<2>1日30分、半年で実力アップ確実の「バリュースケッチ」
――竹下さんは、CGWORLD Online Tutorialsで「フォトバッシュを使用した背景コンセプトアート作成テクニック」の講座をおもちです。この講座はどんな人に向けてつくられましたか?
竹下:背景づくりや空間づくりに興味があって、どこから始めたらいいかわからない人やワークフローを知りたい人、もちろんフォトバッシュの手法を知りたい人に見ていただきたいなと思います。
――講座のなかでも「バリュースケッチ」というトピックはあまり聞き慣れない言葉でした。
竹下:「バリュースケッチ」(Value=明度)はなかなか日本語に訳しづらいのですが、要は、白黒のみで行う模写のことです。これはとても良い訓練になります。私は風景をよく描きますが、肖像画でも構いません。Photoshopでも紙と鉛筆でも良いので、1枚30分ぐらいの短い時間で行うことがポイントです。これは色の情報を落としたぶん、どこが見えているか見えていないかがハッキリと形に現れるんです。これを1日1枚やると半年後には別人のように上達しているはずですので、ぜひやってみてください。
CGWORLD Online Tutorials「フォトバッシュを使用した背景コンセプトアート作成テクニック」より、バリュースケッチの様子
――他にこのチュートリアルで重要なポイントは?
竹下:「アイデア出し」項目の中にある「視線誘導」も、以前別の機会にお話をしたときに反応が大きかったポイントでした。自分の絵を描きたい人はリアルにするのも大事ですが、伝えたいストーリーを伝えるためにはどんな構図をつくれば良いかも勉強した方が良いと思います。これも画面分析です。写真には撮った人の、絵には描いた人の見てほしいものが画面の中に必ずあります。その意図を見つけることです。
例えば難民の人を撮った写真があったとします。大勢を映していたら、その中に光る人がいるはずで、そこに視線をもっていくためにどんな要素を写真の中に入れるかと考える。それが家かたくさんの子どもかで構図がまったく変わってきますので、それをどのように扱えば良いかを勉強すると良いと思います。
――それは写真でも絵でも、2Dでも3Dでも?
竹下:はい。絵だけではなく、一般的な仕事をしていく上でも役立つことだと思います。クライアントからの依頼で上手く話が見えなかったときに、「この人は何を目的としているのだろうか」と、画面だけではなく、人の言葉や態度とかにも応用できると、この人が本当は何を求めているのかが見やすくなると思います。
――竹下さんが絵を描くにあたって参考にされた書籍や画集は何ですか?
竹下:技術書ではないのですが、ベティ・エドワーズの「脳の右側で描け」には影響を受けましたね。社会生活に使われている左脳を一度休めて、右脳を働かせようという頭のエクササイズなんですが、それをやったら私自身、上手くいったんですよ。胡散臭いというと怒られるんですけど(笑)。
あとはヴィッキ・マクマリーの「Mastering Color」も印象に残っています。韓国の本屋で出会った本なのですが、ちょうど色について悩んでいた時期だったので、シンプルで美しい色遣いに衝撃を受けました。形をしっかり取るのではなく、色自体で絵を魅せるという手法も真似してみたいと思いました。どうしたらこのような色になるのか、何色も混ぜて試してみたりしましたね。
竹下氏のArtStationより
――フォトバッシュという手法の面白さについて、竹下さんはどのように考えますか?
竹下:組み合わせ次第でいかようにもなるところが面白いと思います。ときに自分が思ってもみなかったものができたりするので、普段から写真を撮り貯めるようにしています。「まさかこんなもの使わないだろう」と思って撮ったものが後々役立ったりするので(笑)。旅行に行ったときは常に撮影していますね。
――竹下さんは日本の高校を卒業されてからアクティブに海外を目指されましたが、現在の学生に向けて留学についてのアドバイスをするとしたらどのような点をメリットとして挙げられますか?
竹下:海外に行くメリットって、やっぱり日本以外の文化に触れたり、日本人以外の人と知り合ったりすることだと思うんです。私はあの年で出て行ったからこその良い刺激を受けられました。今も多面的な視点からものごとを見るようにしているのですが、その癖はあのときに培われたものだと思います。
――多様な文化に触れることで自分自身の価値観を相対化したり、相手の立場になって考えたり。
竹下:そうですね。それによって自分の意見がどれだけ大事かもわかるので、異文化にたくさん触れてほしいですね。当時とは時代もちがえばアメリカの状況も変わっているので、私と同じ経験ができるかどうかはわかりませんが、それでも外に出ていろいろな文化に触れるのは良いことだと思います。
――一方で、日本国内で頑張っていこうという人にはどんなことをアドバイスしますか?
竹下:絵のことにだけついて言えば、国内でも描くことはもちろんできるわけで、自分のできることをして感性を伸ばしていくという方法ももちろんアリだと思います。むしろ、海外の人からすると日本画の上手い人って、驚異なんですよ。CGというのはもう、ほとんど手法が決まってきていて、出てくるものが同じスタイル。そんな人たちからすると葛飾北斎のようなスタイルは驚異なんです。そんな風に海外の理論に基づいていない、日本人ならではのものの生み出し方はもっと大事にすべきだと考えます。
――日本ではメソッドの確立ができずに属人的であると、ついネガディブに捉えられがちです。それはひとつ事実としてあるかもしれないけれども、別の良さがあるわけなんですね。
竹下:そうです。役に立つ場面も多々あると思うんですよ。だからこそ、まだ文化として根付いていてるのかなと。何でもかんでも海外の標準的なスタイルに移行しないのは、やっぱり何かしら良い部分があるからだと思います。
私は十数年海外で暮らしてきたこともあって、考え方も外国人っぽくなっていたんです。論理的に考えて、結果もそれにしたがって美しいものができるということに何の疑いももっていなかったわけです。でもどこかで無理していたのか、帰国してからは抑えていた日本人らしさが反動のように湧き出てきまして(笑)。様々な局面で日本の良さが目につくようになったんです。理論的な方法は説明通りにやれば手に入れられるものだから簡単なんですよ。でも日本の非理論的なスタイルを輸出するのは無理。だからこそすごいし、もっと大事にしたほうが良いものはたくさんあると思います。
今の若い子たちは丁度良いバランスになっていると思います。かつての非論理的すぎるものから、良い具合に海外の合理的な方法の良いところを採り入れて混ざり合っている。このまま行けばちょうどいい位置にたどり着くんじゃないかなと私は思っています。
フォトバッシュを使用した
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