>   >  『ストリートファイターV アーケードエディション』OP・格闘ゲームの爽快感と舞台的な演出を融合させたアニメーション&ルックデヴ
『ストリートファイターV アーケードエディション』OP・格闘ゲームの爽快感と舞台的な演出を融合させたアニメーション&ルックデヴ

『ストリートファイターV アーケードエディション』OP・格闘ゲームの爽快感と舞台的な演出を融合させたアニメーション&ルックデヴ

<2>舞台演出の手法にとことんこだわったルックデヴ

本作は「舞台のような映像」という確固たるコンセプトの下で制作されたことは企画編でも紹介した通りだが、それを具体的にどのようにCGに落とし込んでいったのか。ルックデヴとライティング、コンポジットといった仕上げ部分を担当したビジュアルエフェクトデザイナーの上野大佑氏は次のように語る。「『映像内でも実際の舞台演出とまったく同じ手法を使った表現しか使わない』という方針の下、舞台の上で演技をする役者を撮影するようなシーンが多く、それぞれ1カットの尺が長くてライティングとしてはやりにくく、悩まされました(笑)。背景が舞台ということで、まず世界中の舞台やショーの資料を集めて"舞台っぽさ"の要素を分析し、全体を通してセット自体は少ないけれど、絵を構成する要素の中で大きな役割を担う "床面の反射"、"フォグとスモーク"、"スポットライト"に重点を置いて制作することにしました」(上野氏)。


  • 上野大佑/Daisuke Ueno
    白組 ビジュアルエフェクトデザイナー


Point 1:2タイプの床

床の制作では、リアルな鏡面的質感の床と、細かな汚れ・傷が追加され反射が抑えられた質感の床の2パターンを用意し、Substance Painterを使ってシームレスな傷・汚れを作成することでタイリングに対応した。

質感の異なる2種類の床が場面ごとに使い分けられた。左:鏡面タイプの床。細かな傷・汚れはありつつも、大きな歪みが単調にさせないリアルな鏡面的質感の床/右:拡散タイプの床。地面に細かな汚れ・傷が追加され、反射が抑えられた質感


Substance Painter 2の作業画面。シームレスな傷・汚れを作成することでタイリングに対応。Substance Painterで質感をある程度詰めたテクスチャを出力し、最終的に3ds Maxで細かな調整を行なっている

Point 2:フォグ(霧)とスモーク(煙)

舞台演出らしさを出すための要素として、フォグ/スモークの表現は非常に重要だったという。実際の舞台でフォグを焚くようにシーンの3DCG空間全体にもVRayEnVironmentFogでフォグを充満させ、そこにライトを照らしてフォグを見せる手法を採用。「ライトで照らされて浮かび上がった部分のみにフォグを生成できるプラグインもありますが、2D的になってしまうため極力使用しませんでした。1カットでカメラが空間を前後に移動するカットが多く3D的なフォグが必要だったことと、床が映り込みのある鏡面的なものだったことがその理由です」と上野氏。さらに「フォグ」は「シーン全体に漂う薄くきめの細かい霧」、「スモーク」は「ディテールと動きのある煙」、といったようにそれぞれの定義を明確にして、スタッフ間で齟齬が生じないよう認識を統一させた上で使い分けがされている。

左:本作におけるシーン内のフォグの状態をわかりやすく示したもの。シーン内には、キャラクター、地面、カメラ、ライト、フォグの発生範囲を指定する長方形のボックスがある。フォグはこのボックス内に充満している/右:シーン全体に充満したフォグ+ライトなし

左:シーン全体に充満したフォグ+ライト1灯/右:シーン全体に充満したフォグ+ライト3灯。ライトなしの真っ暗な状態から、ライトを増やしていくと徐々にフォグが見えてくるのがわかる

左:ライトなしのときのアルファ、右:ライトありのときのアルファの比較。見てわかるように、空間に充満しているフォグは変化していない。ちがいはライトで照らされているか、いないかのみ。「FumeFX等のエフェクトプラグインでフォグを作成することも検討しましたが、広範囲のフォグ生成に計算時間がかかり、フォグの密度やノイズ感変更などのトライ&エラーを考え、工数的に断念しました」(上野氏)

Point 3:スポットライト

照明が演出と密接に関わる本作では、ライティングにはVRayLightが使用されたが、VRayEnviromentFogと併用することで2つの大きな問題に悩まされたという。「ひとつは場面の環境によってレンダリングコストが高くなる問題。もうひとつはパカつき(フリッカー)が出てしまうバグで、V-Rayの開発元に問い合わせても解決法がわかりませんでした。こういったVRayLightが使えない場合には、3ds Maxの標準ライトで対応しました」(上野氏)。場面に合わせてどちらのライトを使用するかを選択しながら進めていき、標準ライトでもVRayLightに劣らない見映えを実現させるため、標準ライトを2灯重ねてスポットライトの芯をつくるという方法で解決した。

・スポットライトに芯をつくるための工夫


VRayLight1灯でフォグを照らしたスポットライト。中心に芯のように明るい部分ができているのがわかる

左:標準ライト1灯でフォグを照らした場合。VRayLight使用時のような芯がみられない/右:標準ライトを2灯重ねて照らした場合。VRayLight使用時と同様の芯ができており、現実のスポットライトの見た目に近付いた

そうして準備された床やフォグ、ライト等はそれぞれのシーンに応じて緻密に組み合わせられ、実際の舞台上で再現できる手法を前提としてセットが構成された。シーンのながれやそれぞれのセットの構成を把握できるよう、各場面ごとに使用する床のタイプ、フォグやスモークの種類、照明演出の指針をまとめた構成表を小森氏が用意し、スタッフ間で共有したという。「この表を基に、どういったながれで映像が展開していくのか、実際にその照明プランは再現可能なのか、似たような構成が連続しないかなどを小森と検討していきました」(上野氏)。

・実際に舞台でできるような設計の照明

リュウの横顔から1カットで春麗の登場に繋がるシーン。春麗の登場シーンは舞台で役者が登場するときのように逆光でシルエットを際立たせ、反射する床や舞台セットを活かした空間が演出されている

左:春麗の登場シーンにおける3ds Maxでのライト設定。メインとなる背後からの3つの桃色ライトに加え、桜の木を模した提燈にもそれぞれライトが仕込まれている。"ふすま"の和紙部分が背後からの光を透かして拡散することで、舞台セットそのものも照明の役割を担う。また、"ふすま"の後ろには桜の木を照らすライトをカメラ(観客席)から見えないように隠して設置。1カットでリュウから春麗へと照明演出が展開していくため、実際のライトシーンはさらに複雑に組まれているという。桃色から春の日差しのような明るい照明への切り替えも、実際の舞台で行うような方法で明滅のタイミングを合わせて切り替えているとのこと/右:各場面ごとに使用する床のタイプ、フォグやスモークの種類、照明演出の指針を一覧にまとめた構成表の一部

・舞台感の演出

舞台感の演出を意図したシーン構成の例。左:高解像度で撮影された滝の実写映像が、シーン内でスクリーンに見立てて配置された板ポリゴンに投影されている。リュウを照らす光もスクリーンが光源となっている/右:豪鬼がくり出す必殺技「瞬獄殺」は、ストロボのようにライトを明滅させることでゲーム内の技に近い表現がされている

左:コーリンの背後のスクリーンとライトがメインの光源となり、両端に配置された雪型の照明オブジェがランウェイを形成している/右:さくらの決めポーズの背景に広がる渋谷の舞台セット。書き割りの板が立てられ、看板もピアノ線のようなもので上から吊るされている

また、コンポジットについては、ルックデヴの段階で大きな構成を固めておき、スタッフが手分けして作業できる体制を整えたという。「各場面のベースとなる3ds Maxのライティング環境とNUKEのコンポジットファイルをあらかじめ作成しておき、そこから作業できるようにしました。1つのシーンに対してエフェクトやライティング、コンポジットの作業者が複数人になった場合でも同じベースファイルから作業を進められるため、ライティング素材やコンポジットの組み方に大きなズレがなく、スムーズな素材の受け渡し、コンポジット作業が行えました」(上野氏)。さらに、作業者以外のスタッフがコンポジットを見てもひと目で内容が把握できるよう、説明テキストを残したり、グループごとに色分けしたりと、整理に努めたとのこと。

・NUKEでのコンポジット


NUKEでのコンポジット作業の様子

左:背景素材、右:キャラクター素材

左:フォグ素材、右:各要素を合成した最終画像

・RGB照明から太陽へ

本作の中でも演出が印象的な、『ファイナルファイト』の3キャラクターからサガットの登場シーンへ切り替わる一連のながれを紹介しよう。是空、アビゲイル、コーディーそれぞれに当てられたRGBの照明が真上の視点で重なって白色になって発光し、カメラが引くとそれが太陽となって対峙するリュウとサガットを照らす

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<3>マイルストーンを明確にしたスムーズな制作進行

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