>   >  CG制作前にリールの試写&修正を3回くり返す〜マーザ・アニメーションプラネットがいち早く実践する「ストーリーボード」による映像制作とは(前編)
CG制作前にリールの試写&修正を3回くり返す〜マーザ・アニメーションプラネットがいち早く実践する「ストーリーボード」による映像制作とは(前編)

CG制作前にリールの試写&修正を3回くり返す〜マーザ・アニメーションプラネットがいち早く実践する「ストーリーボード」による映像制作とは(前編)

<2>細かな芝居を丁寧に描くストーリーボード

高橋:これは5〜6年前に当社で制作した『Robodog』という、凍結になってしまった長編映画プロジェクトのストーリーリールです。ストーリーボード、プリビズ映像、効果音、曲を付けて、誰が観てもストーリーがわかる内容のものを映画1本分制作しました。シーンによってストーリーボードを描く人が変わるので、絵柄も変わっていますが、それでもひと通り内容がわかるムービーになっています。

『Robodog』

高橋:CGプロダクションでありがちなのはCGのレイアウトからシーンの検討作業を始めるパターンです。しかしその段階では表情がないレイアウト用のCGモデルを使うことが多いので、キャラクターがどんな感情なのかが伝わらない。本当の意味で何を伝えたいのかがわからないんです。ストーリーボードはキャラクターの表情の変化を描くことで、感情を表現することができます。そこが一番の強みだと思います。

栗田:ストーリーボードはアニメーターの目印にもなると聞きました。アクティングなどのアニメーションをつけるときもプリビズを見るのではなく、ストーリーボードを見ると。

『Robodog』のストーリーボードの一部

CGW:想像していたよりも1枚1枚のパネルの動きが細かいですね。

木下:例えば鳩がフレームアウトするシーンであれば、「鳩がいなくなった画面」が映りますので、その1枚もストーリーボード上ではきちんと描きます。始まりから終わりまで何が起こっているのか完全に見せるのがストーリーボードです。

栗田:演技も全てを描きます。瞬きの芝居1つでもパネルを1枚使いますね。

木下:例えば、音を聞いて反応して向こうを向く、というシーンの場合、音を聞いても目を見開いたままだと、リールにしたときにすごく奇妙に映るんです。そこで1回瞬きを入れると自然な芝居になる。そういうふうに大事な瞬きというのがあるんですね。


『Robodog』より。犬と子どもそれぞれの瞬きがきちんと描かれている

木下:セリフのところでも、喋り終わってからアクションするといった場合、口を閉じる絵を入れます。口を開けっぱなしだと、喋りながら動いているように見えてしまうので。やはり顔は注目されるので誤解のないように描く必要があります。

高橋:日本のアニメでいう、原画に近いですよね。こういう表情の変化がないと、編集にもっていったときに動きの間(ま)がつくれないので、気をつけて細かく描いてもらう必要があります。

木下:これも監督次第で、めちゃくちゃ細かく描きたがる人と、ざっくりで良いよという人がいます。アニメーター出身の監督の場合はキャラクターの動きにこだわるので、細かくなる傾向がありますね。

CGW:シーンの分担は誰が決めるんでしょうか?

木下:それは監督ですね。

高橋:ストーリーアーティストによって得手不得手があるので、アクションが得意な人にはアクションを、ドラマが得意な人はドラマシーンを、監督が適性を見た上でアサインしていきます。

CGW:ストーリーボードを描くにあたってはどのくらいの時間でどれだけの枚数を仕上げるのでしょうか?

木下:まず前提として、スクリプト(脚本)の1ページが、映像になったときに1分の長さになるという目安があります。アクションシーンだともう少し膨らんだり、ドラマシーンだと短くなったりしますが、スクリプト1ページあたり大体100パネルくらいになります。僕の場合だと、1日60パネルくらい描けたら良いペースだと思います。アニメの原画と異なり、ラフで良いところはラフのままですから。

沓名健一氏(以下、沓名):キャラクターが似ていなくても、パースがそこまで正しくなくても大丈夫です。絵全体に情報量がある状態だと雑多になってしまうので、何を見せたい絵にするか、情報の抜き差しのバランスが大事です。


  • 沓名健一/Kenichi Kutsuna
    ストーリーアーティスト

    大学在学中よりTVアニメ『鋼の錬金術師』(2003〜2004)、『GAD GUARD』(2003)、『妄想代理人』(2004)、『交響詩篇エウレカセブン』(2005〜2006)などに原画として参加。以後、原画、作画監督、キャラクターデザインとして活躍。2015年よりMARZAに所属。『こねこのチー ポンポンらー大冒険』では副監督として、全話数の絵コンテ、カッティング、ダビングに携わる

高橋:パネルの枚数はストーリーアーティストによって本当にまちまち。ものすごく描く人もいれば、木下みたいに本当にちょうど良い枚数で描いてくれる人もいます。

CGW:密度だけではなく、枚数も多すぎるとダメなのでしょうか。

高橋:多すぎると、そもそも編集が大変ということがあります。絵で描いてあるタイミングと、映像になったときのタイミングはちがいます。絵に引っ張られてタイミングがおかしくなる部分は編集で間引く必要があります。むしろ少なければ後から足してもらえば良いので、その方が対応しやすいですね。

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<3>ストーリーアーティストの発掘と育成方法

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MARZA デべロップメントチーム

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前列左から 栗田 唯氏(ストーリーアーティスト)、沓名健一氏(ストーリーアーティスト)、後列左から 木下宏幸氏(ストーリーアーティスト)、高橋友和氏(エディター)

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