポジットスーパーバイザー
    (フリーランス)

吉川:あとはやはり各パートのスタッフの距離が近ければ近いほどやりやすいので、そういう意味では本当にやりやすかったと言うのもあります。コンポジットだと限界があって、前工程から修正したくなったときに、今回のように担当スタッフが身近にいると言いやすい。例えばエフェクト班にもこういうマスクを出してほしい、と気軽に相談できる。エフェクト周りのコンポはすごく複雑になるのですよね。アルは大体完成図を想像して作業できるのですが、エフェクトに関しては「こんな風になるんだ」というのが結構あって、素材数も多いし大変でしたね。書斎の嵐のシーンも当初あんな仕上がりになるとは思ってもみなかったので。編集もエフェクトができてから結構変わっていきましたもんね。

エドとアルの兄弟が人体錬成に失敗し、錬成を行なった書斎ごと嵐に飲み込まれる。このシーンは曽利監督たっての要望により、原作にはない激しい嵐として表現された

曽利:エフェクトに合わせて編集を変えるというのも結構特殊ですよね。オフラインも含めて中でやっていて、その変更がどこまで波及していくかもこちらで判断できるので、逆にエフェクト側で都合の悪い部分が出ても、それに寄り添うこともできる。そういう意味で動きがものすごく速かったですね。

ーー最後に、読者の皆様へ今回の作品の見どころなどをぜひお願いします。

吉川:本当にVFXてんこ盛りの作品になっていますので、ぜひ観ていただきたいと思います。

植原:日本の映画でアルのようなフルCGキャラクターが全編出ずっぱりの作品はほとんどなくて、もしかしたら初めてかもしれないくらいなのですが、そういった意味でも観る価値があると思います。

米岡:今回のプロジェクトは、自分が海外で吸収してきた経験をほぼ全て出して、こういうフローでやればこういうクオリティが出るんじゃないか、という仮説を試して上手くいったケースという部分でもとても有意義でした。日本の映画でもこのくらいの物量・クオリティはいけますよと示せたのではないかと思います。

長﨑:アルという情緒的なキャラクターを役者さんと一緒に演じられた、情感あるキャラクターとしてそこに存在させることができたというのは、日本の映画としてはエポックメイキングだと思うので、ぜひそこを観ていただきたいです。

松野:背景もキャラクターもCGで仕上げていくやり方を実写映画に導入することは、絶対にこの先も必要だし非常に重要なことだと思っていて、それをこれだけのメンバーで挑戦することができて上手く回ったと思うので、本当に思いきって技術を出せた部分だと思います。

曽利:海外と日本のVFXの差は、以前は歴然としていましたが、この映画でかなり肉薄したと思っています。映画は「実存感」が重要で、物語を邪魔しないために実存感のあるCGが必要なのですが、なかなか今までそれができなかった。アルに関してはすでに実存している、今までのものとはちがう、という印象が自分たちでもわかるので、この飛躍はとても大きいと思います。一般の観客の方々にはそこは気づかれない、むしろ気づいてほしくない部分ですが、CGをやっている人にはわかると思います。

長年追い続けてきた「実存感」にこの映画でようやく手が届いたということが、これから日本の映画が新しい時代に入っていく、映像や映画が新しいステージに進むきっかけになる。そういう意味では若い人たちにこのアルを見てもらいたいし、「日本でもやれるんだ」と思ってもらえれば、ハリウッド映画のクオリティはわれわれにも手が届く場所にあるという印象をもってもらえると考えています。そうすれば日本の映画は今よりももっと面白くなるし、この作品をきっかけにもっと面白い日本映画がたくさん出てきてくれると期待しています。

ーー今回いろいろと話を伺って、VFXと言えどもやはり映像をつくる、という根幹の部分が重要ということを改めて認識させられた。結局のところ、実写素材にCGを合成して作品をつくる以上、撮影段階から関わっていかなければ良い作品は生まれないということだと思う。

筆者もCG合成の仕事をしていると、つい見聞が狭くなり自分の画面内に没頭しがちなのだが、それではだんだんと伸びしろがなくなっていってしまう。時代が進むにつれリニア編集からノンリニア編集に移行し、撮影とポストプロダクションはより立ち位置が近くなると思っていたが、最近はむしろ徐々に離れていっているように感じられていた。今後は撮影だけでなく、より作品の制作自体に対して深く踏み込んでいくことが、VFXの制作には重要になっていくだろうと考えさせられた。



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.233(2018年1月号)
    第1特集:映画『鋼の錬金術師』
    第2特集:ゲームエンジン向けキャラクター制作

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年12月9日
    ASIN:B0783Z46XK

Profileプロフィール

曽利文彦監督&OXYBOT中核スタッフ

曽利文彦監督&OXYBOT中核スタッフ

写真右から 長﨑 悠VFXスーパーバイザー、曽利文彦監督、米岡 馨エフェクトスーパーバイザー(ステルスワークス)、松野忠雄VFXスーパーバイザー、植原秀登VFXスーパーバイザー、吉川辰平コンポジットスーパーバイザー
http://oxybot.com/

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