<6>ひとつでも多くの作品を残す
ーーおひとりで仕事をされていると、また別のストレスも溜まりませんか?
森田:仕事的なストレスはほとんどありません。何だろう......。やっぱり、自分の作品をコンスタントにつくっているし、単純に誰かと遊ぶことでストレスを発散できているんでしょうね。
ーー1週間に1回必ず完全オフの日をつくる、といったことは?
森田:それもありませんね。フリーランスの魅力って、好きなときに好きなことができることじゃないですか。ただ、最近は生活が不規則にならないように気をつけてはいます。運動不足にならないように、たまにドラムを叩いたり。これもまた、ストレス解消法のひとつかな。
ーーこれまでの創作で特に思い入れのある作品を教えてください。
森田:やっぱり『The Point』(デジハリの卒業制作)です。ときどき過去の作品を見返すのですが、この作品は熱量が別格なんですよ。全工程をひとりで作業して、4ヶ月くらい費やしました。作品に込めた思いや、物理的な労力が段ちがいで未だに越えられていなくて、まずいなと......。ナルシストっぽいですけど、現時点では最も思い入れの強い作品です。
ーー良い意味で青臭さ(初期衝動)みたいなものを感じますね。
森田:可愛いです。必死にがんばっていた当時の自分がわかるというか。
ーー映画監督でも小説家でも漫画家でも、クリエイターは処女作に全てが込められていると言いますからね。作品は自分の内面を出すわけですから。
森田:何年かに1回、それを更新していきたいんです。それぞれの年代で作風や表現手法も変わてくるでしょうから。
ーー結婚して、お子さんができたりすると、また変わってくるのではないでしょうか? ライフステージが変わると、モノの見え方が変わりますし、作品にも反映されるかも。
森田:うーん、なるほど。
ーーちなみに、表現者としての自分とは別に、生身の人間としての自分といったことを考えられることありますか? 生まれて、成長し、成熟し、やがて衰えて、死んでいく中で、何を残すか、残せるかみたいな。
森田:現在の率直な思いとして、自分にとってはまず作品です。26歳でしかつくれないもの、30歳、40歳のときにしかつくれない、その時々でしかつくれないものがあって、自分の中での最高傑作を更新していきたい。そうして出来上がった作品や、それを介して関わる人たちとの交流を通じて、生身の自分も変わっていく......。だから、どんどんつくらないとモヤモヤしたまま生きることになるんだろうなあと。とは言え、友だちと遊んだり、幸せな家庭を築きたいとも思っていますよ。
ーーCGWORLDの連載「Observant Eye」もこの取材の時点で26回を重ねて、3年目に入りました。その意味では、もっと手を入れたいけど毎月の締切もあるし......みたいな葛藤もあったりしませんか?
森田:うーん、でも多分、そこまで考えてない。連載だとテーマが決められているわけではないので、何をつくっても良いじゃないですか。僕にとっては自主制作と同じなので。それで毎月、定期的にお金が入ってくるのはありがたいですよ。
ーーとは言え、"割には合ってない"と思うのですが......。
森田:単純に制作に費やした日数や労力との比較では割には合っていないのですが、楽しいから良いんです(笑)。でも、原稿料が上がってくれたら嬉しいです。
月刊CGWORLDで連載中の「Observant Eye」、232号(2017年12月号)にて第26回をむかえた。上図は、205号(2015年9月号)に掲載された記念すべき第1回『架空の大型哺乳類』記事より
ーー今年はがんばって貯金して、むこう数年は自主制作のために引きこもろう、みたいな計画はございますか? 映画監督やミュージシャンには、そうしたスタイルの方もいらっしゃるので。
森田:それはありますね。僕も来年は、商業案件はほとんど受けない期間をつくって、自分の勉強や創作活動に充てるつもりです。
ーーお話をうかがっていると、いろんな葛藤を抱えられている中のひとつに、卒制『The Point』と同等の熱量を注ぐことができた作品がつくれていないことがあるように感じます。
森田:そうですね。おかげさまで商業制作が忙しいということもあって、ひとつの自主制作に費やせる時間が減っているということはあります。もっとも、現在は動画ではなくて静止画の作品が中心です。静止画は勢いでつくれるところがありますよね。ふと思い立ってスカルプトする、Photoshopで描けるというのが魅力です。
ーースカルプティングの方がモデリングよりもお好きですか?
森田:そうですね。スカルプティングができるようになってからは、ポリゴンモデリングはあんまやりたくないな、と思うようになりました。デジハリを卒業後、2年間くらいはモチーフを問わずモデラーとして活動していました。ですが、ZBrushをメインツールとして生き物などの造形を中心に手がけるようになってからは、できるだけデザインまで担当させていただくようにしているのですが、今年はそうしたお仕事を複数いただくことができました。
ーー創作意欲に関するスイッチが入るのはどんなときですか?
森田:それは未だに自分でもわからないです。強いて言うなら、追い詰められたときとか?
ーーこれまで、どんなときにスイッチが入りましたか?
森田:それもわからないです。考えてないんですよ。気づいたらつくっているし気づいたらできているし。じゃないと物量こなせないじゃないですか、スイッチを入れなければいけないと思うこと自体がなにか無理をしているというか。別に無理をしてつくらなくても良いと思うんですよ。やりたいときにやってという。
ーークリエイターとして自己が確立されている一方で、売れたいといった世俗的な願望もおもちなところが僕らからすると親近感を抱きます。
森田:26歳の男として、海外に行った同年代のアーティストたちとキャリアを比べてしまうのは仕方ないですね。キャリアでは勝てるはずがないですから......。そこら辺はわりきって自分のこれからの方向性だけに注視していきたいですね。
ーー職業「森田悠揮」みたいなものですからね。
森田:理想はそうなのですが、まだ全然それとは程遠いです、がんばらないといけません。
ーーとはいえ、社会からの承認欲求もほしいわけで。そのバランスというのは、あらゆる表現者が共通して抱いているものでしょうね。人間ですから。
森田:そうなんでしょうね。そのバランスは永遠の課題なんじゃないでしょうか。
ーーその中でも、孤立を恐れないで突き進んでいる。21世紀的な感じがします。
森田:たしかに、自ら進んで孤立に突き進んでいるところはありますね。ただそういう人は今の時代たくさんいると思います。
ーーそういう人でも生きていける時代になったと言えると思います。語弊を承知で、昭和(20世紀)だと難しい面が多々あったのではないかと。
森田:タイミングが良かったとは思いますよ。インターネットが浸透し、3DCGをはじめとするツールも個人で手に入れやすくなった。そして良い作品をつくったら、誰かが観てくれてSNSで拡散してくれるというのは、今でこそ当たり前ですが、とてもありがたい環境ですよね。
ーーそうした"今の時代"において、当面の目標はございますか?
森田:そうですね。良い出来のものをつくることは最低条件で、クリーチャーや生物、自然とったジャンルをもっと深く、多方面から極めたいです。そしてそれが良いかたちで広がっていければ......。そうした意味では、連載をまとめた書籍「Mystical Beasts〜」を出版できたことは、すごくありがたいです。
ーー次の著書に対する願望はありますか?
森田:出版物であれば、純粋な画集を出したいですね。どこか良い出版社はありませんか(笑)?
ーー(CGWORLD/沼倉)森田さんにも機会あるごとにお話しさせていただいてますが、ぜひ"CGWORLDを成層圏を離脱するための第1エンジンとして踏み台に"していただければ!
森田:ツールや作品のフォーマットに依存することなく、自分独自のテーマにおける表現の可能性をどんどん広げていきたいです。
ーー作品制作を通して、自分なりの生き方を追求して、確立できれば良いということですね。
森田:先ほども話しましたが、VFX業界って、語弊を承知で日本よりも海外が上で、その中でもハリウッドが最上級みたいなところがあるじゃないですか? ですが、僕としてはそうしたVFX業界のメインストリームにどっぷり漬かってしまうことに不安を感じるのです。もっと自由でいたいというか。
ーー森田さんのまわりには、そうした既成概念にとらわれない新しいフィールドで活動されているデジタルアーティストはいらっしゃいますか?
森田:たくさんいると思いますよ。僕が知っているだけでも、サイアメントの瀬尾(拡史)さんとか、MORIEの森江(康太)さんとか、TELYUKAさんもメインストリームとは異なる面に向かっている気がします。いわゆる専門的なデジタルアーティストとしても活躍されつつ、どこかイノベーティブな精神が芯にあるというか。"アニゴジ"(※『GODZILLA 怪獣惑星』)みたいな、日本独自のアニメCGもすごいですよね。
ーーますます楽しみですね。
森田:3DCGが表現のツールとして、どんどん身近になってきた。裏を返せば、ライバルも増えるということですけどね。
ーー飛び抜けた才能が1人だけでは異端児あつかいされただけで終わってしまうかもしれない。ですが、○○世代などと表されるように同時期に複数のアーティストが同時多発で従来とは一線を画した活動を実践することがブレイクスルーにつながるのだと改めて思いました。
森田:そうした世代を代表するアーティストに名を連ねられているのであれば嬉しいですね。もちろん、そこにあぐらをかくのではなく、30歳、40歳になったときに自分としても納得できるかたちで成長し続けたいと思います。
『Patterns』(2017)
ーーここまで率直に語られたの初めてじゃありませんか? このインタビュー記事に対する反響が楽しみです。
森田:キャリアで悩んでいることに共感してくれる人は、けっこういるんじゃないでしょうか? 特に同年代だと。デジタルアーティストという職業にはもっといろんな"生き方"があるはず、ということに共感していただけたら嬉しいです。