>   >  デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)
デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)

デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)

<2>専門学校で3DCGを学んで"スイッチ"が入った

ーー大学は楽しかったですか?

森田:めっちゃ、楽しかったです。立教大学の映像心理学部は心理学と言っておきながら、かなり哲学的な要素が強いものでした。どうやったら現実にその知識を当てはめれば良いんだよという授業ばかりで......。自分としては面白かったですけどね。

ーー在学中にCGを勉強しようと思ったきっかけは?

森田:文系の大学生って暇じゃないですか(笑)? 自分は特に、フワっと入って、フワっと過ごしている大学生だったので。1年生のときは普通に授業に出て、バンドをやっていました。オリジナルバンドも学外でやっていましたが、それを職業にしようとはまったく考えてなくて。CGをやると決めてからはすぐに辞めてしまいました。

ーーよく見聞きするケースは、大学を卒業して、社会人になってから夢をあきらめきれなかったというものですが、Wスクールはいかがでしたか?

森田:デジタルハリウッドの土曜日コースに通ったんです。土曜日だけ、1年間通うというもので、社会人の方が多かったですね。

ーー土曜日だけデジハリに行って、あとは部屋で引きこもって課題をやっていた?

森田:課題はほとんどなくて、正直ほぼ独学でした。授業もCGがどのように出来上がるのか、体系的にMayaの基礎を学ぶのにはとても良かったのですが、ZBrushは扱いませんでしたし、学んだことを作品に反映させるには、自分の力でやらないといけなくて。ひたすら家でYouTubeやチュートリアルの動画を見ながら勉強しました。こらへんはどの専門学校に行っても同じだとは思いますけど。

ーー森田さんには合っていたわけですね。自分の中に表現したいものが明確にないと、自主制作は腰が重くなるので。

森田:そういう人は向いてないと思います。

ーーCGのどういったところが面白かったのですか?

森田:もともと内向的な性格で、人とあまり係わりたくなくて。ひとりで完結できて、ゼロから最後までつくれる、PCさえあればつくれるんだと思って。そこが僕にとっては、めちゃめちゃ魅力的でした。あとは表現したいものがあったのが大きいですね。一生遊べるおもちゃを手に入れたぞー、みたいな。

ーープログラマーにも、そういった方がいらっしゃいますね。プログラムって、自分の書いたコード以上のことはできないじゃないですか。間違えたら絶対に動かない。逆に言えば、絶対に裏切らない。何かコードを書いたら、すぐに結果が返ってくるという、反応の早さも特徴的です。

森田:まさに、そんな感じですね。仕組みさえわかって、ちゃんと入力すればすごいものができるという。もともと手描きのアートを必死にやっていたわけでもなく、体系的に勉強してきたわけでもないので。入口として、自分には入りやすかったです。

デジタルアーティスト、デザイナーとして、ひたむきに"オンリーワン"を追求する。(森田悠揮)

ーー当時のモチーフはどんなものでしたか?

森田:デジハリに通っていたときは作業自体が楽しかったんですよ。初心者だったので、できるということ自体が楽しくて。どんな作業でも好きでした。

ーーレンダリングできちゃったよ的な。

森田:そうそう。ひたすら技術をモノにしていく感覚が楽しくて。そういう時期が都合、2年くらい続きました。それがだんだん減ってきて、なんか足りないなと思って、本当に自分がつくりたいモノってなんだろうと、原点に戻るときがあるじゃないですか。そういう波は今後もあると思います。

ーー確かに。仕事でも趣味でも、そうしたくり返しがありますね。

森田:何年周期か個人差もあるのでしょうけどね。

ーーCGについては、物理学や数学的な理論も必要だと言われますよね。そうした原理がわかってないと、パラメータをいじったときに、何が問題で意図した画にならないのかわからなくて、苦労すると聞きますが......。手描きの絵だと自分で陰影を描かけば済んでしまう場合でも、CGだとそういうわけにはいかない的な。

森田:うーん、レンダリング式の研究みたいな数学的に難しいことをしていたわけでもないので、特にそうした苦労は感じませんでしたね。むしろ「このパラメータをこうすれば、こうなる」というところから入ったので。それが当たり前になっているので、むしろ絵を描く方が難しいですよ。CGだと、このテクスチャをこのスロットに貼って、このパラメータをこういじれば、こうなるじゃんと、順を追っていけるので。

ーー子どもの頃にPhotoshopにふれていたことも大きかったですか?

森田:ふれていたとは言え、年に数回遊びで描く程度でしたよ。むしろ、Photoshopとか、そういったデジタルツールに対する抵抗感がなかった、ということの方が大きかったですね。

ーー現在はZBrushなど、デジタルスカルプトが主体のモデル制作や静止画を中心に活動されていますが、専門学校に通っていた頃からこうした道を考えていたのでしょうか?

森田:いいえ、全然。デジハリ時代は動画制作が中心でした。僕の卒業制作も『The Point』という動画の作品です。ひとりで完結できるのが楽しくて。その時は造形を専門にやろうとかは思ってなかったです。Mayaがメインツールで、ZBrushは機能は知っているけど、本格的な作品を作ったことはありませんでした。

thePoint from yuukimorita on Vimeo.

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『The Point』(2012)

ーー当時の生活スタイルはどんな感じでしたか?

森田:デジハリに通っていた頃は、睡眠時間は少なめでしたね。ずっとPCに向かっていました。デジハリは夜間など空き時間は教室が開放されているので、朝まで自習できるんです。文字通りデジハリに泊まって、ずっとCGをやっていました。純粋に楽しかったんです。将来設計なども考えず、ただ目の前にある技術をひたすら自分のものにしていく感覚が新鮮でした。受験勉強とちょっと似ている感じもあって。

ーーやればやるだけ習得できるという。

森田:そうそう。やればできて、できるようになると、もっと楽しくなって。良いスパイラルが出来上がってました。

ーーまさに"スイッチ"ですね。

森田:スイッチって、ある程度のところまでいくと、誰でも入るんですよ。そこまでテンポよく行けるかだと思います。



<3>自分のルーツをさぐる

森田:デジハリに入学して半年ほど経った頃に動画課題が出されたのですが、全工程をひとりでやってみて、のめり込めるものがわかってきました。まずは画づくりが好きなんだなと。最終的な画の雰囲気を見出す作業が性に合っていました。それと同時にモデリングも当時からのめりこんでいましたね。ちまちまとオブジェクトを積み上げて、ひとつの画が出来上がっていくことが、気持ちよかったですね。

ーージグソーパズルを作り上げていくような。

森田:そうですね。背景モデリングとかって、1つ1つのパーツをチマチマと作って、気づいたらすごいものが組み上がっているという感覚があるじゃないですか。当時はその感覚がしっくりきて。背景をつくるのが好きでした。それと、最終的な画づくり。コンポジットやグレーディングといった作業が本当に好きでした。逆にアニメーションなどは必要最低限しかやっていませんでした。

ーー最後のちょっとした処理で、画の雰囲気ってガラッと変わるときがありますよね。

森田:そうそう。画づくりと造形が好きだなというのが、このときにわかりました。

ーー造形でも、キャラクターと背景などを構成する静物では、後者のモデリングの方が好きだったのですか?

森田:正直深くは考えていませんでした。単純に初めてのちゃんとした作品がエンバイロンメントで、その延長で風景づくりにのめり込んでいった感じだったと思います。キャラクターも時々つくっていましたけど。

ーー風景をつくるのが好きという人は世界観がつくりやすいからだとも言われますよね。ターンテーブルのキャラクターだけで世界観を描くというのは、けっこう大変じゃないですか。

森田:そうですね。あとは単純に造形力やデッサン力がなかったんですよ。いきなりMayaやZBrushを与えられても良いキャラクターをつくれるわけもなく。

ーーいわゆるデッサンなど、基礎的な美術の勉強は?

森田:したことがありません。小さい頃、お婆ちゃんと一緒に絵を描いたこと以外、まったくないです。でも今の時代、僕みたいにデジタルから入る人も多いんですよね、アナログとかデジタルとかもはや関係ないですよ。入口はどっちでもかまわない。

ーー楽器が演奏できなくても、DTMですごい楽曲がつくれる、などと同じ感じでしょうか?

森田:何を表現したいのか、その表現の良し悪しが自分の中でわかっているということですね。

ーーとは言え、何も勉強していないと、それすらボンヤリしてしまいませんか? そこを言葉で伝えられるようにするためには、いろいろと学ぶべきこともあるのかなと。

森田:たしかに。

ーーそれが漠然とでも身についていたのがすごいですね。でなければ、魅力的な作品はつくれませんよ。

森田:そこはやっぱり家庭環境のおかげなんでしょうね。幼少期からいろんな場所に連れて行ってもらいました。博物館に行って、化石を買ってくれたりとか。隕石とか化石が、すごく好きだったんですよ。めっちゃ高いのに買ってくれて。ピンポン球くらいの隕石が2万円くらいしたのに。

ーー自分が親だったら「そんな石じゃなく、別のおもちゃにしなさい!」とか言ってしまいそうです(笑)。

森田:そうなんですよ。そんな母親って、なかなかいませんよね。ガチの隕石でしたから。

ーー博物館に行くことが多かったのですか?

森田:展覧会とか科学館などにもよく連れて行ってもらいました。石(鉱物)については専門店があるんですよ。宝石とか隕石とか化石とかを売っているお店が。

ーー絵画作品を買ってもらうことはありましたか?

森田:自分が描く以外は全然興味なかったですね。自然とか動物が好きで、それが今にもつながっているのでしょうね。

ーーインドア派だけど自然が好き。

森田:自然という概念が好きなんですよね。公理系っていうのかな、そういう世界の仕組みや姿形に小さい頃から惹かれてました。

ーー図鑑を眺めているのが好きだという、男の子は多いですよね。本は読まないけど、絵だけ見ているみたいな。そこから妄想を膨らませて。そういえば『ポケモン』も図鑑を完成させるゲームですよね。

森田:よく男は意味じゃなくて形と感覚にこだわるって言いますしね。『ポケモン』こそ、まさに生物とエンターテインメントを絶妙に融合させたゲームじゃないですか。ポケモンのデザイン自体も現実の生き物をベースにつくられていて、自分の作風とはテイストはちがいますけどすごく参考になりますよ。

ーー『ポケモン』の生みの親として知られる田尻 智さん(ゲームフリーク代表取締役)も以前、同様のことを言われていましたね。『ポケモン』は昆虫採集の文化がない国や地域、例えば中東などでも人気なんです。自分は昆虫採集の経験をベースにポケモンをつくったけど、それとゲームとしての面白さは、また別なんだと。

森田:なるほど。

ーーその一方で、日本ほど昆虫を愛でる文化がある国や地域も、また珍しいかもしれません。

森田:やっぱりシャーマニズムというか、八百万の神々が息づいている文化があるからなんでしょうね。

▶次ページ:
<4>大学3年生で商業デビュー

Profileプロフィール

森田悠揮/Yuuki Morita

森田悠揮/Yuuki Morita

1991年生まれ、名古屋市出身。2014年、立教大学現代心理学部卒業。在学中からフリーランスとしてキャリアをスタートし、卒業後の現在はフリーランスのデジタルアーティスト、キャラクターデザイナー。TV、映画、ゲーム、CM等に登場する生物や怪獣のデザイン、CG制作を中心に活動中。月刊CGWORLDにて「Observant Eye」連載中。

www.itisoneness.com

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