>   >  「重要なのはつくり続けること」ドリームワークスで15年のキャリアをもつ日本人アーティストが語るハリウッド・スタイル
「重要なのはつくり続けること」ドリームワークスで15年のキャリアをもつ日本人アーティストが語るハリウッド・スタイル

「重要なのはつくり続けること」ドリームワークスで15年のキャリアをもつ日本人アーティストが語るハリウッド・スタイル

<4>学生のうちに社会人英語の勉強とポートフォリオの更新を

――これから3DCG業界を目指す若者や、海外に飛び出そうとしている方に向けてのアドバイスをいただけますか?

山本:まず英語力は必須ですね。それも社会人としての英語です。僕は2歳からアメリカで生活していたので発音は心配なかったのですが、高校生のときに日本に帰って来て、そのまま日本の大学を卒業し就職していたのでボキャブラリーが子どものレベルのままだったんです。専門用語はもちろんですが、社会人としての言葉遣いや仕事上の駆け引きに使う言葉は、英語においても学生のそれとはまったくちがいますので、ゼロから勉強することになりました。そういう準備も学生のうちにしておいた方が良いですね。腕に覚えがあるのに英語力で落とされてしまったことを、自分の技術や努力が足らなかったせいだと思ってしまってはもったいないので。そのためにはYouTubeでも何でも活用して、英語に対する理解力をもっておいた方が良いと思います。


あとはつくり続けることです。3DCG制作は途方もない作業ですし、テクニカルな部分や美術的な部分が重要で、心が折れることもあるかもしれませんが、やはり作品をつくらなくては始まらない。よくクリエイターにありがちなのは、ポートフォリオをつくろうとしても期限を設けないから延び延びになり、いつまで経っても作品がストックできないということです。確かに自分だけでリミットを決めるのは難しいことです。僕の場合は幸いなことにCMの仕事をしていましたので、1週間単位とか1日単位でつくり上げることに追われていました。CMは15秒のなかに様々な要素が込められていて、それを自分のデモリールに詰め込むことで様々なことができるのアピールすることができました。同じ1年間の仕事を並べても映画づくりであれば画のトーンが統一されてしまうので、その点に関してもCMで良かったと思います。それにどんどん次の作品に向かうことで腕が上がっていくことも自覚できましたので、場数を踏んで作品数をできる限り増やすということは重要だと思います。

そうやって将来を見据えた計画をして、いざ向こうから声がかかったときにデモリールをいつでも出せるように、チャンスが訪れたときにそれを迎える準備ができている必要があるということです。僕も1年とか半年に一度デモリールを更新して、作品や技術の説明はいつでもできるようにしていました。アメリカの場合、認めてもらうには何か自分から言わなくてはいけないんです。日本だと、黙ってつくることが美徳とされたり、それを見て引っ張り上げてくれる人もいます。ですが、アメリカでは何も言わないでいるとクビです。アメリカにも見てくれて引っ張ってくれる人はいますが、技術のことがわからないマネージャーが査定に加わりますので、その人に向けて説明する必要があります。そのとき「僕はこういう技術を使って、こういう問題を乗り越えて結果を出すことができました」と歯の浮くようなことをいっぱい言わなくてはいけない(笑)。何も言わないと向こうも書くことがなくて、説明上手の人と比べられ、結果的に評価されない。この点は僕が向こうで痛い目に遭ってわかったことです。

――山本さんはどのようにしてそれを乗り越えたのでしょうか?

山本:僕の場合は、何が足りないかを積極的に上に聞くようにしていました。その時点でこの人は自分を改善しようとしているのだなと評価されるんです。「言われた以上のことをするために、自分は何をしたら良いでしょうか?」と、様々な上司に相談しました。プラスアルファの結果を出そうとしていることは、すごく評価につながります。例えば、アートディレクターに「今度のデイリーでこれを見せようと思っています。これをこう説明しようと思います」などと、あらかじめ言っておく。すると、「だったら、ここはこう説明すると良いよ」と教えてくれて、それはクラスを受け持って人前で話すときの勉強にもなります。あとは人の真似ですね。上手く話す人の言い回しとか、先ほどの社会人英会話の勉強です。

最後にひとつテクニックをお伝えします。何か自分がわからないことについて質問されたときには「That's a good question. Let's talk about it.(良い質問だね。それをみんなで考えよう)」と言い、そして「君はどう思う?」と別の人に振るんです。こうすることで会議がネガティブな空気にならず、嘘をつかずに自分が知らないということを隠せるという(笑)。こういった小手先の技も意外と効くので、そこも含めた英会話力を身に着けていくと良いと思います。


Profileプロフィール

山本原太郎/Gentaro Yamamoto(DreamWorks Animation)

山本原太郎/Gentaro Yamamoto(DreamWorks Animation)

慶應義塾大学経済学部卒業後、1997年にオムニバス・ジャパンに入社。2003年よりドリームワークスに転籍。サーフェサーとして『マダガスカル』、『シュレック』、『ヒックとドラゴン』の各シリーズ作品、『メガマインド』などの映画に参加。 www.dreamworksanimation.com/

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