<3>ストーリーアーティストの発掘と育成方法
CGW:MARZAさんがこうしたデベロップメントの方法を採り入れたのはいつ頃からですか?
高橋:本格的に採り入れたのは映画『キャプテンハーロック』(2013)の頃ですが、取り組みとしては10年くらい前から準備していました。日本にストーリーアーティストが存在しなかったので、まずは人を育てるところからのスタートでした。そこで海外のストーリーアーティストにメンターになってもらい、木下たちにOJTでトレーニングをしてもらいました。
キャプテンハーロック 予告編
木下:最初はストーリーの勉強からでした。絵を描くよりも前にまず映画をたくさん観て、どういう風に画面が構成されていくのか、分析をしていきました。当時、僕はアートチームに所属していたのですが、線画は描けても彩色が上手くならなくて。そんな矢先にストーリーボードチームをつくるという話が舞い込んできて、こちらを勉強するようになったというかたちです。
CGW:沓名さんはこれまで数々の2Dの作品でアニメーターとして腕を振るわれていましたね。
沓名:僕はストーリーボードの経験でいうとMARZAに入社して少しだけかじって、2年半まったく別のプロジェクト(『こねこのチー ポンポンらー大冒険』副監督)に関わり、また最近になってストーリーボードを始めたので、正味半年くらいですね。
高橋:そもそも採用しようと思っても人がいないんです。栗田のようにもともと海外でやっていた人は稀で、そうすると近い職種の人を探す必要があります。一番近かったのが2Dのアニメーターでした。映像的な絵が描けて、絵コンテを描くこともあるので、スキルという意味では要件を満たしていました。厳密には、ただ絵が上手いとか芝居が付けられるというだけではなく、演出スキルが必要です。沓名については、知り合いのアニメーターの方に紹介してもらったというかたちです。
CGW:現在、MARZAさんにストーリーアーティストは何人くらいいるんですか?
高橋:この3人を含め、全部で6人です。
木下:そのうち2人は入ったばかりで修行中です。ひと通りCGを学んできてストーリーボードに興味をもち、ポートフォリオを送ってきて入社にいたったという感じです。
栗田:まっさらな人の方が教えやすい?
木下:それはありますね。映像に対する価値観もまだ凝り固まっていないだろうから。
高橋:デベロップメントチームは企画開発も行うチームなので、ストーリーをつくるための分析力や、脚本家さんと話をするために同じ言語で話せる必要があります。そこでまずストーリーテリングの勉強をしてもらいます。そこで基本を押さえた上で、絵を描いてもらうというかたちです。
木下:僕も勉強するまでは「三幕構成」なんて知らなかったですから(笑)。でも、そういう構造を知ってから映画を観ると見え方が変わってきますよね。
高橋:絵を描くときも第一幕と第三幕では構図の取り方を変えるようにしてもらっています。
木下: 第二幕に入ったばかりなのに、クライマックスみたいな絵面にしても後が盛り下がってしまうので、クローズアップは使わずに少し控えめにするとか。キャラクターの演技もそうだし、どうやって撮るか、どこでカットするか、どこで間を取るかなどあらゆることを考えます。
CGW:ストーリーアーティストが考えなくてはいけないことはかなり多いんですね。
沓名:そもそも欧米式のスクリプトは日本の脚本と全然ちがいます。日本のアニメの脚本では、詳細に誰が何をどうしたというところまで書かれているので、それをある程度そのまま絵にする人が求められますが、こちらのスクリプトは最低限のことが大雑把に並んでいるだけなので、ここからどう膨らませていくかは各アーティストが考えて描き、それが連結されて最初のリールになるという感じです。
木下:アクションシーンなんて、AとBが戦ってAが勝ちましたと2行くらいだったりするんです(笑)。ストーリーアーティストはその中に、ものすごくたくさんの要素を詰め込むわけです。
沓名:2行が2分になっちゃうことなんて普通にありますからね。アメリカから来た監督の場合、「好きにやってみて」と言われて、本当に好きにやったものが通ったことが驚きでした。日本のアニメの現場では、内容に関しては基本トップダウンです。面白いと思うシーンを描いて、そのままOKとなるのが最初は信じられなかったです。
栗田:ある意味で、僕らがそのシークエンスの監督に近い感じになるんですよね。
沓名:良い意見は全部採り入れていきますという、合理的なつくり方。
栗田:選ぶことも監督の大事な仕事ですね。
木下:スクリーニングを3回実施するので、最初にアイデアを募って好きにやらせて様子を見てから、後で調整するという考え方なのかもしれないですね。