>   >  『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』第3弾OP〜旭プロダクション・脇 顯太朗が語る全カットの制作工程(前篇)
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』第3弾OP〜旭プロダクション・脇 顯太朗が語る全カットの制作工程(前篇)

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』第3弾OP〜旭プロダクション・脇 顯太朗が語る全カットの制作工程(前篇)

新しい表現を求めCinema 4Dに回帰

冒頭の雲やタイトルロゴ、後述の割れる水差しなど、脇氏が新たに3DCG素材を作成するときはもっぱらC4Dが使われている。元々、3DCGは物理シミュレーションなどに憧れがあって始めたということで、本作中でも手描きで表現しづらい水や破壊などのシミュレーションで印象的に使われている。「専門学校は撮影クラスだったのでAEがメインでしたが、あるときComposition Inc.の緒方達郎さんがC4DとAEの連携を紹介しているのを見て興味をもち、使い始めました」。

就職してから5〜6年はほとんどC4Dを使う機会はなく、AE1本だったという。「AEが大体使えるようになって、演出や監督からの要望も大体AEで何でも返せるようになってきて、ここで何かちがう表現がないかな、と思ったときにC4Dの存在を思い出して会社に導入してもらいました」。

本作でも、AEとC4Dの双方を活用しているが、Cinewareなどの連携プラグインは使わず、オーソドックスにC4Dでレンダリングした連番画像をAEに読み込んで素材として使っているという。「AE上でこういう画面にしたいから、C4Dでこういう素材を用意する、という意識が強いですね」。

Cut.5 シャアの妹・セイラ

シャアの目の端から飛び出したキューブが流れて幼少期のセイラがいる部屋の窓枠になり、そこから病院の建物が展開し成長したセイラが登場する、セイラにフォーカスした一連のカット。「本作は最初から最後までワンカットで繋がっているようにしたくて、何かしら必ず映像的に関連づけるようにしています」。本映像でのセイラは、兄妹の悲しい別れとその後の生き方のちがい、後に再び出会う因縁が印象的に表現されている。

アップで銃を構えるセイラのカットは、争いを望まない彼女も兄とちがう場所でやはり戦いに巻き込まれていく悲しさを演出しているという。「セイラはキャスバルと同じ目つきをしているカットがあって、兄妹だよなぁと。こういう場所にいたら、こういう風になってしまう宿命の兄妹だったという悲しい感じを出したかった。本編を観ている方にも共感してもらえるカットになっていたら嬉しいです」。

●セイラの幼少期から現在へ


  • 【1】シャアの目から飛び出したキューブが、子ども時代のセイラの窓へ


  • 【2】そこからセイラの勤める病院の窓に変化。当初はより大掛かりに病院が組み上がる様子を見せることを考えたが、それが見せたいカットではないと思い直し、短めにしたとのこと


  • 【3】成長したセイラの登場


  • 【4】病院の本編素材。暴動が起きているシーンのため、黒い煙などがみえる


  • 【5】セイラの本編素材


  • 【6】煙を消してレイアウトした状態

●銃を構えるセイラ


  • 【1】セイラが銃を構える前の一瞬は、『ジ・オリジン』OVA版第5話「激突 ルウム会戦」のキービジュアルを素材として使用。「できるだけ映像媒体に出ていない素材を使いたかったんです」


  • 【2】本編素材。本編のカメラマップを最後のフレームのみ使用している


  • 【3】炎はC4D、火の粉はAEで作成


  • 【4】画面右の炎は火炎瓶による爆発にする予定もあったが、少し想定した印象とちがったため、最終的には不使用とした


  • 【5】ガラスの破片や煙を追加して完成。ガラスの破壊については、薬莢が前方から飛んで割れるイメージだが、演出的に破片を前に飛ばしたかったため、後ろからオブジェクトを当ててシミュレーションしている。「本編素材に既にガラスの割れが描かれているため、その割れ目に合わせてマップを自分で作成して破壊しました」

●セイラの涙


  • 【1】グローやフレアが入っている完成画像


  • 【2】本編素材


  • 【3】カメラ手前の銃を立体的にブラッシュアップ


  • 【4】顔にライトを当てて色の調整

Cut.6 ダイクンの死

セイラの目からこぼれ落ちた涙が、本編第1話で父のジオン・ズム・ダイクンが倒れるシーンで落ちる水差しと重なって砕け散っていくというカット。初めは本編の素材をそのまま使ってみたが、タイミングやパカつき、尺などの理由で、飛び散るガラスはC4D、水はX-particlesで作り直された。「セイラの涙とダイクンの死という同じような悲しい出来事をつなぎ、重ねました」。


  • 【1】第1話の水差しが落ちるシーン

【2】C4Dで作られた水差し。背景は、第1話のダイクンのシルエット


  • 【3】初めは本編の作画を基に作っていたが、途中で路線変更


  • 【4】C4Dで作られた破片とX-particlesの液体

【5】色を調整して被写界深度やエフェクトを足して完成

Cut.7 ザビ家の兄弟たち

瓶が割れ破片が飛び散ったところに図形が重なっていき、画面に映し出された地球圏図の前に立つギレンに行き着く。ここからの一連のザビ家のカットは、ザビ家の複雑な人間関係と争いが、リズミカルなカットの切り替えやモーショングラフィックスによって短時間に情報量を多く差し込みテンポ良く表現されている。

また、スペースコロニーの配置図がモーショングラフィックスで組み上がっていくカットでは、オープニングテーマの「メビウスの輪から」という歌詞に合わせ、スペースコロニーの形が一瞬メビウスの輪のようにみえるかのような演出がなされている。「全体として、映像的な説明をしすぎないように、よく観たらこれそうじゃない? と思えるくらいの余裕を残した映像にしたいと思って作っています。最近の作品は画面が完成されすぎていて、完成されたものをただ摂取しているだけの関係性なのではないかという思いもあって、観る人に委ねる部分を作りたかった」。

「あまり映像と歌詞を合わせようという意図はなくて、どちらかというとわざとタイミングをずらしていますね。歌詞や曲で言いたいことを映像で重複させても同じ情報しか入らないというか。別のタイミングで別の情報を入れ込んだ方が、映像的には広がりが出るのではと思っています。それでも合っちゃうことがあるので、最終的にずらしたりもしています」。

●「メビウスの輪」


  • 【1】ベースとなった本編のカット。1レイヤーにまとめられてしまっていたので素材としては使えず、元素材を参考に、新規にグラフィックを描き起こした


  • 【2】描き起こした素材を使ったレイアウト

【3】新たにAEで作られたインターフェイス。ここで流れる歌詞に合わせ、一瞬「メビウスの輪」のように見える


  • 【4】順番に組み上がっていく


  • 【5】完成

●キシリア・ザビ

【1】キシリアのカットの完成画。火花はAEで追加。前カットのギレンを受けてのキシリアの カットになっており、ここに関しては『ジ・オリジン』より先のファーストガンダム後半の展開を示唆する内容になっている


  • 【2】背景に使用した本編素材。実はキシリアではなく、シャアのカットを使用


  • 【3】服の色をキシリアの紫に変更してマントを追加


  • 【4】テクスチャを追加して手描き感を


  • 【5】薬莢と煙はC4Dで作成


  • 【6】色調整

●それぞれの立場


  • 【1】ザビ家5人が並ぶカットの完成画。5人の考え方や関係性、家族間の立場を配置に反映している


  • 【2】素材を並べたレイアウト


  • 【3】【1】のカットからガルマがフォーカスされ、その後キシリア、マ・クベと並ぶカットにつながる


  • 【4】【3】の本編素材


  • 【5】カメラが大きく引いて地上部隊が登場し、ザクのモノアイからの光で画面が切り替わる


  • 【6】素材

前篇はここまで。後篇では、脇氏が特に力を入れ、本OP映像のOA直後から話題となった40年前の『機動戦士ガンダム』を思わせるアナログ風のカットを中心に解説していく。

後篇に続く>>

Profileプロフィール

脇 顯太朗/Kentaro Waki(旭プロダクション)

脇 顯太朗/Kentaro Waki(旭プロダクション)

撮影監督/『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』OPディレクター

高校時代に見たアニメーター「金田伊功」の作画でアニメの面白さに魅了され、業界を志す。入社9年目。担当作品に『ソードアート・オンライン アリシゼーション』(撮影監督)、『機動戦士ガンダムNT』(撮影監督)、『Fate/Grand Order配信4周年記念映像』(撮影監督)、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』(撮影監督)、『GOD EATER』(撮影監督)、『ガンダム Gのレコンギスタ』(撮影監督補佐)など
asahi-pro.co.jp
Twitter:@HiconManiacs

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