4月より現在NHK総合で放送中のTVアニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』。6月末より第3弾のオープニング映像が展開され、リズミカルなモーショングラフィックとアナログテイストを融合させた独特の世界観で好評を博している。制作を担当した旭プロダクション・脇 顯太朗氏に、1分30秒に込めた本作へ、ひいては映像制作全体への熱い想いを全てのカットについて語っていただいた。前後編でたっぷりとお届けする。
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii (ねぎぞうデザイン)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/ Mitsuru Hirota
【公式】『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』第3弾オープニング
●Information
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』
NHK総合テレビにて毎週月曜0:35〜(日曜深夜)放送中
www.gundam-the-origin.net/tv/
©創通・サンライズ
本編、版権イラストなどあらゆる素材を使って自由に制作されたOP映像
現在NHK総合で放送中の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星(以下、ジ・オリジン)』は、2015年から2018年にかけてイベント・劇場上映およびOVAとして展開された『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』全6話をTVアニメシリーズとして全13話に再編したもので、「機動戦士ガンダム40周年プロジェクト」の中核を担う作品だ。OP・EDテーマは楽曲プロデュースにLUNA SEAのSUGIZO氏を迎え、TVシリーズのために映像も新規に制作されている。
OPは現在、本記事で紹介する第3弾がOA中だが、第1弾は原画と編集まではサンライズ 第5スタジオ(旧・オリジンスタジオ)で担当、グレーディングをProduction I.G齋藤 瑛氏が手がけ、第2弾は川富本店の川部智貴氏が構成から一貫して制作と、それぞれに異なる座組で多彩な仕上がりとなっている。
そして第3弾のOP映像を構成から一手に引き受けたのが、旭プロダクションの撮影監督・脇 顯太朗氏だ。脇氏に白羽の矢が立った理由を、サンライズ第5スタジオのアシスタントプロデューサー・塚本樹佳氏は「脇さんが2016年に制作された『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096(以下、UC)』第18話のOPが社内のオリジンチームで話題になり、ぜひ作った方に今回のOP制作をお願いしたくてコンタクトを取りました」と語る。
脇氏が制作を手がけた『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』第18話OP
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脇 顯太朗/Kentaro Waki
旭プロダクション
撮影監督/『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』OPディレクター
高校時代に見たアニメーター「金田伊功」の作画でアニメの面白さに魅了され、業界を志す。入社9年目。担当作品に『ソードアート・オンライン アリシゼーション』(撮影監督)、『機動戦士ガンダムNT』(撮影監督)、『Fate/Grand Order配信4周年記念映像』(撮影監督)、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』(撮影監督)、『GOD EATER』(撮影監督)、『ガンダム Gのレコンギスタ』(撮影監督補佐)など
asahi-pro.co.jp
Twitter:@HiconManiacs
「これまでにも短尺の映像を丸々1本1人で作るということは何度かやってきていて、本作が7本目になります。同じ感じでやらせてもらえるのであればぜひやりたい、とお話を受けたという感じですね」と語る脇氏。『UC』OP映像の他にも東京・お台場 ダイバーシティ東京 プラザにてガンダムユニコーン立像の背後の壁面に投影された特別映像の制作など1人で手がけてきたが、旭プロダクションの入社当初にはそういった仕事はなく、モーショングラフィックスの制作経験もなかったという。
脇氏が2016〜2018年に制作したお台場 ダイバーシティ東京 プラザの壁面映像の一部
「自分は旭プロダクションに入社して10年ほどになりますが、これまではアニメの撮影だけをやってきました。最初から最後まで自分で映像を作れるようになりたいという意識は学生時代からありましたが、現場に入るとやはりアニメの撮影の仕事がほとんどで、モーショングラフィックスやデザインが絡むような仕事はなかなか回ってきませんでした」。しかし『機動戦士ガンダムUC episode 7』の際に監督や演出に尖ったエフェクトを提案していたところ、面白い人材が旭プロダクションにいると話題になり、その頃からOP映像などを任されるようになっていった。
本作では、まず脇氏自ら簡単な絵コンテを描き、それを基に制作を進めたという。使用する素材については、新しく作画を発注することはせず、「弊社で撮影を担当していたので本編で使った素材は元々ほぼ揃っていました。加えて本編で使っていないキービジュアルなどの版権イラストやキャラクターの設定画などをひと通りサンライズさんから提供していただきました」(脇氏)。サンライズからは「OPのOAが第9話からなので、そのあたりの内容の素材を使ってもらえれば」という以外は特にオーダーはなく、自由に制作できたとのこと。以降、冒頭から順に各カットに込められた脇氏の意図を紹介していく。
Cut.1 夜明けの街〜落下するコロニー
本OP映像は、都市に夜明けが訪れ、空へPANすると雲行きが怪しくなって、落ちてくるコロニーの影がうっすらと見えてくるという不穏なカットから始まる。本編で大きな転換点となる「ブリティッシュ作戦」におけるコロニー落とし、そのエピソードが登場する第9話が本OPの放送開始にあたったため、冒頭にこのカットをもってきたという。
このカットは、庵野秀明氏が学生時代に制作した『DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』(1983)の冒頭くらいの雰囲気に抑えたかったと語る脇氏。「この作品は隕石が落ちて街が壊滅するところから始まるんですが、まず家から子どもが出てきて空を見上げるシーンが入って、そこからホワイトアウトして終わってしまう。具体的に壊滅したところを見せないんですよ。そのくらいの雰囲気が良いと思いました」。
●夜明けの街
●空から迫るコロニー
【7】完成画像。最終的にコロニーは一瞬輪郭が浮かぶ程度の見せ方に抑えた。「あまり説明しすぎず観ている人に気づいてもらった方がコロニー落としとしての怖さが増すかな、と思ってこういうかたちにしました」
Cut.2 キャスバルの瞳〜タイトルロゴ
空にコロニーが迫ってきた後一瞬ホワイトアウトを挟み、コロニーが落ちた地球の様子が映し出される。「ブリティッシュ作戦でコロニーが落とされたのがシドニー周辺なので、オーストラリアを中心とした地球を制作しました」。その後地球が引いていき、キャスバルの青い瞳に重なっていく。本編からの素材を基にテクスチャを乗せタッチを多めに入れて、さらに瞳の色の彩度を上げることでキャスバルのジオンに対する不満を表現している。
「キャスバルは元々ジオンのやりかたに反感をもっていて、家族も殺されているようなキャラクターなので、地球がその瞳に移り変わることによって怒りやそういった感情が表現できれば良いと思いました。撮影処理も全体的に荒めにしており、感情をむき出しにしているような雰囲気にしています」。
その後キャスバルの顔がフェードアウトして、本作のタイトルロゴが映し出される。「当初はキャスバルの瞳をそのままORIGINの"O"に重ねようとしましたが、地球〜瞳〜Oと円が残りすぎてあまり格好良くならないと思い、位置だけ合わせてこのかたちに落ち着きました」。ロゴアニメーションは、90年代の劇場作品を意識したという。「オプチカル合成の一歩先の技術を手に入れたぞ、という感じで無理くりやっていた時代の雰囲気を表現したくて。前2作のOP映像とは毛色のちがう表現を目指しました」。
●地球が引いてキャスバルの瞳に
●タイトルロゴ
【2】〜【5】その後「THE ORIGIN」の文字が光とともに順に現れる。古き良きアナログテイストなエフェクトを目指していたこともあり、このライトバーストはアメリカのファンクバンド「KOOL&THE GANG」のアルバム「AS ONE」(1982)のジャケットデザインのような雰囲気をイメージしたという
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【6】最後に「THE ORIGIN」の文字の周囲をキラキラしたエフェクトがなぞっていく。このエフェクトは1987年のアニメ『G.I. Joe: The Movie』のOPをイメージして作成されている
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【7】タイトルが全て表示された後の背景の星は、単純に3D的な動きをするのではなく『機動戦士Ζガンダム』の最初のOPのように何層かのレイヤーを引くようなアナログ感のある動きにしている
Cut.3 GUNDAM 40th
続いて、丘に佇むキャスバルと「MOBILE SUIT GUNDAM 40th」の文字がモーショングラフィックスによって躍り込んでくる。このGUNDAM 40thの文字はサンライズから要請があったわけではなく、脇氏が自ら入れ込んだのだという。「ガンダム40周年を個人的にもどこかで祝いたいという思いがありました。もしかしたら、このOP制作をするにあたって一番初めに浮かんだのがこれかもしれません」。とはいえ、あえて尺は短く、大げさにしないくらいのバランスに留めている。
「40th」という文字ははじめ最近流行のフラットなデザインに見えるが、次の瞬間、キャスバルごと3D風に回転する。当初はこういうかたちにする予定はなかったが、作っているうちに『重戦機エルガイム』(1984)のOPのタイトル部分を思い出し、映像に採り入れようと思い立ったと言う。「回転することで平面じゃなかったの? という映像的な面白さが出ると良いかな、と」。
【1】【2】フラットな文字が、その配置ごと回転する。このカットはAfter Effects内で作業を完結させているとのこと
【4】【5】参考にされた『重戦機エルガイム』のOP。初めは平面的だったタイトルロゴに、徐々に奥行きが伸び、立体となって回転する ©創通・サンライズ
Cut.4 シャアとシャア専用ザク
40thの文字が回転した後、キャスバルと入れ替わるようにシャアが現れるが、この作画も本編の素材を基にかなり手が加えられている。「キャラクターの質感については、本編そのままの質感でも良かったんですが、今回は手描きのイラストっぽさ、アナログっぽさを出したかった。昔の安彦良和さんのイラストの感じですね」(脇氏)。
ここでシャアとザクを登場させた意図について、脇氏は「『ジ・オリジン』は一年戦争前史としてのドキュメンタリー色が強い作品だと感じていて、個人的にはシャアの主人公としての存在感が少し弱い気がしていました。だからOPではシャアを前面に出して、主人公だと見せたかった」と語った。それを受け、塚本氏も「個人的な意見ですが、『ジ・オリジン』の後半のシャアは、もうシャアとして完成してしまっているんですよね。一歩引いた感じで感情の起伏もないので、感情の起伏が激しい他のキャラクターの印象が強くなってしまうかもしれませんね」と補足する。
【1】【2】素材を組み合わせた初期のラフレイアウト
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新しい表現を求めCinema 4Dに回帰
冒頭の雲やタイトルロゴ、後述の割れる水差しなど、脇氏が新たに3DCG素材を作成するときはもっぱらC4Dが使われている。元々、3DCGは物理シミュレーションなどに憧れがあって始めたということで、本作中でも手描きで表現しづらい水や破壊などのシミュレーションで印象的に使われている。「専門学校は撮影クラスだったのでAEがメインでしたが、あるときComposition Inc.の緒方達郎さんがC4DとAEの連携を紹介しているのを見て興味をもち、使い始めました」。
就職してから5〜6年はほとんどC4Dを使う機会はなく、AE1本だったという。「AEが大体使えるようになって、演出や監督からの要望も大体AEで何でも返せるようになってきて、ここで何かちがう表現がないかな、と思ったときにC4Dの存在を思い出して会社に導入してもらいました」。
本作でも、AEとC4Dの双方を活用しているが、Cinewareなどの連携プラグインは使わず、オーソドックスにC4Dでレンダリングした連番画像をAEに読み込んで素材として使っているという。「AE上でこういう画面にしたいから、C4Dでこういう素材を用意する、という意識が強いですね」。
Cut.5 シャアの妹・セイラ
シャアの目の端から飛び出したキューブが流れて幼少期のセイラがいる部屋の窓枠になり、そこから病院の建物が展開し成長したセイラが登場する、セイラにフォーカスした一連のカット。「本作は最初から最後までワンカットで繋がっているようにしたくて、何かしら必ず映像的に関連づけるようにしています」。本映像でのセイラは、兄妹の悲しい別れとその後の生き方のちがい、後に再び出会う因縁が印象的に表現されている。
アップで銃を構えるセイラのカットは、争いを望まない彼女も兄とちがう場所でやはり戦いに巻き込まれていく悲しさを演出しているという。「セイラはキャスバルと同じ目つきをしているカットがあって、兄妹だよなぁと。こういう場所にいたら、こういう風になってしまう宿命の兄妹だったという悲しい感じを出したかった。本編を観ている方にも共感してもらえるカットになっていたら嬉しいです」。
●セイラの幼少期から現在へ
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【1】シャアの目から飛び出したキューブが、子ども時代のセイラの窓へ
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【2】そこからセイラの勤める病院の窓に変化。当初はより大掛かりに病院が組み上がる様子を見せることを考えたが、それが見せたいカットではないと思い直し、短めにしたとのこと
●銃を構えるセイラ
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【4】画面右の炎は火炎瓶による爆発にする予定もあったが、少し想定した印象とちがったため、最終的には不使用とした
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【5】ガラスの破片や煙を追加して完成。ガラスの破壊については、薬莢が前方から飛んで割れるイメージだが、演出的に破片を前に飛ばしたかったため、後ろからオブジェクトを当ててシミュレーションしている。「本編素材に既にガラスの割れが描かれているため、その割れ目に合わせてマップを自分で作成して破壊しました」
●セイラの涙
Cut.6 ダイクンの死
セイラの目からこぼれ落ちた涙が、本編第1話で父のジオン・ズム・ダイクンが倒れるシーンで落ちる水差しと重なって砕け散っていくというカット。初めは本編の素材をそのまま使ってみたが、タイミングやパカつき、尺などの理由で、飛び散るガラスはC4D、水はX-particlesで作り直された。「セイラの涙とダイクンの死という同じような悲しい出来事をつなぎ、重ねました」。
【2】C4Dで作られた水差し。背景は、第1話のダイクンのシルエット
【5】色を調整して被写界深度やエフェクトを足して完成
Cut.7 ザビ家の兄弟たち
瓶が割れ破片が飛び散ったところに図形が重なっていき、画面に映し出された地球圏図の前に立つギレンに行き着く。ここからの一連のザビ家のカットは、ザビ家の複雑な人間関係と争いが、リズミカルなカットの切り替えやモーショングラフィックスによって短時間に情報量を多く差し込みテンポ良く表現されている。
また、スペースコロニーの配置図がモーショングラフィックスで組み上がっていくカットでは、オープニングテーマの「メビウスの輪から」という歌詞に合わせ、スペースコロニーの形が一瞬メビウスの輪のようにみえるかのような演出がなされている。「全体として、映像的な説明をしすぎないように、よく観たらこれそうじゃない? と思えるくらいの余裕を残した映像にしたいと思って作っています。最近の作品は画面が完成されすぎていて、完成されたものをただ摂取しているだけの関係性なのではないかという思いもあって、観る人に委ねる部分を作りたかった」。
「あまり映像と歌詞を合わせようという意図はなくて、どちらかというとわざとタイミングをずらしていますね。歌詞や曲で言いたいことを映像で重複させても同じ情報しか入らないというか。別のタイミングで別の情報を入れ込んだ方が、映像的には広がりが出るのではと思っています。それでも合っちゃうことがあるので、最終的にずらしたりもしています」。
●「メビウスの輪」
【3】新たにAEで作られたインターフェイス。ここで流れる歌詞に合わせ、一瞬「メビウスの輪」のように見える
●キシリア・ザビ
【1】キシリアのカットの完成画。火花はAEで追加。前カットのギレンを受けてのキシリアの カットになっており、ここに関しては『ジ・オリジン』より先のファーストガンダム後半の展開を示唆する内容になっている
●それぞれの立場
前篇はここまで。後篇では、脇氏が特に力を入れ、本OP映像のOA直後から話題となった40年前の『機動戦士ガンダム』を思わせるアナログ風のカットを中心に解説していく。