>   >  デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)
デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)

デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)

<4>大学3年生で商業デビュー

ーーデジハリに通われたのは1年間だけですか?

森田:そうです。卒業制作『The Point』をいろいろな方に観てもらえたことで、仕事につながりました。

ーーTwitterでも話題になったことを覚えています。

森田:当時から影響力のあった田島(光二)くんや、ほかにもたくさんのプロの方々に褒めてもらい、リツイートで拡散してもらえたことが大きいですね。頭が上がりません。

ーー田島さんなど、そうしたクリエイターの方々とはどうやって知り合ったのですか?

森田:Twitterですね。相互フォローをして、なにかのセミナーで直に顔を合わせたのを機に親交を深めるみたいな。田島くんともそんな感じでした。

ーー同業の方で、初めてリアルに親交を深めた方が、田島さんだった?

森田:そうですね。同年代ということもあり、彼の存在はめちゃめちゃ大きくて、おかげでより一層自分もがんばろうと思えた。やっぱり同世代というのは、自然とライバル心が芽生えますよね。

ーー商業デビューは、どんな案件でしたか?

森田:大学3年生のときに、デジハリの職員か講師の方からの紹介でいただいた仕事でした。本当にちょっとしたもので難易度的にも優しいものでしたが、とっかかりとしてはむしろ良かったのかもしれません。そこから段々と難しい仕事にも取り組んでいきました。当時は仕事内容としても幅広く、映像ディレクター的なことも何度かやらせていただきましたね。紅白歌合戦の映像とか、モーショングラフィックスとか、プロジェクションマッピングとか。

デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)

『蟹の怪獣』(2016)

ーーデジハリ卒業後は、CG・映像制作がアルバイトになっていたわけですね。

森田:そうですね。ただ、日中は大学の講義も真面目に受けていたので、商業制作は夜にやるという。デジハリに通っていた頃と同様に睡眠時間を削ってました。

ーー大学で学ばれたことは、現在の創作にもつながっていますか?

森田:CG制作に直接役に立っているものはありませんね。ただ、バックグラウンドとして、自分のつくりたいものだったり、表現したいものには、めちゃめちゃ生きていると思います。

ーー中高校生の方に「CGをやりたいんですけど」と相談されたら、大学への進学を薦めますか?

森田:いいえ。ただ、どういう目的でCGをやりたいのかが気になります。

ーー「森田さんみたいになりたいです」と言われたら?

森田:素直に嬉しいですよ。ですが、それがきっかけになったとしても「あなたが本当につくりたいものや成し遂げたいことって、なんですか?」と、たずねると思います。つくっていく中で次第に見出せるのかもしれませんけどね。でも、つくっていく中で成長するしかないので、表現したいものがある程度はっきりしないと長続きはしないんじゃないのかなあ。

ーー森田さんは自分が表現したいものを、いつ頃から意識するようになりましたか?

森田:小さい頃からです。繰り返しますが、僕の場合は実在しない生物だったり、自然の仕組みが昔からすごく好きだったので。

ーーそれをCGで表現すると。

森田:そういうシステムのような抽象的なものを演繹していって、具体的な作品に落とし込んでいくという。そのシステムというのは、生物が行動をとるしくみや、人間が世界を認識している方法だとか。生態学や行動心理学のような授業ですね。クジャクって、尾羽を広げたときにできる目玉のような紋様の数が多いほどモテるらしいんですよ。そうした生き物特有の美学だったり、感覚のちがいがすごく面白い。ほかにも蜂が蜂の巣を作るときって、頭の中に設計図があるわけではなく単純な行動の繰り返しで自ずとああいう六角形のセルになっているんですよ。そういう自然の本質とかに惹かれます。ただ、こうした表現の根本的な哲学とかって、芯は変わらなくても、一生を通じて育んでいかなければいけないところだと思ってますし、まだまだ自分の中で整理できてないところも多いです。

ーーCGのアルゴリズムにも通じるところがあるかもしれませんね。

森田:たしかに。



<5>海外への道を断った後、再び関わりはじめている

ーー商業デビューから現在まで一直線につながっていると思いますか?

森田:そうですね。実は、「CG Student Awards」(※2016年より「The Rookies」へ改称)というCGコンテストで入選したことがあるんです。欧米の大手VFXスタジオやゲーム開発会社の方々が審査員で、入選するとオファーが来てインターンに行けたりするのですが、その2013年度に3位を獲得したところ、ロンドンのDouble Negativeから声がかかりました。知人を通じて「今、日本人のアーティストを探しているんだけど?」と。

ーーすごいじゃないですか!

森田:すごく魅力的だったし、行きたいとも思ったのですが、まだ在学中でしたからね。なにかモヤモヤしちゃって......。自分の最終目標がハリウッド映画にかかわることだったら即決していたと思うのですが、CGをはじめた理由はそこではなかったこともあり、どうも実感がわきませんでした。そうこう考えているうちに結局その話はながれてしまいました(苦笑)。あのとき海外に行っていたら今頃何をやっているんだろう......などと考えることもありますけど、不思議と後悔はありません。

ーーCGをはじめた理由が「ハリウッド映画に携わることではなかった」という点がすごく印象的です。

森田:どうなんですかね。むしろハリウッド映画が最高峰っていう考えって、VFX業界特有のものだし、もっと広い意味でのCG、映像業界からしたら珍しくないと思います。僕はそういう夢や目標が多様化している方が健全でハッピーだと思うんですよ。もちろんピンポイントで関わりたいタイトルとか、一流の作品に携わってみたいと思うことはありますけど、海外のスタジオに入って、数年働いて、自分の理想のかたちでその映画に関われるかどうかわからない......というのは僕にとって現実離れした選択肢なんです。それよりか、国内で海外の案件もやっていく方がよっぽど現実的だし、理想的です。

ーーなるほど。

森田:などと思っていた矢先、今年はたくさん海外の案件に関わる機会に恵まれました。今はまさに外国映画のピッチコンセプトの仕事もしています。ピッチコンセプトなのでボツになる可能性もありますけど、なによりもまずは僕の理想形を体現できてることが嬉しいんです。

ーーハリウッド映画という記号が目的ではないと。

森田:やっぱり個人としてのアーティストの立ち回り方とか、その人にしかできないジャンルとか、そういう芯をもって追求している人たちに憧れます。とは言え、ハリウッドのメジャー作品すら自分の味方につけてしまうくらいコアデザイナーとして活躍している田島くんは本当にすごいと思いますし、悔しい思いもあります。

ーーCG創作を続けている理由を改めて教えていただけますか?

森田:やっぱり自分の作品をつくることが好きなんです。もともと3DCGという自分ひとりで表現できるツールに魅了されて、CGをはじめたわけなので。

ーーアーティスト志向ですね。

森田:自分でもそう思います。

ーーその上で、自分が本当に好きなことに注力されたい。

森田:そうですね。だから就職するのではなく、フリーランスとして活動しています。野良アーティストとしてでもかまわないので、自分のジャンルをこれからもっと深くいろんな方面から追求していきたいです。

ーー海外の案件にはどのようなかたちでかかわっていますか?

森田:コンセプトデザインだったり、本番用アセットのテクスチャリングだったり様々です。自分の強みはデザインから質感まで、全てひとりでカバーできることだと思っているので、そうしたかかわり方をしています。今のところは。

ーー国内外を問わず商業制作もまた楽しかったりしませんか?

森田:楽しいです。めっちゃ楽しい。でも、その楽しみはあくまで仕事としての楽しみで、自分の中では分けています。分けないと、今自分がどこを目指しているのかわからなくなってしまうので。

ーー商業案件の受託で収入を得つつ、自分の作品もつくっていくわけですね。

森田:自分の作品をたくさんに残していきたいですね。もっと規模を大きくしたりして、もっと圧倒的なものをつくらなければとも思いますし、そのためには大きな商業案件を手がけていかないと......。わがままなんですよね。



▶次ページ:
<6>ひとつでも多くの作品を残す

Profileプロフィール

森田悠揮/Yuuki Morita

森田悠揮/Yuuki Morita

1991年生まれ、名古屋市出身。2014年、立教大学現代心理学部卒業。在学中からフリーランスとしてキャリアをスタートし、卒業後の現在はフリーランスのデジタルアーティスト、キャラクターデザイナー。TV、映画、ゲーム、CM等に登場する生物や怪獣のデザイン、CG制作を中心に活動中。月刊CGWORLDにて「Observant Eye」連載中。

www.itisoneness.com

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