>   >  「自分が楽しくないと意味がない」人脈とフットワークの軽さが培ったBarehand Modeling Studio・一瀬 隼の背景制作スキル
「自分が楽しくないと意味がない」人脈とフットワークの軽さが培ったBarehand Modeling Studio・一瀬 隼の背景制作スキル

「自分が楽しくないと意味がない」人脈とフットワークの軽さが培ったBarehand Modeling Studio・一瀬 隼の背景制作スキル

<2>背景づくりのコツは、カメラと画角を意識すること

CGW:チュートリアル動画を公開されるとのことで、実際の作業について少しお伺いしたいと思います。長年背景モデリングをやっていらっしゃいますが、最も大切にしている要素は何でしょうか。

一瀬:やはりシルエットでしょうか。ブラッシュアップは誰でもある程度はできるようになりますが、画的に格好良くオブジェクトを配置するという最初のレイアウト作業は、かなり経験が問われます。私もすごく慎重に作業する部分です。あとはカメラですね。コンセプトアートの絵から画角を割り出すとき、大体こういう風景でこれくらいのパースだったらこれくらいの画角かな、というのをパッと判断できると良いと思います。


CGW:コンセプトアートからの画角の割り出し、というのはどのようにやっていらっしゃるのでしょうか。

一瀬:割り出すという言葉は少し正確ではなくて、数値として感覚的に掴むような印象でしょうか。基本的に50mmを基準に作業をするのですが、それが35mmなのか20mmなのか、70mmなのか。とにかく画角を最初にキッチリと決めるのが大切なんです。なぜかと言うと、背景の場合はつくる範囲が広いじゃないですか。最初にコンセプトアートからカメラの意図を汲み取って空間の広さをきっちり決めておかないと、これを後から修正するのは困難なので、工数が大幅に変わってくるんです。

CGW:確かに、背景のように広い空間をつくる場合、最初から全体像を把握して作業範囲を規定しておくことは重要だと思います。カメラの画角は経験則で決められるのでしょうか。

一瀬:そうですね。例えば下から戦艦を見上げるカットならば望遠を使いたいんじゃないかとか、室内なら広角とか、レイアウト作業をしない人だと意識していない部分も多いかも知れませんが、状況に応じて必要な画角が存在するんです。


「mech star」。仕事で作成したモデルをアレンジした作品

CGW:他に制作時に心がけていることはありますか?

一瀬:マインド的なところで言うと、「自分が楽しくないと意味がない」というのが信条です。CGについては、専門学校に通っていたころは自分が一番できると思っていたんです。でも、仕事を始めるとまったくそんなことはなくて。同期にもすごい人はいるし、SNSでもすごい人の存在が見えてしまう。正直、会社に入ってから1年ほどはCGをやめたいと思っていました。

CGW:着実にキャリアを積んでいるように見えても、実際は悩みながらだったと。

一瀬:はい。でも、ある日「気にしても仕方ないな」と思い直して。まずは自分でできることを着実にやろうと思って、少しずつ努力を始めました。そうすると次第にフリーでも依頼してくれる方が見つかったりして。あとは私がバンクーバーに行ったのも、「行ったら楽しそうだと思った」というシンプルな理由だったんですね。

CGW:渡航しようと決めた日にチケットを購入された、というお話もありましたね。

一瀬:はい、基本的に海外に行く人は意識が高いというか、別にCG関係者だけではなく皆さんそうですが、そういうイメージがあるじゃないですか。「絶対に海外で仕事を見つけるんだ」とか、「ハリウッド映画に携わるまでは帰らない」といったような自分の定めた目標に苦しめられている人が多くいました。私の場合は海外で一番意識が低かったというか、今回の渡航で仕事が見つからなくても楽しければ良いだろうくらいに考えていて。これからの世代のアーティストに一言申し上げるのであれば、「誰かと比べたり、自分の枷で自分を苦しめるのではなく、楽な気持ちでやった方が良い」という感じでしょうか。もちろん、そこにはきちんと責任をもって。


CGW:ありがとうございました。最後に、これから公開される動画チュートリアルの内容について教えてください。

一瀬「背景モデリングTips&Technique」というタイトルで、1回15分程度、全9回のチュートリアルです。ひとつの要素を深掘りするというよりは、私の実作業の全体的なながれを紹介するかたちです。2012年に私が3DTotalに投稿した作品のデータを基に作業をしていきます。テーマとしては「Mayaだけでできる3DCG制作」といった感じで、例えば当時のレンダラはmental rayでしたが今回はArnoldを使っていたり、他にもペイントエフェクトなどMayaの標準機能だけを使って解説しています。学生さんでも、Mayaを触れる環境にあれば、すぐに実践できると思います。

今回のチュートリアルの題材となる一瀬氏の作品

CGW:最後に、読者に向けてメッセージがあればお願いします。

一瀬:動画チュートリアルで使用している素材は、発表当時にも「メイキングが見たい」という声があったものでした。当時はそれができませんでしたが、今回の企画でようやく形になりました。当時はなかったArnoldなどの設定にも触れています。基礎的な解説をシンプルにつくっているので、すぐに仕事に活かせる情報もきっとあると思います。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

CGW:ありがとうございました。



背景モデリングTips&Technique
(CGWORLD Online Tutorials)の
詳細・動画はこちら

Profileプロフィール

一瀬 隼/Jun Kazuse

一瀬 隼/Jun Kazuse

兵庫県出身。HAL大阪を卒業後デジタル・フロンティアに入社、背景モデラーとしてのキャリアを始める。その後フリーランスとなり映画・CMなどの様々なジャンルのCGを手がける。2014年にカナダに渡り、Hydraulx VFXにて映画『カリフォルニア・ダウン』(2015)、『X-MEN: アポカリプス』(2016)、『ジオストーム』(2017)などのプロジェクトに参加。帰国後はフリーランスとしてNHK大河ドラマや映画などのCG制作に参加し、2017年株式会社Barehand Modeling Studioを設立。現在は国内の様々なプロジェクトの背景CG制作に携わる
www.barehandms.com

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