<3>「スタイルがない」ことがドリームワークスのスタイル
Trolls Holiday: First 4 Minutes | TROLLS
――ドリームワークスでの働き方について教えてください。
山本:テクニカルのプログラマーなど、職種によっては家で働く人もいますが、基本的には9時出社で18時までです。ちなみに社食は全部タダです。 オフィスではひとりひとりに大きなキューブ状のスペースが用意されますが、さらにシニアアーティストになると個室になります。僕も個室を使っています。
――お仕事内容はご自身の裁量にまかせられている感じですか?
山本:結構まかせてもらっているとは思います。1日のながれとして、朝にマネージャーとコーディネーター、チームリーダーと管理の事務の人が回ってきて、その日その週の仕事についての報告と相談をします。デイリーラウンド(以下、デイリー)といって、週に2~3回アートディレクターに出来上がったもののチェックを受けてOKか要修正かを判断されるのですが、その相談だったり、割り当ての仕事が終わっていたら次をもらったりと、ここで細かな作業の調整を行います。ちなみにデイリーといっても、修羅場のときは1日2回になるときもあります(笑)。僕らサーフェシングの部署は映画全体のスケジュールでいえば前半の方が忙しいです。でも日本のように徹夜をするようなことはありません。残業をすると同僚からも嫌がられるので、よほどのことがあってさらに許可をもらわないとできません。メールも夜遅くに出すと怒られます。
――朝はそのやりとりがあって、その後はそれぞれの作業に当たるというかたちですか?
山本:そうですね。デイリーに出たら、そこでの修正点をまとめてみんなで確認し合い、また作業に入ります。その他にも新しいソフトウェアを勉強するクラスが1週間のなかで1日分ぐらいの時間があったり、新入社員をどのように育てるかといった管理のミーティングもあったり、他にもテクニカルなミーティングもあります。そういった運営や技術的なことをシェアすることにもアーティストは時間を費やします。先ほどお話しした「テクスチャリングをする時間は仕事全体の10%くらい」というのはこういったことです。でもそれは会社の方針でスケジュールの中に組み込まれていますし、その時間も給料に含まれています。
メガマインド - 予告編
――山本さんはシニア・サーフェシング・アーティストという肩書きですが、シニアになるとどのような業務が増えるのでしょうか?
山本:メインのキャラクターなど扱うものが難しくなりますね。僕も『メガマインド』(2010)では主人公のメガマインドを担当しました。他にも公開されなかった作品で2つほどリードキャラクターを担当しています。あと、ドリームワークスの場合は社内からステップアップしていって監督になるケースが多いので、同僚でよく知っている仲だと互いのやりたいこともわかっていてやりやすいんです。『トロールズ』のプロダクション・デザイナーは『マダガスカル』シリーズで3作品とも一緒に仕事をしていて、そのうえ彼女はPDIから一緒なので、そういう仲間意識もありますね。あとは将来リーダーになりたいのであれば、社内のWebページでノウハウをシェアしたり、より多くのクラスを担当して次代を育てる責任もあります。さらに、次のソフトウェアの検証やアドバイスをするといった役割も加わります。
――先ほど、オムニバス・ジャパンでの現場へのこだわりをお話されていましたが、ドリームワークスでも現場がお好きですか?
山本:そうですね。現場は大好きなのでこのまま続けていければ良いなと思っていますし、もっともっとリーダーシップを発揮していかなければいけないなとも思います。部署にもよるのですが、アニメーターとライティングは大所帯なので、映画が忙しいときは人が増えて、映画が終わると小さくなったりするんです。それに対してサーフェシングは特殊な技術とノウハウが必要なので割と安定していることもあり、リーダーがたくさんいて上が詰まっているんです(笑)。それは専門性を高めたアメリカ式の分担の結果だとは思うんですけれども。
自分の目標としては、リーダーシップをもって皆さんにノウハウをシェアして、みんなで良いものをつくっていきたい。もっとサーフェシングの腕も磨きたいですし、プログラミングを勉強したり、知識を身に着けなければいけないなと考えています。オムニバス・ジャパンにいた頃は広く浅く、見よう見まねでやっていたのですが、実際にハリウッドに来てテクスチャを15年やると、「何とかやれるもんだな」と感じます。毎日ずっと駆け抜けてきて、1つの部署だけでもこんなに学ぶことがあるんだと、ずっと新鮮な気持ちでいます。
――できることがどんどん広がっていく中で、アーティストとしてこれから表現したいことは何ですか?
山本:正直に言うと、最近は「見たことがないもの」がほとんどなくなってきて、映像だけで楽しませることがすごく難しくなって、頭打ちなところがあります。テクスチャは無限に細かく描くことができて、8K解像度でもリアルタイムで表示できます。ファーもGPUの力で本当に見事なものをリアルタイムで見せることができる。「3DCGだからすごい」という時代はもうとっくに終わっています。ストーリーを面白くすれば良いというのは映画としてのひとつの考え方かもしれませんが、映像でこれ以上面白く見せるにはアーティストの腕とアイデアの勝負になってくるので、そこでまた様々なアイデアを磨きながら遊び心を見せられるようにしていかなければなと思っています。
その意味で、ドリームワークスはディズニーとちがってスタイルがコロコロ変わりますからね。『ヒックとドラゴン』、『シュレック』、『マダガスカル』、『トロールズ』、『ボス・ベイビー』と、「ドリームワークスというスタイルがない」ことがドリームワークスのモットーなんですよ(笑)。リギングの手法も見せ方も作品ごとにちがいますし。だから様々なことを研究してその都度やり方を変えていきます。
DreamWorks Animation - 20th Anniversary Reel(2014
――そういう社風というか、哲学があるんですね。
山本:映像として出てくるものはそれぞれですが、スタッフのカルチャーというのはずっと受け継がれているんです。1,500人とハリウッドでは小規模ですが、社員のカルチャーは強烈なものがありますね。「お互いに親切にし合う」とか、「何も隠さないで教え合う」とか。他にもクリスマスやハロウィンのイベントでは仕事よりも本気になってブースを飾り付けしますし(笑)。各部署にバーがあって社内でパーティをやったり、ミーティングによってはスーパーバイザーがビールをもってこないと誰も集まらないとか(笑)。そういうところから様々なヒントが出てくるし、刺激し合ってクリエティビティを高めています。やはり現場が楽しくないと良い映画はつくれないので。