スクウェア・エニックス、米Blizzard Entertainmentを経てフォトン・アーツの背景モデリングスーパーバイザーとして活躍、CGWORLD +ONE Knowledgeにて10回を数える大人気セミナー「背景モデリング講座」をはじめ講演も数多く行なっている鈴木卓矢氏。その鈴木氏が新たなステージとして、サウンドプロダクションCreative Intelligence Artsやゲーム開発会社AREA35の代表を務める由良浩明氏、リアルタイムレンダリングによるCGムービー『The Lord Inquisitor』で世界的な注目を集めたエラスマス・ブロスダウ/Erasmus Brosdau氏と新たに起ち上げたCGスタジオ「SAFEHOUSE」が2019年1月より稼働した。経歴もスキルもバラバラな3名に、独立の経緯や目指す方向性などについて聞いた。

TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
INTERVIEW&EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_蟹 由香 / Yuka Kani

<1>ボーンデジタル主催のセミナーが転機に

CGWORLD(以下、CGW):2017年10月の弊社主催セミナー「The making of The Lord Inquisitor」ではエラスムスさんにご登壇いただき、また由良さんと鈴木さんにはご協力をいただきました。その節はありがとうございました。

鈴木卓矢氏(以下、鈴木):いえいえ、こちらこそありがとうございました。実はSAFEHOUSE設立も、あのセミナーがきっかけだったんですよ。実際、この3人が初めて繋がった場でしたから。


  • 鈴木卓矢/Takuya Suzuki
    株式会社SAFEHOUSE
    取締役/モデリング・スーパーバイザー

    1980年生。大学卒業後スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスに入社。その後、アメリカに渡りBlizzard EntertainmentのCinematics Divisionでシニアアーティストとして背景のデザインからモデリングまでを担当。2014年に活動の場を日本に移し、都内のCG制作会社にてEnvironment&Propsのモデリングスーパーバイザーとして勤務。2018年、ドイツでアートディレクターとしてリアルタイム映像制作で活躍しているErasmus Brosdauと共同で日本にCGプロダクションSAFEHOUSEを設立する。自身のさらなるスキルアップのためにフリーランスの背景モデラーとしても、実写、フルCG、アニメなど幅広く活動中

CGW:そうだったんですか。そのあたりを詳しく教えていただけますか?

鈴木:もともと僕と由良さんはBlizzard時代から、仕事を通じて親交がありました。僕が帰国してからも、仕事やプライベートで連絡を取り合っていて、それが縁でエラスマスのことを紹介されたんです。「鈴木さん、こういうすごい人がいるんですけど」って。そのときに見せられたのが、当時彼が個人的に制作していた『The Lord Inquisitor』でした。

The Lord Inquisitor - Prologue [UHD]

鈴木:見るなり「これはやばいぞ」と。プリレンダークラスの映像を、リアルタイムCGで、しかも1人で制作しているスタイルが衝撃的で、この技術は日本でもシェアするべきだと思いました。そこで由良さんからの要望もあり、僕も日本のCG業界を盛り上げるというわけじゃないですけど、何かのきっかけになればと思って、ボーンデジタルさんにセミナーのご提案をさせていただいたんですよね。

CGW:おかげさまで大盛況でした。

鈴木:その後、今年に入って由良さんから「スタジオを起ち上げて、エラスマスと一緒にコラボレーションするので、鈴木さんも一緒にやりませんか?」と連絡をいただいて。そこから話が進んだ感じですよね。

由良浩明氏(以下、由良):その際、「日本の映像業界でもリアルタイムレンダリングをもう少し浸透させていきませんか?」と話しました。


  • 由良浩明/Hiroaki Yura
    株式会社SAFEHOUSE
    代表取締役社長/プロデューサー

    音響監督として、Blizzard Entertainment作品をはじめとした数々の人気ゲーム開発に携わる。ヴァイオリニストとしても長年活動している他、海外での人脈やPRには定評があり、ゲーム業界のみならずアニメ・映像業界でもプロデューサー業を経験。日本が発信するコンテンツとクリエイティブ力に対して強い魅力を感じる一方、CG制作分野において飛躍の余地があると感じ、株式会社SAFEHOUSE起ち上げを行う

鈴木:実は自分も同じような問題意識をもっていたんです。実際、これだけハードのスペックが上がってきたわけだから、ゲームシネマティクスにおいてプリレンダーCGはどんどん減少していくと思っているんです。そういった中で、これだけ高いリアルタイム技術をもった人材と一緒に仕事ができるというのは、日本のCG業界において非常にプラスになるのではないかと思いました。ふたつ返事で「やりたいです」と言いましたよね。確か、昨年の5月くらいだったかな。

CGW:鈴木さんと由良さんの、そもそものご縁って、何だったんですか?

由良:鈴木さんがBlizzardで仕事をされていた頃、自分も音楽の外注としてBlizzardで『ディアブロIII』(2012)などの仕事をお手伝いしていたんです。様々な部署と関わりがありましたが、一番仲が良かったのがなぜかシネマティクスの部署だったんですよね。当時というか、今でもBlizzardは日本人が少ないこともあり、自然に仲良くなって。

鈴木:アジア圏のスタッフはたくさんいたんですけど、日本人は本当に少なかったですよね。今でも5〜6人だと思います。

由良:それで帰国後も「何か一緒にやりたいね」という話はしていたんですが、具体的にこれというものがなくて。そのまま止まっていたところ、今回エラスマスというキーパーソンが加わり、リアルタイムレンダリングによる映像制作を日本で浸透させるという明確なゴールができたので、改めて一緒にやろうという運びになりました。

鈴木:僕自身も昨年のうちに進退を考えなければいけない事情があったので、これはもう運命かなと。実際ありがたいことに、いろんな会社さんからお声がけもいただいたんですよね。「鈴木さんは、来年からどうされるんですか」と。

CGW:そうなんですね。

鈴木:そういったお声がけで求められることのほとんどがスーパーバイザー的な立ち位置と若手の教育や管理業務でしたが、SAFEHOUSEだけが自分を成長させてくれる要因があったんです。それがエラスマスという、新しいテクノロジーをもったクリエイターだったんですよ。これから自分がCGアーティストとしてまだまだ成長していくためには、この会社にジョインするしかないと思ったのが一番の決め手でしたね。そして僕のチームも僕と同じ気持ちだったので、結果的にチームごと移動することになりました。

由良:ここに至ったのは、Blizzardで働いた影響も大きかったですね。ゲームオーディオはメインの開発ラインとは別のラインとして考えられることが多く、開発情報が共有されにくいんです。特に外注だと、スタッフと顔を合わせる機会もほとんどなくて、発注いただいた時点の情報と発注書で音楽をつくっていく。それに対して、Blizzardでは全ての工程を見せてくれたんですよ。制作手法だけではなく、ビジョンまで、全て。おかげで、求められていることが理解しやすかったです。

CGW:古き良き日本のゲーム開発がBlizzardにあったというのは、面白い話ですね。

由良:本当にそうですね。例えば20分のシネマティクスをどうやって3分に縮めるかなどの技術的な話だけでなく、なぜフロアがこんな風にレイアウトされているのかだとか。例えばBlizzardではL字型の机を4つ背中合わせに並べているんですが、なぜそういう配置にしているのかだとか。そういった制作や制作環境に全て意味があって、情報が全てオープンだったんです。自分もその頃は若かったですし、すごく印象的だったんですよね。鈴木さんとも、そういった話を良くしていて。

鈴木:僕も、映像のつくり方だけでなくCGアーティストの教育方法に至るまで、Blizzardの影響を強く受けました。うわ、ここまで突き詰めてやっているんだ、という。中でも単にデータとしてのCGをつくっているのではなく、映像の中で何を表現したいのか、ちゃんと考えてつくるという姿勢には、本当に驚かされましたね。それをずっと日本でもやりたい、そうじゃないと人が育たないという想いがあって。そういった話を由良さんとすると、すごく話が合うんですよね。お互いの着地点がマッチしている感じで。

由良:価値観が似ていると仕事がしやすいですよね。もちろんBlizzardのやり方をコピーするわけではなく、ベースの価値観を重要視しながら、その上で自分たちのやり方をアドオンしていくわけですが。実際に鈴木さんもそういったチーム運営をされてきたと思いますし。

鈴木:そうですね。それをいかに日本風にアジャストしていくか、という話ですから。

由良:こういった会社組織のあり方を、英語ではArtist-driven Organizationと言います。アーティスト優先で物をつくっていくスタイルです。それを進めることで、対価が後から付いてくるというのは、実際にもう経験していることなので。

鈴木:アーティストを管理する側としてはお金も大事ですが、基本的にはアーティストが成長できる場をSAFEHOUSEで用意してあげたい、そんなイメージなんですよね。

由良:クリエイターにとって一番大切なのは、お金や機材や立場ではなくて、時間だと思っています。その時間をどうやって使うのか、どうやって人が育っていくのか、そういったことが一番の課題になっていくと思います。

CGW:そもそも「SAFEHOUSE」とは、どういう意味なんでしょうか。

由良:もともとは諜報機関が使う隠語で、「隠れ家」という意味なんです。証人や亡命者を一時的にかくまう施設のことですね。そこから転じて、中で何をつくっているのか外部には秘密だけど、すごく楽しいことをやっていて安全な場所ですよ、という意味を込めました。

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<2>インターネットのチャットで繋がった縁

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<2>インターネットのチャットで繋がった縁

CGW:ここで話を変えて、エラスマスさんの経歴についてもお聞きできますか。

エラスマス・ブロスダウ氏(以下、エラスマス):私はドイツ出身で、学校を卒業後3D factoryという映像系のCGスタジオに入りました。そこからゲームエンジンで知られるCrytekに入社し、ジュニアからシニアへと進んでいきました。その後Cloud Imperium Gamesに移籍し、クラウドファウンディングで約63億円の資金調達に成功したオンラインゲーム『Star Citizen』の開発に参加。その後半導体メーカーのAMDで、クリエイティブリード&アートディレクターとして働き、今に至ります。


  • エラスマス・ブロスダウ/Erasmus Brosdau
    株式会社SAFEHOUSE
    専属アーティスト

    Crytekのアートディレクターとして世界初のVRベンチマークとなる『Skyharbor』のディレクターを務める。フリーに転身後、UE4を使用したリアルタイムレンダリングの先駆者として、オリジナルのシネマティック映像を製作。ハイスピードでハイクオリティな映像制作を実現する、その手法に世界中のCGアニメーション業界が注目している

CGW:鈴木さんと由良さんはBlizzardつながりですよね。エラスマスさんと由良さんは、どういうお知り合いなんですか?

由良:実はチャット友だちだったんですよ。もともと僕はミニチュアゲーム『ウォーハンマー』や、そこからスピンアウトした作品群が好きで。エラスマスも『ウォーハンマー』のファンなんですよね。『The Lord Inquisitor』は、『ウォーハンマー』のファンムービーとしてつくられたものです。それに加えて日本のアニメやゲームのファンでもあるので、あるときネットで「僕、日本でゲームをつくっているんだよ。アニメの音楽とかもやっていて」と話したら、「すごいな」と言ってもらえて、そこからすぐにチャット友だちになりました。

CGW:今風ですね。

由良:彼が好きなクリエイターは大体僕が以前にお仕事をご一緒させていただいた方か、知り合いや友人だったので、彼もテンションがすごく上がっちゃって。来日するたびに「誰それにサインをお願いしたい」と、グッズをたくさんもってくるんです。恥ずかしいからやめてくれって言っているんですが(笑)。

CGW:目に浮かぶようです。

由良:先日もドイツを出国する前に「ゲーム『ゼノサーガ』の20周年記念のサウンドトラックが出たはずだけど、あれは録音し直したものだよね?」と質問されて。それを買ってもっていくから、サインをもらえないかと(笑)。

CGW:エラスマスさんは、どんな日本の作品がお好きなんですか?

エラスマス:ゲームでは『メタルギアソリッド』『サイレントヒル』シリーズ、アニメでは『新世紀エヴァンゲリオン』などですね。他に映画監督は北野 武さん、音楽は久石 譲さん、山岡 晃さん、アイドルはきゃりーぱみゅぱみゅが好きです。

由良:それにエラスマスはCGだけじゃなくて、作曲もできるんですよ。ギターもピアノもドラムもできて、コンセプトアートもできる。『The Lord Inquisitor』も、そうした彼のマルチな才能があってこその作品になっています。


CGW:それはすごいですね。

由良:実際、『ウォーハンマー』のファンムービーはいくつかあるんですが、明らかにクオリティが段ちがいなんですよ。というのも、『ウォーハンマー』はミニチュアゲームだから、ファンムービーもキャラクターが動かないのが普通なんです。でも、『The Lord Inquisitor』は普通のCG映画と見分けがつかない(笑)。

鈴木:僕も由良さんに初めてこの映像を見せられたとき、ビックリしたんですよね。クオリティもさることながら、リアルタイムレンダリングで、しかも1人でつくっているという。これを見て、もうプリレンダーの時代は近い将来終わるのではないかと確信しました。

CGW:改めてビックリです。

由良:ただ、SAFEHOUSEとしてエラスマスと一緒に仕事ができるのは、やっぱり鈴木さんの力があったからこそなんですよ。鈴木さんがいなければ、友人から先に進まなかっただろうなあと思っています。

CGW:具体的に仕事でのコラボレーションをイメージし始めたのはいつからですか?

由良:最初は趣味の話が多かったんですが、彼としても日本の作品に関わりたいという思いが強かったんですよね。これだけ日本の作品が好きなのに、日本のアーティストと交流する機会がないという彼の状況を考えると、次第にその願いを叶えたくなってきて、「講演するなら日本に来て、アーティストと交流をもつことができるよ」という、本当に軽い気持ちから誘ったのが始まりです。そこからだんだんと話が広がり、エラスマスも喜ぶし、じゃあ自分ももう少しがんばろうかと。

CGW:エラスマスさんはSAFEHOUSEの話が出たとき、どのように感じられましたか?

エラスマス:とても面白いと思いました。みんなで力を合わせて必要な人にサービスを提供するというのは、とても論理的ですし、歴史的に見てドイツ人と日本人が協力するのも、これが初めてではありませんし。

由良:そうそう、自動車業界とかね(笑)。

CGW:エラスマスさんは一昨年の講演以前に日本に来られたことは?

エラスマス:講演のときが初めてでした。日本のゲームやアニメのグッズはたくさんもっているのですが......。

由良:前回の来日では、『エヴァ』のファンだからということで、スタジオカラーさんにエラスマスを紹介しに行ったんですよ。そのときにいろんなグッズをもってきて、サインをお願いしていて。中にはドイツでは手に入らないからと秋葉原で買ってきたものもあって。「庵野監督のサインも欲しいです」「庵野は今日は不在なんですよ」「じゃあ、後で書いて送ってください」みたいなやりとりも(笑)。

CGW:庵野監督はサインを送ってくれましたか?

エラスマス:はい、後日送っていただけました。

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<3>クリエイターが成長できる環境をつくる

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<3>クリエイターが成長できる環境をつくる

CGW:エラスマスさんは『The Lord Inquisitor』に続いて、『ORIGIN ZERO』という作品も発表されましたね。

ORIGIN ZERO - Episode 01 "Defeat" [UHD]

鈴木:『The Lord Inquisitor』は『ウォーハンマー』シリーズのファンムービーですが、『ORIGIN ZERO』は彼のオリジナル作品ですね。

由良:『The Lord Inquisitor』はCrytekの映像制作向けエンジンであるCineBoxが使われていますが、『ORIGIN ZERO』はUnreal Engine 4ですね。他にも様々な映像作品を制作していますが、全てUE4によるリアルタイムレンダリングです。音楽を聴くと映像のイメージが浮かぶようで、『ORIGIN ZERO』も映画のサウンドトラックからヒントを得てつくったそうです。

鈴木:由良さんがつくった音楽をエラスマスが映像化することもできますね。それも面白いな。

由良:エラスマスは映像制作について、結構哲学的なところから考えているんですよ。前回のセミナーでも「見終わった後で、記憶に残る映像とは何だ」という話がありました。そこで前頭葉の話になって、見ているときに前頭葉が活性化するような映像は、記憶に残りやすい。逆にアクション映画は面白いけれど、前頭葉があまり活性化しないのですぐに忘れちゃう、なんて話も出ました。

鈴木:つまり、映像クリエイティブの上にナラティブが乗っかっているんです。これは僕がBlizzardで目指していたことでもあって、だからこそ彼の考え方にシンパシーを感じました。自分よりも、もう一段高いステージで考えているなと。

CGW:そんな風に考えるようになった理由はありましたか?

エラスマス:いろんなものを見てインスピレーションを受けましたが、中でも北野 武作品の影響を受けました。カット割りがすごく印象的で、カットとカットの間で何が起きたのか、深く想像させられます。他に映画『パトレイバー』シリーズや、『攻殻機動隊』など、一連の押井 守作品もそうですね。街の風景だとか、空を見上げたら着陸態勢に入ったジャンボジェット機が頭上を通り過ぎるだとか、状況を説明するようなシーンが非常に印象的でした。こうしたカットを効果的に使えば、ドラマやアクションシーンを省略することができます。そのやり方が上手いなと。

由良:こんな風に世界観を理解してもらうような映像を、英語ではEstablishing Shotといって、海外の大学の映像に関する講義で普通に教えられていることなんですね。

鈴木:僕らは格好良い映像を見てもただ格好良いと思うだけなんですが、エラスマスはそれを分析して、論理的に言語化できるんですよ。だから、それを基に自分で作品をつくり、アウトプットできる。そこがすごいなと思います。

CGW:今後SAFEHOUSEの活動はどのように展開していきますか?

鈴木:実質稼働は2019年1月からです。エラスマスはドイツで仕事をして、リモートで参加するかたちになります。ただ、会社をつくることで、以前より頻繁に来日できるようになりますね。

CGW:社員数は何人ですか?

由良:最初は9人ですね。

鈴木:先ほどもお話ししましたが、自分が都内のCG制作会社を離れることになって、チームのメンバーにどうするか聞いたところ、全員がついていきたいと言ったんですよ。最終的に、僕も含めて6人が移籍するかたちになりました。

CGW:いきなり業界で即戦力になる、すごいスタジオになりますね。

鈴木:オフィスをレイアウトするにあたって、図面から3DCGで起こしました(笑)。

CGW:会社としての抱負を教えてください。

鈴木:今まで僕自身はずっとプリレンダーや実写VFXの仕事をしていました。その路線は保ちつつも、エラスマスが加わることで、リアルタイムレンダリングを上手く活用した映像制作が可能になると思っています。この2つの要素のハイブリッドで新しいことに挑戦していきたいですね。今まで自分のチームが受けていた仕事も、そのままSAFEHOUSEで続けることになります。その一方でSAFEHOUSEの色も出てくると思うので、新しいプロジェクトをやっていきたいですね。

由良:会社は、1人ではできないことを達成するためにつくるものです。そのためには、働いている人がどう成長していけるのかが大切で、そこがビジョンやコンセプトにつながります。僕らの業界は同じものを正確につくり続けることよりも、今までとちがうもの、たとえ懐かしくともどこか新しいものを求められます。技術や環境も常に変わっていきますし、もちろん周囲との競争もあります。広がっていく映像業界をどう進んでいくか考えたとき、今回のようなクリエイター同士の協業は答えのひとつだと思っています。

鈴木:そんな風に若い人にとって手本になるベテランが周りにたくさんいると、若手にとっても、そこから取捨選択できるようになりますよね。エラスマスや僕らがやっていることは、結局人が無意識的に格好良いと思っているものをどうやって意識的につくり上げていくのか、という話なんですよ。その際に有効なセオリーや方法論は、人によってちがいます。だからこそ、そういったものを提示して選べる環境をつくることが大切で、それが映像のクオリティに直結していきます。


取材時(2018年11月)のオフィスの様子

CGW:日本では、まだまだ習うより慣れろという考え方が中心ですよね。

鈴木:そうなんですよ。例えばさっき、エラスマスが例に挙げたEstablishing Shotの意味についても、日本では教えていない学校があったりするわけです。それを仕事を通してシステマティックに教えていけば、僕らが5年かけて習得したものを、彼らは1年で習得できるようになるかもしれない。そうしたら、あと4年でもっと上のレベルに到達できる可能性がある。Blizzardで僕が成長できたのも、そういったやり方に気づけたからなので、僕もBlizzard流を自分のチームに還元していきたいですね。

由良:他人に教えることを拒むような会社にはなりたくないんです。他者との交流や講演会なども、どんどんやっていきたい。それによって自分の技術が盗まれることを恐れるのではなく、善意をもって共有することで、業界全体の水準を上げていきたい。そうすることで自分たちも恩恵が得られますから。実際、海外に長くいればいるほど、日本のことが好きになっていったんです。真面目で勤勉ですごいなと。ただ、情報交換だけは積極的じゃないところがあって、そこは変えていきたいなと。

CGW:そこは海外生活が長い由良さんだからこその気づきかもしれませんね。

由良:日本のコンテンツやスキルは素晴らしいのに、情報交換を積極的に行わないことや英語への苦手意識から海外の情報が得づらく世界から取り残されていってしまう。自分も子どもの頃から日本のコンテンツに影響を受けて育ったので、SAFEHOUSEを設立することで恩返ししていけることを、すごく光栄に思っています。

鈴木:鶴の恩返しですね。

由良:まさに、そんな気持ちです。