>   >  プリレンダーCGにリアルタイムCGを組み合わせ、新たな価値を提示したい~鈴木卓矢氏が参加する新スタジオSAFEHOUSEが目指す映像制作とは
プリレンダーCGにリアルタイムCGを組み合わせ、新たな価値を提示したい~鈴木卓矢氏が参加する新スタジオSAFEHOUSEが目指す映像制作とは

プリレンダーCGにリアルタイムCGを組み合わせ、新たな価値を提示したい~鈴木卓矢氏が参加する新スタジオSAFEHOUSEが目指す映像制作とは

<3>クリエイターが成長できる環境をつくる

CGW:エラスマスさんは『The Lord Inquisitor』に続いて、『ORIGIN ZERO』という作品も発表されましたね。

ORIGIN ZERO - Episode 01 "Defeat" [UHD]

鈴木:『The Lord Inquisitor』は『ウォーハンマー』シリーズのファンムービーですが、『ORIGIN ZERO』は彼のオリジナル作品ですね。

由良:『The Lord Inquisitor』はCrytekの映像制作向けエンジンであるCineBoxが使われていますが、『ORIGIN ZERO』はUnreal Engine 4ですね。他にも様々な映像作品を制作していますが、全てUE4によるリアルタイムレンダリングです。音楽を聴くと映像のイメージが浮かぶようで、『ORIGIN ZERO』も映画のサウンドトラックからヒントを得てつくったそうです。

鈴木:由良さんがつくった音楽をエラスマスが映像化することもできますね。それも面白いな。

由良:エラスマスは映像制作について、結構哲学的なところから考えているんですよ。前回のセミナーでも「見終わった後で、記憶に残る映像とは何だ」という話がありました。そこで前頭葉の話になって、見ているときに前頭葉が活性化するような映像は、記憶に残りやすい。逆にアクション映画は面白いけれど、前頭葉があまり活性化しないのですぐに忘れちゃう、なんて話も出ました。

鈴木:つまり、映像クリエイティブの上にナラティブが乗っかっているんです。これは僕がBlizzardで目指していたことでもあって、だからこそ彼の考え方にシンパシーを感じました。自分よりも、もう一段高いステージで考えているなと。

CGW:そんな風に考えるようになった理由はありましたか?

エラスマス:いろんなものを見てインスピレーションを受けましたが、中でも北野 武作品の影響を受けました。カット割りがすごく印象的で、カットとカットの間で何が起きたのか、深く想像させられます。他に映画『パトレイバー』シリーズや、『攻殻機動隊』など、一連の押井 守作品もそうですね。街の風景だとか、空を見上げたら着陸態勢に入ったジャンボジェット機が頭上を通り過ぎるだとか、状況を説明するようなシーンが非常に印象的でした。こうしたカットを効果的に使えば、ドラマやアクションシーンを省略することができます。そのやり方が上手いなと。

由良:こんな風に世界観を理解してもらうような映像を、英語ではEstablishing Shotといって、海外の大学の映像に関する講義で普通に教えられていることなんですね。

鈴木:僕らは格好良い映像を見てもただ格好良いと思うだけなんですが、エラスマスはそれを分析して、論理的に言語化できるんですよ。だから、それを基に自分で作品をつくり、アウトプットできる。そこがすごいなと思います。

CGW:今後SAFEHOUSEの活動はどのように展開していきますか?

鈴木:実質稼働は2019年1月からです。エラスマスはドイツで仕事をして、リモートで参加するかたちになります。ただ、会社をつくることで、以前より頻繁に来日できるようになりますね。

CGW:社員数は何人ですか?

由良:最初は9人ですね。

鈴木:先ほどもお話ししましたが、自分が都内のCG制作会社を離れることになって、チームのメンバーにどうするか聞いたところ、全員がついていきたいと言ったんですよ。最終的に、僕も含めて6人が移籍するかたちになりました。

CGW:いきなり業界で即戦力になる、すごいスタジオになりますね。

鈴木:オフィスをレイアウトするにあたって、図面から3DCGで起こしました(笑)。

CGW:会社としての抱負を教えてください。

鈴木:今まで僕自身はずっとプリレンダーや実写VFXの仕事をしていました。その路線は保ちつつも、エラスマスが加わることで、リアルタイムレンダリングを上手く活用した映像制作が可能になると思っています。この2つの要素のハイブリッドで新しいことに挑戦していきたいですね。今まで自分のチームが受けていた仕事も、そのままSAFEHOUSEで続けることになります。その一方でSAFEHOUSEの色も出てくると思うので、新しいプロジェクトをやっていきたいですね。

由良:会社は、1人ではできないことを達成するためにつくるものです。そのためには、働いている人がどう成長していけるのかが大切で、そこがビジョンやコンセプトにつながります。僕らの業界は同じものを正確につくり続けることよりも、今までとちがうもの、たとえ懐かしくともどこか新しいものを求められます。技術や環境も常に変わっていきますし、もちろん周囲との競争もあります。広がっていく映像業界をどう進んでいくか考えたとき、今回のようなクリエイター同士の協業は答えのひとつだと思っています。

鈴木:そんな風に若い人にとって手本になるベテランが周りにたくさんいると、若手にとっても、そこから取捨選択できるようになりますよね。エラスマスや僕らがやっていることは、結局人が無意識的に格好良いと思っているものをどうやって意識的につくり上げていくのか、という話なんですよ。その際に有効なセオリーや方法論は、人によってちがいます。だからこそ、そういったものを提示して選べる環境をつくることが大切で、それが映像のクオリティに直結していきます。


取材時(2018年11月)のオフィスの様子

CGW:日本では、まだまだ習うより慣れろという考え方が中心ですよね。

鈴木:そうなんですよ。例えばさっき、エラスマスが例に挙げたEstablishing Shotの意味についても、日本では教えていない学校があったりするわけです。それを仕事を通してシステマティックに教えていけば、僕らが5年かけて習得したものを、彼らは1年で習得できるようになるかもしれない。そうしたら、あと4年でもっと上のレベルに到達できる可能性がある。Blizzardで僕が成長できたのも、そういったやり方に気づけたからなので、僕もBlizzard流を自分のチームに還元していきたいですね。

由良:他人に教えることを拒むような会社にはなりたくないんです。他者との交流や講演会なども、どんどんやっていきたい。それによって自分の技術が盗まれることを恐れるのではなく、善意をもって共有することで、業界全体の水準を上げていきたい。そうすることで自分たちも恩恵が得られますから。実際、海外に長くいればいるほど、日本のことが好きになっていったんです。真面目で勤勉ですごいなと。ただ、情報交換だけは積極的じゃないところがあって、そこは変えていきたいなと。

CGW:そこは海外生活が長い由良さんだからこその気づきかもしれませんね。

由良:日本のコンテンツやスキルは素晴らしいのに、情報交換を積極的に行わないことや英語への苦手意識から海外の情報が得づらく世界から取り残されていってしまう。自分も子どもの頃から日本のコンテンツに影響を受けて育ったので、SAFEHOUSEを設立することで恩返ししていけることを、すごく光栄に思っています。

鈴木:鶴の恩返しですね。

由良:まさに、そんな気持ちです。


Profileプロフィール

SAFEHOUSE, Inc.

SAFEHOUSE, Inc.

写真左から 鈴木卓矢氏(取締役/モデリング・スーパーバイザー)、Erasmus Brosdau/エラスマス・ブロスダウ氏(専属アーティスト)、由良浩明氏(代表取締役社長/プロデューサー)
safehouse.co.jp

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