>   >  「重要なのはつくり続けること」ドリームワークスで15年のキャリアをもつ日本人アーティストが語るハリウッド・スタイル
「重要なのはつくり続けること」ドリームワークスで15年のキャリアをもつ日本人アーティストが語るハリウッド・スタイル

「重要なのはつくり続けること」ドリームワークスで15年のキャリアをもつ日本人アーティストが語るハリウッド・スタイル

去る1月16日(火)にCGWORLD +ONE Knowledge 「ハリウッド映画のテクスチャリング講座」に登壇し、MARIを使用した3DCG映画のテクスチャリング手法について講演した山本原太郎氏は、ドリームワークス・アニメーションで15年のキャリアをもつシニア・サーフェシング・アーティストだ。日本のCM制作現場で叩き上げた様々な技術を手にハリウッドへ向かい、テクスチャのスペシャリストとして『メガマインド』(2010)や『ヒックとドラゴン2』(2014)などのメインキャラクターを担当するなど活躍をみせている。そんな山本氏はどのようにしてハリウッドへの切符を掴み、最前線のクリエイター人生を歩むことができたのか。そこには技術や運だけではなく、異文化のなかで社会人として働き続けていくための様々なヒントが含まれている。貴重なドリームワークスの内部の様子とともに耳を傾けてほしい。

INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>ドリームワークス独特の"サーフェシング"チームの役割とは

Character Visual Development : How to train your Dragon 2 , Madagascar , Megamind

――山本さんはドリームワークスで「サーフェサー」という仕事を15年間されているそうですが、どんなお仕事なのかを簡単にご説明いただけますか?

山本原太郎氏(以下、山本)「サーフェサー(Surfacer)」はドリームワークス独特の呼び方で、一般的にわかりやすく言うとテクスチャですね。3DCGアニメーションの制作ではまず、脚本に基づいてアーティストが想像を膨らませてキャラクターをデザインし、そのあとアート部門がキャラクターシートをつくります。その段階でベースとなる服のデザインが決まり、そのあと我々サーフェシングの部署に回ってきます。サーフェサーの仕事はテクスチャリングだけでなく、ファーグルーミングと呼ばれる毛並みの設定をしたり、他にもシェーダのセットアップといったものがあります。

  • 山本原太郎/Gentaro Yamamoto(DreamWorks Animation / Senior Surfacing Artist)
    慶應義塾大学経済学部卒業後、1997年にオムニバス・ジャパンに入社。2003年よりドリームワークスに転籍。サーフェサーとして『マダガスカル』、『シュレック』、『ヒックとドラゴン』の各シリーズ作品、『メガマインド』などの映画に参加。
    www.dreamworksanimation.com/

山本:映画制作においては前半がこうしたビジュアルの開発で、後半がショットのサポートです。グレースケールの背景とニュートラルなライトアップでOKはもらうのですが、実際のショットの中に入れるとライティングで見え方がちがってきますので、シェーダの調整が必要になります。あとは、カメラがキャラクターに大きくズームインするカットでは、解像度を高めたりショットごとに特殊な加工をしたりするなど微調整の対応をしていきます。

最近は1本の映画に関わる時間が短くなって、『シュレック2』(2004)の頃は2~3年関わっていましたが、今ですと1年から1年半くらいです。テクスチャリングをする時間は仕事全体の10%くらいですね。セットアップや次のシェーダの構築など、テクニカルな部分に費やす時間の方が圧倒的に多いです。例えばレンダリングをしたときに上手くいかなかったらまず我々に矛先が向くので(笑)、その説明のためにいろいろな人のノウハウを網羅しておく必要があります。

――サーフェシングはキャラクターごとに担当されるんですよね?

山本:そうですね。だいたい2~3体を任されます。1人が髪の毛の担当をして後で別の方が服を担当したり、後から服にバリエーションが出てきたら別の方が担当することもたまにありますが、基本的には1人のアーティストが1体を任されます。

――マネージャーはそれぞれの方の得意分野を把握した上で差配するのでしょうか?

山本:はい。マネジメントとリードとアーティストが一緒に話し合う、「タッチベース」という機会が年に何回か設けられて、そこで直接「僕はファーが好きだからもっと勉強したい」とリクエストしたり、向こうも経験を見ながら配分をしていきます。ただ、ソフトウェアもどんどん変わっていくので、その都度で得意な人は変わっていきますし、昔つくったキャラクターに似ている場合にはそれを担当した人にまかせたりもします。もちろん社内ではノウハウを共有したり、講義が開かれたりもします。

――「ファーシステム」では実際どのようにファーをつくられていくのでしょうか?

山本:一言でファーといってもいろいろあります。僕が『ヒックとドラゴン2』で担当したなかでも、ドレッドや産毛、眉など様々なタイプがあります。女の子の三つ編みもつくりましたね。作業としてはまず大まかにシェイプをつくってモデリングをして、OKをもらってから、シルエットをつくります。それに合うようにファーを作成し、そのモデルをサーフェシングの方にもってきてカーブを抽出して、それを我々の独自ソフトに入力することで、それに基づいたファーが生えるというかたちです。これが基本で、そのあとアートディレクションに基づいて細かな表現を調整していきます。ここが時間と技術を最も費やすところです。

ヒックとドラゴン2 日本語吹替版トレイラー

――つくる上で難しいタイプのものとしてはどんなものがありますか?

山本:この世に存在するものも、しないものもそれぞれに難しさがあります。一例を挙げると、人の手の表現は難しいです。それは皆さんが普段から見慣れていて、おかしい部分があるとすぐ生理的な違和感を覚えるからです。『トロールズ』(2016)や『ボス・ベイビー』(2017)といったキャラクターのスキンは「シンプルに」というディレクションでしたが、これが難しい。シンプルというのは何もしないということではありません。いろんなレイヤーやエレメントを加えつつ、なおかつ全体がしわくちゃにならないようにして、それでいてシンプルに綺麗につくる必要があります。「リアルに」というのであれば、どんどん汚しを入れていくことでリアルに近づくのですが、「シンプルに」というオーダーはやれることが少ない分、難しいですね。細かいスキンの凹凸や、肌色の中に微妙に色を入れてちょっとほっぺに赤みを入れたりと、見えるか見えないギリギリのラインで調整していきます。それが我々の腕の見せどころでもあります。

『ボス・ベイビー』日本語版予告編

――光学的な知識も要求されるのでしょうか?

山本:そうですね。特に最近はフィジカルベースのレンダラが増えてきていますので、シェーダの方も物理法則に基づいた描き方をしてきます。例えば透明なクラゲを泳がせる際に屈折率を何となくゼロに振ると、シェーダ開発者は「そんなことはありえない」と言います(笑)。フィジカルベースでリアルなものをつくるときはそれで良いのですが、必ずしも現実の世界に基づいたものばかりではなく、ビジュアル的に美しいものをつくらなくてはいけない。そのために我々はスペキュラを調整するのですが、シェーダライターとしては本当はそうしてほしくない。そこは調整しながら協力してその難しさを乗り越えています。

――この世に存在しないようなものの場合はいかがでしょうか?

山本:それはアートディレクション優先のものということですね? 良い例が『トロールズ』です。この作品はキャラクターから環境から全てフェルトのファーで表現されていて、カーペットのようになっているんです。監督の頭の中にあるふわふわ感を表現するのには苦労しました。こういった、監督やアートディレクターの頭の中にだけあって言葉にできないようなものをつくるときは、CM制作をしていたときのテクニックが役立ちます。例えば「赤いもの」と言ってきたときは、普通の赤、明るい赤、暗い赤の3パターンを出すと、だいたい真ん中を選ぶんです(笑)。こうした類のものでOKをもらったときの喜びはひとしおです。

『トロールズ』2017.7.12先行デジタル配信/2017.8.2ブルーレイ&DVDリリース

――アーティストとして普段から気にしていることは何かありますか?

山本:旅行に行くと写真をよく撮るのですが、風景よりも地面や石、藻や苔に意識が向いてしまいますね(笑)。素材探しを常に行なっているので。これは映像に関わるどんなアーティストでもそれぞれの分野で同じようなことをやっていると思います。世の中を映像フィルタでつい見てしまって、現実の風景に向かって「こんなライティングはOK出ないよ!」と思ったりすることもあります(笑)。


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<2>念願のハリウッド3DCG業界へ就職するも、初日で帰国!?

Profileプロフィール

山本原太郎/Gentaro Yamamoto(DreamWorks Animation)

山本原太郎/Gentaro Yamamoto(DreamWorks Animation)

慶應義塾大学経済学部卒業後、1997年にオムニバス・ジャパンに入社。2003年よりドリームワークスに転籍。サーフェサーとして『マダガスカル』、『シュレック』、『ヒックとドラゴン』の各シリーズ作品、『メガマインド』などの映画に参加。 www.dreamworksanimation.com/

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