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ILMシンガポールのスーパーバイザーが語る『スター・ウォーズ』&『キング・コング』近作の制作秘話とシンガポールのCG事情

ILMシンガポールのスーパーバイザーが語る『スター・ウォーズ』&『キング・コング』近作の制作秘話とシンガポールのCG事情

<2>数千万本の毛を1本ずつ手で生やしたキングコングの制作

1933年の第1作『キング・コング』から数えて8作目となる映画『キングコング: 髑髏島の巨神』(2017)。2005年に制作されたリメイク版『キング・コング』ではピーター・ジャクソン監督の下Weta DigitalがVFXを全面的に担当したが、本作のVFXにはILMの他、MPC等が参加している。ILMシンガポールでは合計207ショットを担当し、最大70人のアーティストが制作に参加した。主にコングの発見シーン、ヘリコプターによる襲撃シーン、コングの敵役であるクリーチャー、スカル・クローラーが人々を襲うシーン、という3つのシーケンスを担当したという。

映画『キングコング:髑髏島の巨神』特別映像(Kong is King)【HD】2017年3月25日公開


TOPIC 1.コングのデザイン

本作のコングのデザインは監督とともにサンフランシスコのILMで進められた。「最初は1933年版のコングを忠実に再現しようとしていました。しかし早い段階で、コングのサイズが1933年版の4倍ほど大きい設定になることが決定しました。デザインもゴリラのようなイメージから段々遠ざかって類人猿に近いものになり、さらに眉、顎、唇などは人間に近づいていきました」。

巨大感とともに、近距離で見てもリアリティをもたせるために、コングの体毛の表現は非常に複雑なものになったようだ。「全身で1,900万本もの毛が生えています。これは2人がかりで1年近くかけ、1本1本手で植えたものです」とファム氏はふり返る。ベースのモデル制作はサンフランシスコのILMが担当したが、各シーンに合わせ、汚れたもの、泥まみれのものなど、数々のバリエーションはシンガポールで制作した。また一部のスーパー・クローズアップ・ショットのために、顔の一部の皮膚や目のテクスチャは極めて精細につくられている。

Behind the Magic: Creating Kong


TOPIC 2.超広角高解像度撮影

ILMシンガポールが担当したあるシーンに、長回しの1ショットでカメラが様々に向きを変え、その中に映る兵士が実写の素材からCGIに変わり、また実写に戻るという複雑なものがあった。このショットの背景に使用された実写素材はベトナムで空撮されたものである。撮影にはTeam5社の開発したHydraというカメラリグが使われた。

このリグは6K解像度のREDカメラを6台並べたもので、ジャイロでスタビライズしながら撮影することができ、GPS情報も同時に記録される。この6台で撮影した素材を繋ぎ合わせることにより、36,000ピクセル、150度の超広角映像を得ることが可能なのだ。「撮影チームはこのHydraを積んだヘリをベトナムの森林の上に飛ばして何時間分もの素材を撮影し、あとで監督がイメージに合った部分を自由に選べるようにしました。最終的に本編ではその中から30秒ほどしか使われなかったのですが(笑)。それでも様々なショットのデジタル背景用のリファレンスとして大変有効に使えましたし、YouTubeでのプロモーション用に制作した360度VRムービーの背景にも使われています」。

映画『キングコング:髑髏島の巨神』VR映像【HD】2017年3月25日公開


この他にILMシンガポールでは「スカル・クローラー」というクリーチャーの登場シーンを担当した。「監督はこのクリーチャーの背びれ部分を半透明な皮膚の中に骨が透き通って見えるようにしたかったのです。監督は大変なゲームファンで、何とこのクリーチャーのデザインは『ポケットモンスター』シリーズに登場する"カラカラ"にインスパイアされているのです。その他、「バンブー・スパイダー」という、森林に出てくる巨大なクモの制作も担当しました。バンブー・スパイダーはアセット制作までシンガポールで行い、シーン制作はバンクーバーで行なっています。また飛行タイプのクリーチャーは仕上げまでシンガポールで担当しました。このデザインも『メトロイド』(1986)という古いゲームのキャラクターにインスパイアされているんですよ」。

Behind the Magic: The Visual Effects of Kong: Skull Island/1:50以降にスカル・クローラーとのバトルシーンがある


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<3>ILM4拠点の連携体制とシンガポールのCG教育事情

Profileプロフィール

フィル・ヴェト・ファム/Phil Viet Pham(Industrial Light & Magic Singapore / CGTech Supervisor)

フィル・ヴェト・ファム/Phil Viet Pham(Industrial Light & Magic Singapore / CGTech Supervisor)

業界歴15年以上、ILMシンガポールに勤務し10年を迎える。映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011)で3D映像スーパーバイザー、『アベンジャーズ』(2012)でシニアコンポジター、『グレートウォール』(2016)でCGスーパーバイザーを経て現職。CGテクノロジースーパーバイザーとしての専門領域はコンポジティング。ILMのサンフランシスコ本社、バンクーバー、ロンドンの支社と連携し、作業効率の最大化と、クライアントが求める高度なVFX映像の実現に取り組んでいる

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